夜空を見上げて | ナノ

≪11/19(木) 修学旅行2≫



賑やかな三日目も順調に終わっていった。
美鶴は元の様子に戻り、それは当然他の人たちにも伝わっている。
昨日とは違い、活気があった。


「アイツに何か言ったのか?」
「私じゃないよ。後輩の頑張り、かな」
「……まだ、寂しいと感じるか」


正直に小さく頷く。


「寂しいけど、それ以上に美鶴と分かり合えたから大丈夫!」
「そうか…」
「あ。アキくんと喧嘩したら美鶴のところにお世話になるって決めたから」
「な、なんだと!? け、喧嘩なんてしてないだろ!」
「するかもしれないでしょー? その時は、美鶴が明彦に灸据えてくれるって!」
「お、おい! 冗談じゃないぞ……!!」


その怯えようはあまりにもリアルで、智草は声を出して笑った。
ぱしゃり、と軽快な音が聞こえると、ピースをしている順平と目が合う。

楽しい一日は、あっという間に過ぎ去った。
旅館の料理に舌鼓を打ち、皆で思い出話や恋話に花を咲かせ夜も深まっていった。


「あ、もうそろそろお風呂入り行きませんか……?」
「男性の入浴時間は既に終了しているであります」
「じゃあ行きましょ! ほら、美鶴先輩、智草先輩!」
「ふふ、美鶴お嬢様のお背中は私が流すからね!」
「あ、ああ……」


必要なアメニティは家から持ってきた。
旅館にも勿論置かれていたが、普段使い慣れているものがやはり良い。


「アイギスちゃんって、その格好のままお風呂入るの?」
「完全防水性であり、高温度にも対応可能であります。成分を識別しなければ効果は期待できませんが、十分入浴は可能であると推測されます」
「そうなんだ。せっかくだから私の背中洗ってほしいなぁ」
「背中を洗う? 機械用オイルでも可能なのでしょうか。今すぐ部屋に戻って取りに――」
「あ、あ〜〜智草さん、アイギスって誰かと入るの慣れてないので! 私が洗います!!」
「あ、ゆかりちゃん。だったら私が……!」


わいわいとしながら露天風呂へと足を運んだ。
扉をがらがらと開くと、途端心地の良い硫黄の匂いと温かな空気に包まれる。


「わぁー! やっぱここの露店、ひっろーい!」
「わ、ホント…流れるプールみたい」
「これが“ロテン”でありますか。私には効かない効能ばかりです」


途端、奥から何か水温が響く。
即座に反応したのはゆかりだった。


「誰!? 誰かいるの!?」
「どうした、ゆかり? 何かいたか?」
「もしかして先客かな? 私たち以外にいたって可笑しくないし」


更に、大きな水温が聞こえてきた。


「ねえ、風花ちょっとそっち見てきてよ。お、お化けかもしれないでしょ…」
「え、う、うーん。じゃあ私は、左から回ってみるね」


ゆかりと風花が温泉をかき分けて歩き出す。
残されたアイギスは小首を傾げ、美鶴も腕を組んだままだ。


「美鶴はどう思う?」
「他の客という可能性は否定できないが……アイギス、どうだ?」
「ここは水蒸気が多いため、私のセンサー類はあまり役に立たなそうであります」
「そうか」
「センサー? なんか、良く分からないけどアイギスちゃん凄いんだね」
「センサーは標準装備であり至って正常。“凄い”には該当しないと推察します」
「……?」
「?」


お互いに首をかしげて、不意に可笑しくなって笑うとアイギスは目を瞬かせる。
どうやらあまり感情豊かではないらしいが、それでも智草にとっては新しい可愛い後輩だった。


「温泉はのんびり浸かりたいし、私も見てこよっかな」
「足元に気を付けろよ、智草」
「うん――……」
「……」


振り向いた直後だった。
岩場の影から目が合ってしまったのだ――裸の、明彦と。


「……」
「……」


人間、驚くと声が失われるというのは本当らしい。
じわじわ、じわじわと体が熱くなり智草が叫び声を上げそうになった瞬間、ゆかりたちも彼らを見つけてしまった。


「えっ!?」
「あ、あ……」
「あ、わわ……!」
「ご、誤解だ! こ、これは、事故だ……!」
「だ、黙れ! しょ、処刑する!!」
「短いお付き合いでした」


全てが、一瞬の出来事だった。
明彦だけでなく、湊、順平、綾時もいたのだから事は大きくなり。


「ゆかり! お前は智草を連れて戻っていろ!!」
「はっ、はい! 行きましょう智草先輩!!」
「え? え?? 処刑って何、美鶴!?」
「まっ待ってくれ智草、俺は!」
「黙れ明彦!! 貴様の罪は重いぞ!!」


ゆかりに引っ張られて更衣室へ戻った瞬間、悲鳴が襲ってきた。
その夜、智草が明彦たち男性陣を見ることはなかった。

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