夜空を見上げて | ナノ

≪09/19(土) 心に触れあう≫



昼食を摂った後、二人はリビングでのんびりとくつろいでいた。
テレビは現状の台風を中継している番組が多い。
今のところ、大きな被害は出ていないらしい。


「っひぃ!」
「! 大丈夫か?」
「…う、うん……」


午後には落ち着くという話だが、未だ風は暴力的だった。
明彦は開いていた書を閉じて、隣のソファに座る智草へ微笑んだ。


「こういうのがダメだとは思わなかったな。今まではどうしてたんだ? 去年だって台風来てただろ」
「その時はまだ、お母さんいたから…」
「す、すまない。…………おい待て、父親はどうした?」
「えっ!? えっと、仕事が……。ほら、台風があるから帰るのも危ないでしょ? だから泊まり込みみたい」
「そうか……。尚更、心細かったな」
「ううん、今年はアキくんが傍にいてくれるから」


明彦は小さく笑う。


「あんな声出されちゃな」
「う……だからごめんってば!」
「いや……むしろ俺の方こそ悪かった」
「え?」
「大方俺に連絡したのも、悩んだ末だったんだろ? それなのに気付いたのは2時間後だったからな。辛かっただろ」
「……でも、アキくん連絡し返してくれた。今だってこんな天気なのに来てくれた。私、凄く嬉しいの」
「智草……」
「…ありがとう」


二人で見つめ合って、そして恥ずかしそうに口元を緩める。
明彦は口元へと掛かる髪の毛をそっと耳へかけた。
くすぐったそうに目を細める智草に、心臓が高鳴る。


「今度から何かあれば連絡しろ。いつだって行ってやるさ」
「……携帯確認しないのに?」
「今度からはマメにする!」
「う〜ん、携帯を気にするアキくんってなかなか想像できないなぁ」
「あのなぁ…」
「でも」
「?」
「ありがと」
「…あぁ」


今なら、問える気がした。
役目を終えた手をぶらりと下ろして、口を開く。


「……なあ、その……」
「ん。どうかしたの?」
「…有里と、仲が良いのか?」
「へ?」
「だ、だから、さっきも名前で呼んでただろ!」
「まあ、それなりには仲良い方だと思うよ」


バイトも一緒だしねと続きそうになり、智草は口を閉ざす。
そんな様子に明彦は気が付くことはなく、視線をあちらこちらへと彷徨わせた。


「そ、そうか…………」
「それがどうかしたの?」
「いや……ただな………」
「……?」
「…その、だな……」


外のBGMが、少しだけ止んだ。


「イライラ、するんだ」
「……え、私に?」
「違う! あ、違くもないが……いや、そうじゃなくてだな!」
「そうじゃなくて?」
「…有里といい、田口といい……随分親しげにしているから……。だいたい、シンジとはいつ会ったんだ? 俺は知らんぞ……」


口を尖らせる普段では見られない明彦の姿に、智草はくすりと笑みをこぼした。
口を開けば意外と言葉はポンポンと出てきてしまい、明彦はぐっと押し黙る。
智草はそんな明彦に顔を近づけた。


「アキくん、ヤキモチ妬いてくれた?」
「ヤッ!? ち、違う! 別に俺は……俺は……ただ……」


泳ぐ視線は心の動揺を明確に表していた。
智草はほくそ笑み、身を離す。


「ごめんごめん、揶揄った! ね、外の天気も落ち着きそうだからさ。買い物付き合ってよ」
「あ、ああ……」


それから天候は、まるで空気を読むかのように改善した。
買い物に付き合い、一週間分の食材を買い込んだ智草は満足げに真田へとお礼を告げる。

その好意を受けた身で、真田は帰寮した。


「よォ、遅かったな」
「シンジ……お前、いつの間に智草と会ってたんだ」
「あ?」
「料理を教えてもらったと言っていたぞ。俺は聞いてない!」


ラウンジには真次郎しかいない。明彦は無自覚にもむすっと口をとがらせていた。
真次郎はそんな姿に目を点にさせるが、すぐに鼻で笑う。


「なんだ、いっちょ前に嫉妬か?」
「嫉妬だと!? ふ、ふざけるな! 全く、智草といいシンジといい、俺を何だと思っているんだ!」
「……お前、智草に揶揄われてんのか。世も末だな」
「なんだと!?」


嘲笑われているのを見に感じ、真田は顔を真っ赤にさせる。
それは怒りよりも、羞恥だった。
あの時の智草の言葉が心に突き刺さって、やけに胸が騒がしいのだ。
これを目の前の男に言い当てられて、尚更可笑しくなりそうだった。


「鈍いお前もいい加減向き合っとけよ。アイツだって心変わりくらいすんだろ」
「心変わりってなんだ……!?」
「さぁな。俺はもう眠ィから寝るわ」


立ち去るその背中を見つめて、明彦は一人大きなため息を吐く。
――心に確かな蟠りがあった。

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