夜空を見上げて | ナノ

≪泥沼の腕に溺れる≫



  P4Uシャドウ真田


「――へ?」


智草は目を瞬かせた。
休日、ソファでのんびり過ごしていたはずが、突然柔らかい感触が硬いものに変わっていった。
暖房による温かい空気はぴんと冷えたものになっているし、何よりも


「……ここ、ドコ?」


全く知らない場所にいた。
自分の部屋でもなければ、何だか禍々しい――少し怖い空間。
ぶるりと身が震える。座っていた椅子から立ち上がろうとした時、耳に最愛の声が響いた。


「起きたか、智草」
「――アキく…………ん?」


勢いよく振り向いた智草は硬直する。
そして何度もぱちぱちと瞬いても見える景色は変わらない。


「どうした。随分とひょうきんな顔をしているな」
「……ど、どこから私は、突っ込めばいいの?」


暫く合わないうちに、真田明彦の容姿は様変わりしていた。
細身ながらに鍛えられた肉体が、今は逞しく筋肉隆々としている。
上半身が露わになっていて尚更それを突きつけられる。

――何故、裸に赤マント……?
と、いうかお肌に凄い傷は入っているんだけど……。

智草は一歩後退る。
格好は可笑しいが、それでも逞しい肌色と成長した精悍な顔つきに心臓は素直に反応してしまった。


「何故離れる。来い、お前が離れては連れてきた意味がない」
「え? 連れてきたって……そう! そう言えばここはどこ!? 私、確か自室にいたし……アキくんこそ海外に行っていたはずじゃ――っひぇ!?」


悲鳴が上がった。
一瞬で素肌に抱き寄せられ、顎先を持ち上げられる。
近付いた吐息と熱に、ぶわりと全身の毛が逆立った。


「アキくっ……!」
「久々の再会だと言うのに随分愛想がないな。ん?」
「っあ、アキくんが、女たらしに……!」


近距離に胸が飛び跳ねる。
久しぶりに聞く声、触れる体温に身体が追い付いてこない。
瞼をぎゅっと閉じると、唇に肉厚な硬い感触が触れた。


「ん、…ふ…」
「…智草……」
「っ〜〜! んぁ、あ、アキく……んっ」


早急に、まるで食いつくすように覆いかぶさられる。
後退しようにも腕が腰に回って動けない。
その腕の感触さえ、何故か足を痺れさせた。

その間にも少し乾燥した舌が入り込んでくる。口の中を荒らす動きに戸惑いを隠せないはずなのに、求められることが嬉しくて身が震えた。
そっと応えるように明彦の首に腕を回す。


「っ、んぁ…」


受け入れた途端に、勢いは加速していく。
空気を取り入れる暇もない程の熱烈な動きに、脳味噌が蕩けそうになっていく。
薄っすらと目を開けた時、智草は違和感に気が付いた。

――違う……?


「っ? ……ッ、んん!」
「は……なんだ。自分から恍惚そうに蕩けて求めてきただろ」
「……アキくん……?」
「ああ、どうした。何故そんな顔をしている」


眼前に浮かぶ明彦の瞳は、不気味なほど黄金に輝いていた。
明彦の瞳の色と違うし、明彦はこんな狂気的な色を持ってはいない。
いつだって挑戦的で、それでいて時々愁いを帯びるけれど、こんな……

智草は身を捩った。
溺れかけていた意識が浮上して、途端恐怖が襲い掛かる。


「何から逃げようとしている。俺のことが嫌いにでもなったか?」
「ち、違うけど……なんかアキくん変だよ! こ、こんな女ったらしみたいなこと言わないし、それに……」
「それに?」
「目が、怖い……!」
「怖い……? 俺がか」
「っごめん。でも、なんか……違うよ!」


明彦から逃れようとしても、当然腕からは逃げられない。
それどころか、明彦の表情すらも次第に歪んでいく。
穏やかに浮かべている笑みを想像させない程、歪な口元。


「あぁ――怯えるお前は可愛いな」
「アキくっ……、んぅ!?」
「こんなに早く気付かれるとは思っていなかったが、これも面白い」
「や、やだ、アキくん、やだ!」


自分の好きな人は、こんな無理やり唇を奪ったりしない。
どんなに精神状態が危うかったとしても、嫌だと叫べば意識を取り戻してくれる。
逃げようとするこの身を力づくで縛ったりもしない。

やっぱり、この人は明彦ではない。
智草は泣きそうになりながら、手を振り上げる。
けれど、そんなか細い手首すら容易に掴まれる。


「痛ッ……!」
「智草、俺は間違いなく真田明彦だ。まあ、お前の知る甘ちゃんな俺ではないがな」
「どういうこと……アキくんはどこ、本物のアキくんをどこにやったの!」


恐怖は消えない。今だって怖い。
けれど智草にとっては、今目の前にいない明彦の身が心配で仕方がなかった。
どうして全く同じ姿、声をしているのかは分からないけれど、とにかく本物ではない。


「本物の俺なら目の前にいるだろう。お前の愛した真田明彦が」
「ちが、う…私の好きなアキくんじゃ…」
「フフ、否定するか。いいだろう。だが、すぐに俺は俺になる」


無理矢理口付けられる。逃げようとしても重なる唇。
鼻を通過していく香りまで明彦そのもので、気を緩めればまた溺れてしまいそうな程熱烈な――また、溺れてしまいそうな……


「ぁ、……」
「構わん、そのまま身を委ねろ。直にお前も俺のものだ……その前に、しっかりと味わわせてくれ」
「や、ぁ…!」


赤い舌が伸びてきて、ぞくりと背筋が凍った。
いや、熱が高すぎてそう感じたのかもしれない。

朧げになる意識の中で、遠くから何かが聞こえた気がした。
けれど、耳に明彦の声が響いて掻き消される。

心地良い声。熱を帯びた吐息。
智草の瞳は揺らぎ――



>言われるがまま、瞼を閉じる →シャドウ真田裏ルート
「ああ、いいぞ。もっと、俺に溺れちまえ。溺れて、俺の腕の中でだけ眠ってるがいい」
「アキくん…ん、ぎゅってして……離れないで……」


>明彦はこんなことしないのだと首を横に振る →明彦救出ルート
「悪いがコイツは目利きが良くてな。俺以外はご遠慮したい身体らしい」
「ばっ!? あ、アキくんも偽物じゃないでしょうね!?」

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