夜空を見上げて | ナノ

≪12/24(木) 聖夜に誓いを立てて≫



クリスマスイブ。
ポロニアンモールはもちろん、どこもかしこもクリスマス一色だった。
学校も今日明日をどう過ごすかで話題は持ち切りだ。


「智草、準備できたか」
「うん。あ、マフラー忘れてた」
「夜凍えなくてよかったな」
「その時はアキくんのを奪うからいいの」
「……」


そして智草と明彦もまた、恋人たちの時間を楽しむのである。
放課後はまだ明るいが、ポロニアンモールは綺麗な装飾が施された。
有名デザイナーが今回携わったらしく、辺り一帯が鮮やかな光に包まれている。


「いやぁ、学校出るときの視線は痛いね。恋人がいようと睨みつけてくるアキくんファン怖いわぁ」
「怖いという割に全く抑揚がないぞ……」
「美鶴やアキくんと一緒に居ると、肝っ玉だけは鍛えられるの」
「……苦労を掛けたな」
「今後もかかるから、労わってね」
「……」


段々、美鶴に似てきていないか……?
そう思っても、口には出せなかった明彦である。

モールを回りながら話していると、時間はあっという間に過ぎていく。
太陽はすっかり落ちて、代わりに月が辺りを照らした。
雪が降ればさぞ幻想的だろう。


「アキくんへのクリスマスプレゼンントはね、じゃん!」
「……マフラーに、手袋か?」
「しかも手編みね。結構頑張ったんだから、大切にしてくれると嬉しいな」
「馬鹿だな。当たり前だろ」
「中に手作りのスイーツポテトも入ってるから、後で食べてみて」
「なに!? そ、そうか……!」


明彦は、自分の首に巻いていたマフラーを外して、智草から受け取ったそれを身に着ける。
鼻を擽るのは、何度も訪れている智草の部屋の香りだった。


「……お前の匂いがするな」
「……変態みたいなこと言わないでくださーい」
「なッ!? そ、そういうつもりで言ったわけではないからな!?」
「ふふ、分かってるよ」


智草は、手袋だけが残った紙袋に、明彦が今外したマフラーをいれる。
その様子をじっと見つめた明彦は、懐からプレゼントを取り出した。


「智草、俺からもこれを」
「嬉しいなぁ。開けてもいい?」
「ああ……」


蓋を開けると、中にはイルミネーションの輝きを受けて煌くネックレスが収められていた。
銀色のチェーンに潜っているのは細かく掘られた薔薇。
思わず、明彦を見上げるが、すぐに頬が紅潮して逸らされた。


「て、店主が言っていた。ネックレスには“相手を独占したい”という思いが込められているらしい。別に、それでお前を縛るつもりはないが……」
「……」
「お前を俺のものにしたい気持ちは、今だって変わることはない」
「もうアキくんのなのに?」
「これからずっとだ。ずっと、来年も、再来年も、未来永劫」


明彦の指が、智草の細い掌を目の高さまで持ち上げる。
その甲に、口付けた落とされた。


「そしていつか、この指に通すリングを贈らせてほしい」
「……うぁ……」
「はは、顔が真っ赤だぞ」
「あ、アキくんが、柄にもないこと、言うから」
「そうだな。今までの俺ならこんなこと思いつきもしなかった。……全部、お前のせいなんだからな。しっかり責任をとってくれよ」


熱の籠った瞳に、ぐわんぐわんと脳味噌が揺れ動く。
自分の知っている勇ましい姿とは別の、艶美な様相に喉が焼けそうになった。
触れている手が、口付けされた甲が火傷しそうな程熱く、そして冷たい。


「着けてもいいか」
「う、うん……」


マフラーを緩めると、明彦がそっと手を伸ばす。
後ろで止められたネックレスは、智草の首元に居場所を見出した。


「綺麗だ。……とても、似合っている」
「……アキくん……」
「愛している、智草。お前だけを、これからもずっと」
「……うん」


明彦は立ちあがり、智草の手を引いた。
辺りが盛り上がっていく中で、二人の間に静けさが訪れる。


「……今日は……家で祝うのか」
「仕事が忙しいみたいだから、週末にする予定。寮内ではしないの?」
「アイツらとしてどうする。だいたい、全員揃わないだろ…」
「あ……そっか…」


繋がった手は次第に隙間を埋めるように絡んでいく。
力が、入った。


「……まだ、一緒に居たいと言ったら笑うか」
「笑わないよ……私も、同じだし…」
「多分、無理させるぞ」
「そ、そういうことは言わなくてよろしい……!」
「きちんと日付が変わる前に帰すから、そこは安心してくれ」
「当たり前のこと言わないでよっ、もう……!」


導かれるまま、ポロニアンモールを後にする。
賑やかな雑音から遠ざかって、二人はそっと密やかな夜へと肩を寄せ合った。

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