夜空を見上げて | ナノ

≪06/13(土) 柔らかく微笑む青き風≫



驚くべきことに、明彦の言葉は見事に現実となった。

今まで意識不明だった学生が、起きあがったそうだ。
世間では無気力症かと騒がれてはいたものの、この目覚めでそれも怪しくなった。
一部では心配され、一部では訝しげに思われている。

けれど智草にとってそれはそこまで大きな問題ではなかった。
今一番喜ぶべきことは、目の前にその少女がいるということなのだから。


「本当に良かったぁ」
「…あの、…心配、してくれたんですか…?」
「久々に会って何を言い出すかと思ったら、当然でしょ! 普通、音信不通の後輩を心配しない先輩いる? いないから!」
「でも私なんて……。ううん、ありがとうございます」


山岸風花。
智草にとっては可愛らしい後輩である。
以前と変わらず柔らかく微笑む彼女に、自身の心が癒されるような感じがした。

あの日、明彦から彼女について尋ねられてから数日。
行方が見つかったのはいいものの、疲労が集ってか身体が本調子ではなく。
検査入院という形で病床にて横になっていたのだが、遂に復学したのである。
更に驚くことに、不仲であった同級生といつの間にか親密に話す仲にまで発展。

何があったのか、それを智草に聞く勇気はなかった。
訊ねても困った表情をさせるだけだと、なんとなく今までの同期との付き合いで察していたからだ。


「もう身体の方は大丈夫なの?」
「はい。ちょっとだけ…疲労感はあるけど、大丈夫です。……あの、実は篠原先輩に伝えておきたいことがあって……」
「ん、なあに?」


少し恥ずかしそうに、それでいて申し訳なさそうに身体を捩る。
可愛いなぁ…なんて久々に見たからかより一層思いながらも、首を傾げて待っていると、彼女はゆっくりと口を開いた。


「私、今日から寮に移ることになったんです」
「え? 寮って」
「だから、もう1人にならなくても良くて」
「そっか! 良かったじゃない!」
「はい。…私のこの力が、皆さんのお役にたてるなら…」
「ん?」
「ぁ……いえっ、なんでもないんです! あ、あの、そういうことなので家は空けますね」
「うん。もし何かあったら、今度はちゃんと言ってね」
「…はい、ありがとうございます」


あぁ、可愛いなぁ……。
ゆっくりとした足取りで遠ざかる彼女の背中を見つめながら、ふと思考が切り替わる。


「力かぁ」
「――智草」
「美鶴!」


人の背中を見ていたはずが、自分の背中も見られていたらしい。
背後から声をかけられ振り向けば、美鶴が立っていた。
ちらりと遠くにある風花の姿を一瞥し、再度視線を智草に移す。


「山岸とは知り合いだったらしいな」
「うん、彼女の所属してる部活によく顔出してたから」
「部活に?」
「そう。主に先生との雑談メインだけど」


部活入ってないし。と最後に言葉を添えれば、美鶴は眉を下げて笑うだけだった。


「良ければこれからも彼女と仲良くしてやってくれ。私たちが急に接するより、君から“先輩”に対しての緊張を解してほしい」
「やっぱり山岸さんが言っていた寮って、美鶴のとこだったのね」
「あぁ。……智草、彼女から何を聞いたのかは知らないが、あまり深く考えるな」
「分かってるよ」


分かってる。
智草は再度、自分にそう言い聞かせた。
そんな気分じゃないのに肩をすくめて、冗談めいて笑みをこぼす。


「それ、前から何度だって聞いてるもの!」
「ふ…そうだったな。さて、私はそろそろ帰るが……」
「では、ご同行させていただきますよー美鶴お嬢様!」
「頼もしい限りだ。行こうか」
「ふふっ、りょーかいっ」

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -