夜空を見上げて | ナノ

≪恩返しと新たな交流≫



「智草、明日久々に飯でもどうだ?」
「あ、ごめん。実は先約があって。夜なら空いてるけど」
「夜は俺が厳しいな。また今度行くか」
「うん!」


3年生になってから、明彦と食事をする機会が少なくなった。
今までは多いと言われればその通りなのだが、こうして断るのは心苦しい。
だけれど、大事な先客があるのだ。

日曜日・昼
智草は駅の改札口でその人を待っていた。


「あれ、篠原先輩?」
「おっひょー! なになに、ゆかりッチ知り合い!? 間近で見るとめっちゃ可愛いじゃん!」
「止めなよ、順平。私が恥ずかしいから」
「ひっど! あー、傷ついたわヒッドー!」


待ち人、来たれり。


「お友だちも一緒だったとは驚いちゃった」
「すみません。一人で寮を出てきたんですけど」


有里湊。ちょうど一週間前に10円を貸してくれた恩人である。
お礼をしたいからと約束付けたのだが、どうやら二人連れがいた。
しかも一人は知り合いだったのだ。


「え、有里くんの予定って篠原先輩となの!?」
「お前……いつこんなイイ人と知り合ったんだよ!」
「ラーメン屋で……」


ちらり、と片目が智草を見やる。
多少気を遣ってくれているらしい。


「私がお世話になったの。えっと、初めまして。篠原智草です」
「知ってるッス! ホラ、よく真田サンと一緒にいますよね!? 彼女じゃないっスよね!?」
「いや食いつき方が気持ち悪いから」
「あはは、アキくんとは良きお友だちってところかな、えーっと……」
「アキくんて呼んでるんスか……ロマンじゃん……。お、俺は伊織順平っス! ジュンペーって呼んでください!」
 

ゆかりの引いたような瞳すら気にしない順平。
明るいキャラクターに智草は、釣られるように笑みをこぼした。
おお!と盛り上がる順平に、ゆかりが溜息を吐く。


「篠原先輩すみません。有里くんの予定が気になるって順平が騒いでついてきて…その、私も……実は気になって」
「いいのいいの。二人はラーメン食べれる?」
「もちっス!」
「じゃあ、三名様ご案内ね」


智草は後輩を連れてはがくれへと足を進めた。
そこでラーメンを待ちながら、先日の出来事を話したのである。


「智草サンって、意外とおっちょこちょいなんっスねぇ。いやぁ、そこが魅力的と言いますか!」
「アンタ、本当にキモいから。でも私も意外です。あ、悪い意味じゃないんですけど!」
「ね〜私も冷や汗びっしょりだったから、本当に助かっちゃった。ありがとうね、有里くん」
「いえ、困っていたみたいでしたし10円ですし」
「その10円の偉大さを知ったのよ」


ことん、と目の前にラーメンが置かれる。
ほくほくと煙が立ち、鼻を擽る良い香りにお腹が鳴りそうになった。


「てか、なんでゆかりッチって智草サンと知り合いなわけ?部活一緒とか?」
「去年寮に来て料理作ってくれたことあるの。桐条先輩が誘ったんだって」
「は!? りょ、料理!? 智草サンの手料理!?」
「そんな大層なものじゃないけどね」


ゆかりはすぐさま首を横に振る。


「いやいや、めちゃくちゃ美味しかったですって! 正直、話貰った時はメンドーだなって思ったけど、あの時ご一緒出来て本ッ当に幸せです!」
「あはは、大げさだなぁ。私の話よりも皆の話を聞かせてよ」


ラーメンを啜りながら、話は盛り上がっていく。
ここで智草は、順平も同じ寮に住んでいることを知った。


「三人とも同じクラスで同じ寮って、不思議な巡り合わせだね」
「言われてみればそうかも。まあ、順平とずっと一緒って言うのは少し気疲れしますけど」
「ちょ、今日の順平くんもうハートブレイクよ!?」
「頑張れ、順平」
「お前は何の害も受けてねェもんな、羨ましいぜ」


そして、大分仲も良いらしい。
三人組の同級生。そして同じ寮に住む仲間。
智草は懐かしさに目を細めた。


「篠原先輩……?」
「ああ、ごめん有里くん。ただちょっと思い出したことがあって」
「思い出したこと?」
「大事な友だちの記憶ってところかなぁ。そうだ、有里くんのことも名前で呼んでいい? 二人のことそう呼んでるのに、有里くんだけ苗字も寂しいし」
「俺は構いませんよ、好きなように呼んでください」
「うん、ありがと!」


部活にも入っておらず、バイトもしていない智草にとって、後輩たちとの交流は楽しい時間だった。

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