夜空を見上げて | ナノ

≪10/24(土) 青春を謳歌する≫



ぐぐっ…と体を伸ばす。
最近は気合の入っている明彦と共に走ることが増えたからか、以前みたいに骨が悲鳴を上げることはなかった。

病院を出て、近くの花屋さんへと向かう。
花束を見繕ってもらい、足はそのまま路地裏へと向かった。幸いなことに不良たちは居ない。
恐らく、真次郎の事件をきっかけとして立ち入りが少なくなっているのだろう。


「シンちゃん、聞いて。まさかのアキくんが好きだって言ってくれたよ。まさか恋人になれる日が来るなんて……ふふっ」


花束を置いて、近くの階段に座る。
以前、真次郎を探しにやってきたとき、酷く叱られたのを思い出した。


「もしかして、シンちゃんが何か口添えしてくれたのかな」


ついでに美鶴と明彦にもその日中に連絡が行って、二人でこっぴどく怒られた。
以来、絶対に立ち入らないと約束をしたのだが、これは破ったことになるのだろうか。


「長い片思いだったけど、実るとも思ってなかったからまだびっくりしてる。……あーあ、シンちゃんにも直接報告したかったなあ。どんな反応をしてくれるのか見たかったよ」


一緒になって驚くのか。ようやくかと鼻で笑うのか。
ああ、後者だろうな――智草は小さく笑う
病院のコンビニで買ったジュース缶を開けて、静かに飲んだ。


「シンちゃんが寮に戻ったのは、きっと天田くんを助けるためだったんだね。全部聞いた。かっこいいぞ、シンちゃん。頑張ったね……。私も、それを支えてあげたかったなぁ」


野良猫がゆっくりと近付いてきて、その背を撫でると小さく鳴く。
これだけ素直なら支えやすかっただろうに。


「私に出来ることなんて大してないけど、美鶴もアキくんも……支えたいよ。
欲張りかもしれないけど、シンちゃんが大切にしてきた寮の子たちとも仲深めていきたいな。いつか皆で、シンちゃんの料理教室を開くんだ。あ、講師は私が代理ね。一番弟子だし」


ジュースはすぐに空になる。振っても、もう何もない。
立ちあがると、子猫が見上げてきた。


「――智草、此処にいたのか!」
「アキくん……どうしてここに」
「探したぞ、メールくらい返信しろ。……というか、一言くらい声を掛けろ」
「あはは、もう終わっちゃった」


明彦の視線が花束へと向けられて、呆れたように溜息を吐く。
そしてそのまま、子猫を通り過ぎて智草の真正面に立った。


「あまり俺に心配をかけるんじゃない」
「ふふ、承知しました。お兄ちゃん?」
「誰がお兄ちゃんだ!!」


明彦の手を引き、智草は駅へと歩を進める。
一度だけ振り返って、こちらを見つめる子猫に手を振った。
あの花束が、どうか彼に届きますように。


「今日の夕飯何がいい?」
「焼肉の気分だ」
「即答だねぇ……。食べに行った方が良くない? お肉のストックはそこまでないんだけど」


今日から数日、両親ともに検査入院をすることになっていた。
当然夜は不在である。そのことを偶々廊下で会った美鶴に告げると、明彦へすぐに伝わり、これまた夕食を共にすることになったのだ。
親がいなかった際の孤独ではないあの時間が、少しだけ戻ってくる。


「寮の皆はどう?」
「少しずつ立ち直る者は増えてきたな。お前の料理も大分効いたみたいだ」
「そっか、良かったぁ! 美鶴と話してさ、また今度お邪魔させてもらおうと思ってるの」
「まあ、断る理由なんてないだろ」
「あ、一人でも嫌がってたらすぐに教えてね? 押し付けはしたくないから」
「分かった。俺としても、お前との時間をアイツらに取られるのは癪だからな。嫌がってもらっても結構だが……いや、それでお前が傷つくのは本望ではないな。そいつのことを殴ってしまうかもしれない」
「……」


鼻先が当たるほどの距離感に、智草はぐっと押し黙った。
好意を伝えられてから、不思議と明彦の積極性に押されてしまうのだ。
狙っているのではないらしいが、抑圧していたものが解放されてきたのかもしれない。


「あ、あー……ところでサチちゃんはどうしたの?」
「誰だそいつ」
「誰って……。アキくんに前昼食誘った子いたでしょ」
「……ああ、お前が俺を犠牲にした日か」
「酷い言い方!」
「事実だろう。あの時の俺の気持ちを考えろ。だいたい、そのサチという女子は大分前にきっぱり断っている」
「え、そうなの?」


確かに、あれ以来ファンクラブからの呼び出しは受けていない。
一体いつの間にと智草が目を瞬かせていると、明彦はじとっと睨みを利かせてきた。


「お前だって田口とどうなんだ」
「グッちゃん? どうって……」


何故か、沈黙が走る。
そのまま、智草の自宅に着いてしまい鍵を開けた。
少し薄暗く電気を付けようとすると、その手が重なる。
背中から暖かい温もりが伝わってきた。


「あ、アキくん……電気付けたいんですけど」
「一昨日、田口と一緒に帰っただろ」
「だって帰り道一緒だし。アキくんはお呼ばれされてたじゃない」
「だからといって田口はどう考えてもナシだろ。女子と帰るか、俺を待て」


明彦は、意外と嫉妬深かった。
智草としては今までの自分の周りを見返してこいと言いたいところだが、やはり好きな人にヤキモチを妬いてもらうのは少しばかり嬉しかったのである。
腕の中で口元が緩んでしまった。


「聞いたぞ、来週映画に誘われているらしいな」
「待って。何でそこまで知ってるの」
「俺をナメるなよ」
「えぇ……?」
「断るよな」
「いや、前から気になってた映画だし」
「俺と行けばいい」
「…アキくん、トレーニングするってメニュー組んでたでしょ」
「そんなものはいくらでも修正できる!!」


このままでは、田口が罪なく干されてしまう。
智草はお手上げだと手を上げた。


「もー、こんな姿シンちゃんに見せられないよ!!」
「うるさい。だいたいお前がもっと俺に惚れこめばいい話だろ」
「十分惚れこんでるんだけどなぁ。そっか、伝わってなかったのか」
「お、お前からの好意はしっかり受け止めているが、他の男は――っ!?」


後ろを振り返って、その唇へ身を乗り出した。
再び、静まり返る。


「……こうすればいいと思ってないだろうな」
「伝えるのに一番かなって」
「……。カルビ買ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
「あと!」
「あと?」
「……今日、泊まるからな」
「うん、いいよ。…………え!?」

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