Protect you. | ナノ

07


 ぐっと身体を伸ばす。銃のメンテナンスをしていると、エアリスがひょっこり顔を出してきた。


「お〜い。今日、暇?」
「ご覧の通りメンテナンス中よ」
「一緒にお菓子、作らない? リーフハウスのみんなに届けるの」
「賛成だけど材料あるかしら。この前エルミナが使い切ったって」
「だから、お買い物! ね?」
「……分かったわ。すぐ向かうから待ってて」
「はーい!」


 グロスで磨いたパーツを嵌め込んでメンテナンスを終える。腰のホルスターにしまって、剣を片手に部屋を出た。今日はいい天気。昨日久しぶりに、たっぷり刺激的に動いたからか体も心も爽快な気分だった。


「ねえ、せっかくなら多めに買ってもいいかしら?」
「もちろん!」


 クラウドって金欠らしいから、少しくらい分け与えてあげましょ。一応後輩ってことになるしね。ティファも疲れ気味みたいだし。ジェシーの話によれば、今日が作戦決行日みたいだからデザートで英気養ってくれるといいのだけれど。


「ナマエ、楽しそう。いいことあった?」
「そうね……楽しいわよ」
「なんだか妬けちゃう!」
「ふふ、エアリスが一番だから安心してちょうだい」
「わーい! 暫くは、わたしだけのお姉ちゃん、ね?」
「ええ」


 二人で買い物をしていると、ぞわっと背筋に悪寒が走る。剣へ手を伸ばし他と同時に、目の前にローブで身を包んだ浮遊物体が現れた――フィーラーだ。エアリスがいうには星の運命の番人、らしい。人の邪魔をしてきたり、かと思えば手助けもする奇妙な存在。直接攻撃を仕掛けられたことはないし、モンスターとはまた違うみたいだけど――。
 どうやらフィーラーは、他の人たちには目視できないらしい。戦闘を始めてしまえば怪しい人になるのは間違いないので、エアリスの手を掴んで駆け出した。けれど、家へ戻ろうとすると道を塞いでくる。


「邪魔よ!」


 剣で斬ろうとすると、フィーラーが大量に私へ襲い掛かってきた。エアリスと繋いでいた手が離れる。まるで荒波に揉まれるように、次第に距離が開く。


「エアリスっ、今日は出歩かないで! 私は大丈夫だから!」
「ナマエ!」
「自分で歩けるわ、ちょっと押さないで!」


 エアリスの姿が見えなくなってようやく解放される。何よと文句を告げると、フィーラーが追い立てるように背後から背中を押してきた。どうやら早く行けと言うことらしい。導かれるままに走っていくと駅へ向かっていることに気が付く。まさか、私を電車に乗せようとしている? 分かった分かったと手を振ると、まるで忠犬のように大人しくなる。まったく、意味が未だに分からないわ。

 でも乗らないと駆け込み乗車をさせられそうなので、足を踏み入れる。電車は動き出し、すぐIDスキャンが入った。そして何故か立て続けて臨時IDスキャンまでも実施され――


『手配IDの疑いあり』


 窓から小型警備兵器が突入してきた。これには当然乗客は慌てふためく。予想していなかった展開に戸惑っていると、奥の車両から次々の乗客たちが流れ込み、銃声音が響いた。どうやら後方車両で戦闘に入っているらしい。目の前に立ち塞がった兵器を叩き落として波へ逆らうと、奥に見知った三人組を捉えた。
 先頭で兵器を斬りつける金髪姿に何かと縁があるわね、と拳銃を取り出す。背後から近づく兵器へティファの攻撃が向かう直前に撃ち落とすと、三人が一斉に振り返った。


「ナマエ!?」
「おめえ、どうしてここにいんだあ!?」
「……」
「あら、クラウドは無言? せめて名前でも呼んでちょうだいな」


 バレットとティファに同行しているってことは、クラウドも大きな作戦とやらの同伴者らしい。再び窓から侵入してくる兵器に、私までお尋ね者になった気分だった。


「仕方ない。駅は包囲されているはずだ。飛び降りよう」
「速度を落とせば出来ないこともないわね」
「あんたは戻れ」
「今更? もう渦中に飛び込んじゃった」


 それに、恐らく別れたとしてもフィーラーにまた押し流される気がする。きっと此処でクラウドたちに会わせようとしていたのではないか。せめて、力技じゃなくて喋ってほしいものだけれど。


「バレット、扉を壊して。非常停止ボタンを押すわ」
「だ、だがよぉ……。ナマエには関係のねえ話だろ? おう、そうだ! ナマエは来んな!」
「私も同感だよ。すっっごく危ないから、ね?」
「残ってこの子たちに集中砲火浴びせられたらどうするの? バレットたち、私のこと助けられないでしょ?」
「そ、それはよぉ……」
「いいから早くしてちょうだい」


 数に限度がないのかってほど襲い掛かってくる上に、何せ車内だから狭い。クラウドが大剣を振るう度に破損していく車両が、可哀想になってきた。


「撃たないなら私がするわよ」
「あああ待て! 俺がやる!!」


 拳銃を扉へ向けると、バレットがようやく動いてくれた。耳を劈く射撃音と足蹴りによって扉が開かれ、壁際に設置された停止ボタンを押す。急ブレーキがかかった。


「バレット、ティファを連れて先に行け」
「お、おう!」
「クラウドはどうするの?」
「ここを片したら追う」
「よぉし、行くぜ……行くぜ〜……!」


 ティファを抱えたバレットが飛び降りる。すぐに姿が小さくなった。車内に残る兵器はもう数少ない。この分だと一人で難無く一掃できる。


「クラウド、私が援護するからあなたも先に」
「結構だ」
「え? ちょ、やだ、きゃっ!?」


 お腹に腕が回され、あっという間に身体が浮く。視界の奥で電車が遠ざかり、叩きつけるような激しい衝撃に受け身を取れず目を瞑ると、身体が強く抱きしめられた。ぐるぐると回転しながら、ようやく勢いが落ち着く。


「平気か」
「っええ。でも一言くらい声を……ぁ……」


 少し文句を告げようと上体を起こすと、クラウドの顔が吐息のかかる近距離にあって言葉に詰まった。長い睫毛が柔く伏せられていて、その奥で魔晄の瞳が密やかに煌いている。薄めの唇に視線が落ちて、意識が惹かれる。中性的な麗人に見惚れていると、白い肌がほんのり赤みを増していった。


「ナマエ……その……」
「っご、ごめんなさい!」


 揺れ動く瞳は戸惑いと羞恥を孕んでいて、咄嗟に体を起こす。勢いが余って尻もちをついてしまい、クラウドの手が差し伸べられた。使い古したグローブを握って立ち上がる。


「その、怪我、してないか」
「…クラウドのお陰でね。でも、せめて一言くらい欲しかったわ」
「心の準備を待つより早いと思ってな」
「躊躇してたのはバレットでしょ?」


 怖くないと言えば嘘になるけれど、そもそも飛び降りようとすらしていなかったのにバレットと一緒にされるのは少しだけ拗ねそうになった。


「……あ、そう! ビッグスたちは? 別行動なのかしら?」
「ビッグスは先に潜入。ジェシーは今朝足を挫いて作戦には参加していない。ウェッジは留守番だ」
「足を? 大丈夫なの?」
「問題ないだろ。……それより、あんたはどうして電車に? 上に用があるのか」
「え? ……そんなところかしら」


 まさか浮遊物体に案内されました、なんて言えない。濁しながら、電車の進行方向とは反対側を向く。先に飛び降りたバレットとティファの姿は見当たらない。ブレーキを掛けたといえども結構な速度だった。早めに合流しないと。


「行きましょう、クラウド」
「待て! あんた分かってるのか。この作戦は――」
「魔晄炉爆発、でしょ? 次はどこかしら」
「分かっていてついてくるのか。あんたはアバランチじゃないんだろ」
「乗り掛かった舟よ。それに引っ張ったの、クラウドじゃない」


 にっこり笑うと、引く気がないのが伝わったのか、クラウドが肩を竦めて首を横に振る。どうやらご理解いただけたらしい。


「あまり俺から離れるな」
「守ってくださるのかしら」
「あんた、家に待ってるやつがいるんだろ」
「……ジェシーね?」
「まあな」


 もう、お喋りなんだから。

 レールに沿って走っていくと奥からバレットの射撃音と叫びが聞こえてくる。バレットは声が大きいから良く悪くも目立っていて、今回の場合は探しやすくて丁度良かった。合流後、同行する旨を伝えると二人の表情は暗くなる。ここで別れる方が危険だと丸めこんで、目印を頼りに奥へと進んでいった。
 壱番魔晄炉の次は、伍番魔晄炉を狙っているらしい。頭の隅で、エアリスの身を案じる。大人しく家で待っていてくれるといいけれど……その間にタークスが来ていたらどうしよう。早めに片付けてお菓子作りもしないと。途中までしか買えてないけど、あの後エアリス買ってくれたかしら。

 スラムの太陽――四番街スラムの照明を落として電力を確保しながら先へと進む。下の人たちはさぞ驚いていることだろう。心の中で軽く謝罪だけはしておいた。


「すげえファンの音が……」
「おじけづいたか」
「誰が! てめえの細っこい体が吹き飛ばされねぇかってこっちは!」
「もう、急いでるんでしょ?」
「おう! つ、ついてこい!!」


 巨大なファンがいくつも壁に設置されている。なんとか鉄パイプが支えになってくれるけど、中々な強風が猛烈な勢で襲い掛かってくる。足場と鉄パイプが持つかも心配だけど、ちょっと足を上げただけで吹っ飛ばされそう。


「あ」


 ぐらっと下半身がバランスを崩した途端、手首を掴まれる。顔を上げると、前髪が激しく揺れ動くクラウドの姿。


「来い」
「っ…あ、りがと…」


 同じように手首を掴んで、一歩一歩踏み出す。ようやくファン地帯を抜けると、バレットと一緒になって大きく吐息を吐き出した。髪の毛を整えていく。


「助かったわ。さすが男の子!」
「子は余計だ」
「ふふ。立派な男性だものね」


 頼りにしているわ、と背中を叩くと気まずそうに視線が逸らされる。もしかしたら照れてるのかもしれない。揺れるバスターソードが先導してくれた。


「ナマエとクラウド、すっかり仲良しだね」
「そう見える?」
「うん、バッチリ」
「ティファこそ、昔馴染みなんでしょう? ゆっくり話は出来ているのかしら」


 訊ねると、小さく頷かれる。


「クラウドが来てからティファ嬉しそうだもの。良かったわね」
「え、そ、そんな! そんなこと……」
「ティファ?」
「……なんでない! 巻き込んじゃったからには、ナマエのことしっかり守るから!」
「ふふ、期待しているわ」


 道中で先に潜入していたビッグスにも出会い、大層驚かれた。巻き込んで悪い、と酷く悔やんでいる様子だったけれど首を横に振る。魔晄だまりは近いと気合を入れて最後の扉を開けて一歩足を踏み入れた途端、クラウドの様子が変わった。


「クラウド?」
「おい、大丈夫か!」


 以前と同じように頭を抑えながら苦し気にするクラウドの顔を、ティファが覗き込む。


「ティファ……」
「うん?」
「……いや、なんでもない。行くぞ。この先だ」


 クラウドの後に続いて奥へ進むと、お目当ての場所に到達した。リモート式の爆弾を設置する。タイマーに影響されないのは気持ち的にも楽ね。後は脱出ポイントへ戻るだけ――のはすが、小型兵器が数体目の前に現れ、突如としてホログラムが浮び出す。


『薄汚いネズミども、よく来たな!』
「ハイデッカー。治安維持部隊の統括よ」
「軍の大将か!」
『貴様らの悪行はミッドガル中に放送されているぞ』


 再び浮かび上がったホログラムはニュース映像を流していた。監視カメラには、壱番魔晄炉爆破に立ち会ったメンバーの様子が捉えられている。そこには、クラウドも映っていた。


『不満を溜め込んだ市民にとっびきりの娯楽を提供してもらおう。クライマックスは――我が社の誇る最新鋭の大型機動兵エアバスターによる公開制裁だ! ガッハッハッハ!!』


 どうやら監視され続けていたらしい。それにしても、笑い方がどうも癪に障るわね。



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