夜空を見上げて | ナノ

≪06/16(火) 非公式ファンクラブ4≫



名前も知らない女子と、昼食を共にするハメになってしまった。
明彦は心の中で悪態を吐く。

だいたいなんなんだ、智草のやつは。
俺がこういうの苦手だと分かっているのに、あえて差し出す真似をして……。
というか、なんであんなに怒ってたんだ? 何か悪いことしたか?
それに購買に行くと誘ったのはアッチのくせに、田口なんぞを誘って……。

そもそも、いつから田口は智草とあんな親しげになったんだ?
なぜ彼女の名前を呼ぶ? なぜそれに智草も何も言わないんだ?
いや、彼女はなんだかんだと交流が深い方だから、これぐらいは普通なのだろうか。
…………今頃、2人で食事を共にしているのだろうか……。


「あ、あの真田くん!」
「……ん、あ、あぁ…なんだ?」
「えっと、口に合わなかった……かな?」


智草よりも随分と小さいサチが、首を傾げてこちらの様子を窺っている。
なんとなく、もしかしてこれが可愛いということなのだろうかと明彦は感じ取った。

真丸な瞳は不安げに揺れていて、唇も少しだけ開いてるのが尚更庇護欲を掻き立てそうだ。
緊張しているのか掌を合わせて、指を絡めていた。


「……いや、」
「そ、そっか!それなら良かった…!」


正直、味なんてまったく覚えていない。
まず一番最初に手を付けたのはなんだったのか。
今のみ込んだのが何だったのかすら覚えていない。
だから「いや、よく分からない」と答えようとしたのを彼女は勘違いしたのか、「口に合う」という意味で受け取り安堵した。


「もしかして真田くんの嫌いな食べ物あったんじゃないかとか、
口に合わなかったんじゃないかと思って、ちょっと不安になっちゃった。
でも良かった……。あ、真田くんの苦手な食べ物ってなにかな? 聞いてもいい?」


嫌いな食べ物か……。
そういえば、智草の嫌いな食べ物は何なのだろうか。
よく食事を共にするが、外食が多い上に行く場所も決まっていて、分からない。
だが弁当のおかずはすべて食べているし、購買にある弁当もぺろりと食べている。

もしかして嫌いな食べ物はないのだろうか。
自分は彼女のことを、意外と何も知らない。


「えっと…真田くん?」
「…ん、なんだ?」
「……あの、ごめんね。なんだか無理に誘って……」
「いや、……」


気にしてない。と答えるのが正解なのかもしれないが、どうもそんな言葉は口から出せなかった。
相手が見知らぬ女子だからか、好意を前面に押し向けてきているからか…。
確かに他の取り巻きとは少々違うが、それでも迷惑なことには変わりない。

そもそも自分は、なぜ彼女と食事をとっているのだろう。
本当なら、今頃智草と購買で買ったパンを突っついているはずなのだ。
よりにもよってその智草が俺を売るような真似をしてきた。

……もしかして、俺が嫌いなのだろうか?
いや、彼女は対人の好き嫌いは割とハッキリしている方だし、それは違うだろう。

それならばなぜ?
今まではこういうのも全部放置しておけばいい。好きに対処すればいい。ただし、あまり泣かすな。とだけ言われてきた。
それがどうして突然、今目の前にいる名前も知らない女子の弁当を受け取れだなんて言うのか……。


「……田口か?」
「え?」
「…いや、なんでもない」


もしや彼女は、実は田口と昼食を共にしたかったのだろうか?
だが、それならば何故自分を誘ったのか。


「…………」
「…………」
「……真田くんって、…さ」
「…ん?」
「…ううん、なんでもない。お弁当食べてくれてありがとう! もうすぐ鐘鳴っちゃうし、もう行くね。今日の部活も頑張って。応援してる!」
「あ、あぁ……あ、オイ!」
「? なに?」
「ありがとな」
「! ……っうん!」


……彼女の名前はなんだっただろうか。
いや、そんなことより智草は無事パンを買えたのだろうか。
あそこは売り切れるのが早いから、何も買えないという事態も少なくない。
腹を空かせていなければいいが……。

明彦は満たされないまま立ちあがった。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -