夜空を見上げて | ナノ

≪12/21(月) 世界で一番の大親友≫



「あ、美鶴見つけた!」
「智草? どうした、今日も元気だな」
「今回も試験トップおめでとう!」
「ああ、ありがとう。毎回、すまないな」


智草は後ろ手に隠していた包みを美鶴へと渡す。
試験が終わり結果が出る度に渡しているものだ。
試験で成果を上げるのは当然。祝い事なんてあるはずもない――美鶴と知り合った後に言われ、愕然としたのが始まりだった。


「私も用意してあるんだ。一緒に帰らないか?」
「うん、もちろんだよ」
「明彦には断っておけよ」
「もう連絡済み。今日は美鶴のために時間を空けるって決めてたからね」


いつも通りの笑顔に、美鶴は無意識な笑みが零れた。
こうして彼女と下校するのも久しぶりかもしれないと、少し振り返る。
思えば、本当に様々なことが起きたものだ。


「今回のこれは、なんだ?」
「カップケーキだよ。バナナと、チョコチップと……後、爆弾を入れてみました」
「なに!? 爆弾だと!? この小さな物体の中にか……!?」


美鶴は慌てながら渡された包みを覗き見る。
三つ並べられたカップケーキのどれに、爆弾が入っているのかと凝視していると、智草からの笑い声が届く。


「本物の爆弾じゃないからね? 爆弾みたいにびっくりするほど、“変な味”って感じかな」
「変な味……それは、美味しいのか?」
「それも未知数! どう、面白いでしょう?」
「……ふふ、そうだな。せっかくだから一緒に食べよう。私の部屋に来るか?」
「いいの?」
「もちろん。実は良い紅茶を入手してな。是非智草と飲みたかったんだ」
「嬉しい! 今日は美鶴とお部屋デートだ!」
「……ああ!」


腕に抱き着いて、智草は歩き出した。
引っ張られるように美鶴も着いていっていたが、すぐに横を歩き出す。

美鶴の部屋までは誰に会うわけでもなかった。
すぐさま紅茶は用意されて、良い香りが部屋を包む。


「私からは二つあってな」
「え? 二つもいいの?」
「もちろんだ。まずは、無難にケーキを買ってみた。祝い事にはケーキは必須だろう?」
「……ワンホール大きくない?」
「そうか? これでも小さいのにしたんだが……」


ドン、と置かれたケーキはおそらく8号だろう。
そもそもどこから出てきたのか。
どうやって送るつもりだったのかを思案したが、すぐにそれは無駄だと智草は諦めた。
美鶴なら、どうとでもする。


「後は……これを」
「……スノードーム? 可愛い〜!!」
「もうすぐクリスマスだろう? 一足先にプレゼントを、な」
「中にいるのフロストくんだ! 今ゲームセンターでも中心にいるマスコットキャラクターなんだよね。知ってたの?」
「あ、いや知りはしないが……前に勝ち取った事を話してくれただろう。だから、好きなのかと思ってな」


前、というのは春先のことだ。
数か月も前のことをこうして覚えてくれる大親友に、智草は心の底から感謝を告げた。


「雪の中にいるなら、夏に飾ってもきっと解けないね。一生大事にする!」
「ああ、そうしてくれ。……ところで、ケーキだが……」
「一緒に食べよう? 食べられない分は」
「送らせよう」
「ありがとう」


二人で座り、ケーキを食べ勧める。
くどくないクリームは舌の上で華麗に解けていき、高級品は違うのだと智草は痛感してしまった。
これは――癖になりそうな美味しさである。


「このカップケーキは……ん? なんだか舌がひりひりするが……美味だな! ブリリアント!!」
「あ、美味しいって思っちゃった? あはは、……予想通りで怖い」


何を入れたかは、秘密である。
暫し美鶴の部屋で談笑しながら、ケーキは一時冷蔵庫へと収められた。
今夜中に届けると言っていたので、もう運ばれているかもしれない。


「ねえ、美鶴」
「ん? なんだ?」
「美鶴は、もう決まったの?」
「……」


その言葉に、談笑を楽しんでいた唇が止まる。
智草は変わらず笑みを浮かべており、次第に美鶴も力なく瞼を閉じた。


「まいったな、明彦から聞いたのか?」
「きっと全部じゃないよ。でも、大事な直面にいるのは、伝わってる」
「……私は、決まっているよ」
「……うん。なら良かった」


智草は、美鶴の頬に手を当てる。
閉じていた瞼を開くと、あまりにも穏やかなそれがあった。


「どんな選択をしたって、どんな未来が来たって。私が美鶴の友だちであることも、その友だちのことが好きで堪らないことも変わらない」
「……ああ、そうだな。変わらない」
「うん。だから忘れないで。私は、美鶴の味方だから。何があっても、何が起こっても、絶対に」
「泣きたくなったら、明彦を捨ておいてでも来てくれるんだろう?」
「もっちろん、任せて! その後のフォローもしっかりしておく!」


くすくすと笑い合う。


「時々な、寂しさを感じることがあるんだ」
「やっぱり、お父さんがいないから?」
「それもあるが……智草が明彦に、と、取られた気がして……な」


笑っていた智草の顔が、硬直する。
しかしすぐに溶けるかのように緩んでいった。
恐らく、酷く残念な顔をしているだろう。


「とんでもなく、嬉しい……」
「そ、そうか? 正直、私もこういった感情は初めてで、…その、だな……。明彦よりも先に会ったのは私なのに、こうも距離が違うと……少し……。もちろん二人が結ばれたのは嬉しいぞ!? た、ただ…こういった時間も、……欲しい」


恥ずかしそうにする美鶴に、智草は飛びつく。
体勢が崩れて、二人でソファに転がった。


「私も! 明日でも早速って気分だし、来年も、その後も、ずっと……美鶴との時間を大切にしていきたい!!」
「ああ。その時は、男子禁制でな」
「当然! こうやってさ、お互い食べ物とか飲み物持ち込もう。女子会しよう」
「女子会……というのか。なるほど!」


その後も、時間を忘れるほどに智草と美鶴は談笑を交わした。

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