夜空を見上げて | ナノ

≪09/18(金) 台風直撃の当夜≫



>巌戸台分寮
ラウンジには、風邪を引いた湊を除く全員が集まっていた。
窓を叩きつける雨風が皆を集めさせたのかもしれない。


「この建物、雨漏れしないだろうな? 以前思い切りシャドウの攻撃喰らってただろ」


誰かに疑問を投げたのではなく、ぽろっと零れた呟きだったのだが、これをアイギスが拾った。


「その心配はいらないであります。この寮は他の建物に比べ耐震性・耐候性など優れているとの確認がとれているであります。また、昨日補強いたしましたので、雨漏りならず窓が割れるなどの二次被害は起こらないと考えられます」


淡々と述べられた考察に、順平たちの顔に薄っすらと笑顔が浮かぶ。


「ってこたー、この中にいりゃ安心ってことか!」
「でも、やっぱり窓とか揺れると心配になりますよね…」


その瞬間、雷が近場で鳴ったと思わせるほど巨大な轟音が響く。
窓が風によって揺れ動いたらしい。


「きゃっ?! …んもー!」
「なになに〜ゆかりッチてば怖いの? 俺が抱きしめてやろうか? あ、でも俺にはチドリンがいるし〜。これって浮気になっちゃう? なっちゃうのかなぁ〜?」
「なにコイツ。チョーむかつくんですけど……」
「あはは…」


美鶴は騒ぐ後輩たちに微笑みを浮かべながら、用意していた紅茶を飲む。
ほんのりと身が温かくなった。


「だが確かに、誰かがいるのといないのとでは安心感は違うだろうな。日中もこの天候ゆえに暗いとなると、気分も滅入る」
「お、桐条センパイもっすか?」
「独りだったら、少し不安だったかもしれないな」
「で、ですよね! 不安になりますよね?!」
「あ、あぁ……」


ゆかりの勢いに少し圧倒されながらも頷くと、ゆかりは満足そうにしていた。
そしてまた、2年生同士で楽しそうに盛り上がる。

グローブのメンテナンスをしていた明彦のポケットから、携帯がぽろりと落ちた。
戻そうと拾うと、なにやら点滅している。


「真田先輩、どうしました? 連絡でも入ってました」
「あぁ……2時間前……」
「……少しは携帯確認しましょうよ」
「止めとけ。アキはこういう奴だ」


うるさい、と普段なら返すところだが、明彦は目を瞬かせた。
着信履歴には智草の名前が表示されている。


「どうした?」
「いや…悪い、少し席を外す」


明彦は立ち上がり、自室へと戻って携帯に目を落とす。
何度も指が動いては止まり、指が動いてはまた止まっていた。


「……悩んでいても仕方がないか」


結局、彼女へと掛けなおす。
数コールして出た声色は、予想していたものとは遥かに違っていた。


『――あきくん…?』
「悪いな、気付かなくて。どうした、何か用か?」
『ぁ…ううん、なんでも、ないんだけど……』
「智草……?」


普段なら明るい声がこちらを楽しませてくれる。
しかし今機械越しに聞こえる声は、小さく震えており、とても智草だとは思えなかった。


『ご、ごめん…その、電話したの、もう、解決したから……』
「そうか? それなら良いんだが……」
『だ、だからもう切る――っひぎゃっ?!』
「! お、おい、大丈夫か…?」
『だい、じょぶ…っ…』


明らかに大丈夫ではない様子に、只事ではないと明彦は察した。
携帯を握る手に力が入る。


『…っごめ、…んでもない……』
「なんでもないわけがないだろう。声が震えている。一体どうしたんだ」
『ッ……』
「言わないと分からないぞ」
『……っ、…』
「まいったな…。何をそんなに怯えて――……」


「だが確かに、誰かがいるのといないのとでは安心感は違うだろうな」――美鶴の声が、脳裏をよぎる。
窓へ視線を向けると、ガラスに雨粒が叩きつけられて外の景色が見えなかった。


「…もしかして……怖いのか?」
『ッ……』


 ――独りだったら、少し不安だったかもしれないな


「お前、まさか今一人なのか!?」
『っ、…』
「……1人なんだな?」
『…き、く……アキくんっ…!』
「っ今すぐそっちに…!」
『ダメッ!!』 
「っだが…」


手にした上着が、どうするのだと揺れて問いかける。
明彦はぐっと唇をかみしめた。


『だめ……今は、…アキくんの声を、聴かせて。アキくんの声、……落ち着けるの……』
「……本当に、いいのか」
『…うん…』
「…明日、そっちへ行く。いいな?」
『でも……』
「そんな状態、放っておけるか。なに、これくらいの雨風はどうということないさ。それにこっちもこんな天気じゃすることないしな」


リーダーである湊も体調を崩している。
こんな状態では、タルタロスの攻略には明日もいけないだろう。
何より、彼女が一人であるというなら放っておけるはずがなかった。


「だから、今は…その…俺と話して落ち着けるなら、いくらでも相手になるから」
『アキくん……ん、…ありがと』
「あぁ…」

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