夜空を見上げて | ナノ

≪07/24(金) 心弾むしおり≫



お休みが終わってしまった。
憂鬱な気持ちを隠せないまま校門をくぐろうとした時、後ろから声を掛けられる。
聞き間違えるはずもない、大好きな声だ。


「アキくん! おはよう!」
「あぁ、おはよう。ほら、これ」


差し出されたのは紙袋だった。
一瞬なんだろうと首を傾げてしまいそうになって、ロゴが目に入り思い出す。


「……あぁっ、屋久島土産!!」
「…自分で頼んだのに、忘れてただろう」
「あはは…。まさか本当に買ってきてくれるとは思わなかったから」
「なんなら返してくれてもいいんだぞ?」
「ありがたく頂戴いたしまーす! ……お、おお! 屋久杉せんべいだ!!」


中身を覗くと、よくテレビでも見る包装紙が目に入る。


「迷ったんだが、売れ行きも断トツだと言うしな。せっかくだから、その地のをと思って買ってきたんだ」
「嬉しい! これいつか食べてみたいって思ってたんだ!! 嬉しいな〜ありがとう、アキくん!」
「あ、あぁ…。そんなに喜んでくれるとはな…よかったよ」


明彦へ再度お礼を告げると、照れ臭そうにしていた。
ここで、「アキくんから貰えるものは何でも嬉しいよ!」と言えばどんな表情が返ってくるのか。
試していたい気持ちもあったが、明彦の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。


「ふふ、結構入ってるんだね! お昼に一枚食べよっと。アキくんも一緒に食べようよ」
「いいのか? お前の為にと買ってきたんだがな」
「こういうのは1人で食べるより2人。いいでしょ?」
「…あぁ、そうだな」
「今からお昼が楽しみだな〜」


一枚に留めておけないかもしれない。
その時はアキくんに止めてもらおう、と智草は紙袋を抱きしめた。
いい加減教室へ向かおうとしたところを明彦に引き留められる。


「…あ、あの…だな…」
「ん?どうしたの?」


歯切れが悪そうだ。しかも、先程のように少し頬が赤らんでいる。
少しだけそれが伝わってきて、胸が騒がしくなった。


「…実は、もう1つ渡したいのがあってだな…」
「えっ。そんな、さすがに悪いよ。こんな素敵なお土産貰ったのに、他にまでだなんて」
「いや、それは親御さんにもと思って買ったんだ。だから、これは智草に対してというか……個人的に渡したいと言うか……」
「…アキくん…」
「だ、だから…受け取れ!」


ああ――本当に、アキくんってば……。

乱雑な口調ながら、丁寧に手が伸ばされる。
その中に収められていたのは、短冊だった。


「しおり……?」
「お前、本好きだろ。だから、こういうのもあった方がいいかと思って、だな……」
「…アキくん、ありがとう。凄く嬉しい。大切に使う。ずっと、いつも、これ使わせてもらうね!」
「……あぁ」


屋久島の木々に囲まれた一輪の花。
丁重に描かれたイラストは智草の心を穏やかにさせた。


昼休みが過ぎ、期末試験の結果が張り出される。
普段は結果に興味もわかないが、今智草の機嫌は最高に良かった。


「〜♪」
「……」
「♪〜…♪〜…♪…ん?」
「……」
「あら」
「どうも」
「どうもー」


鼻歌を歌いながら結果を見に行くと、有里と出会う。
智草は鼻歌を聞かれた恥ずかしさもなく、軽快に彼に近づいた。


「湊くんも成績見に来たんだ?」
「まあ」
「どうだった?」
「普通です」
「とか言ってトップなんでしょ〜」
「…なんで知ってるんですか?」


ふふん、と智草は指を立てた。


「さっきすれ違った後輩が言ってた。『有里ヤバすぎだろ…』って」
「なるほど」
「凄いね」
「先輩も、2位独走で凄いと思います」
「そう? でも美鶴には勝てないからさ〜」
「………」
「あ、私もう行かなくちゃ。アキくんとお昼のお約束してるの。それじゃあね、湊くん! 今度一緒にお祝いでもしましょ!」
「あ、はい…」


ちらりと掲示板へ目を向けると、3年生のトップには美鶴の名前があり、下には智草の名前が記載されていた。
そして2年生のトップには有里の名前だ。
何故か、誇らしかった。

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