Protect you. | ナノ

08


 ハイデッカーは、私たちを捕獲したあと完全武装したエアバスターと戦わせたかったみたいだけれど、道中でエアバスターの部品を一部破棄させることに成功した。ブリッジまで辿り着くと、待っていましたとばかりにホログラムが浮かぶ。今度は、プレジデント神羅。


『君は、ソルジャーだな』
「元ソルジャーだ」
『ソルジャーは死ぬまでソルジャーだ。まあ、役に立たなくなる者も多いが。ソルジャーの死因で最も多いのは劣化による自己崩壊。データは未公開だがソルジャーなら皆、知っている』
「もちろんだ」


 思わず、クラウドの様子を窺ってしまう。劣化による自己崩壊? なによ、劣化って。まるで物みたいな言い方に不快感が沸き起こる。クラウドを、ザックスを何だと思っているのか。


「こっちは無視かよ!」
『ふん。君の話はだらだらと長い。そんな予感がしてね』
「てめえらの悪行を数え上げたらいくら時間があっても足りねえ!」
『足りないと、嘆く者ほど浪費する』
「そう、それよ……浪費について話そうじゃねえか」


 バレットの手が、ホログラムを浮かび上がらせているうちの一体を掴む。


「魔晄の正体はライフストリーム。ライフストリームは星を流れる血! その血を神羅が吸い上げ浪費している! このまま続けたら星はどうなる!?」
『ふむ。吸い上げているのは確かに我々だ。だが浪費しているのは誰だろうな? 魔晄の本質など誰もが知っている。それでいて、見て見ぬふりをしている。そう考えたことは?』


 プレジデントの悠々とした回答に、バレットは怒りを露わにさせた。


「んなワケあるか! 仮にそうだとしても、てめえらの洗脳だ!!」
『そんな魔法は使えんよ。さて、スラムの道化師諸君。君たちは今から敵国ウータイの手先だ。市民の戦意を盛大に燃やしてくれ』


 ウータイ? まさか、戦争を始めるきっかけでも作ろうというの? また兵士を繰り出して、大勢犠牲を出して……。そんなこと到底許された話じゃない。
 私たちの動揺も捨ておいてプレジデントは姿を消し、代わりに再びハイデッカーが現れる。空から降ってくるのは――エアバスター。巨大な体躯が通路の真ん中に着地して、私とクラウド、ティファとバレットとで分断させてきた。

 
『爆破のタイミングも、神羅が決める。さぁ、ショーの始まりだ! ミッドガル全市民の敵アバランチ。ウータイとの共謀による罪状は明らか。貴様らを即刻、粛清する!』
「――……許さない! ぜんぶ 大嫌い!」


 ティファの珍しくも悲痛の叫びが耳を震わせる。クラウドは大丈夫だろうかと横目を流すと、再び頭に手を当てて顔を顰めていた。こんな時にまで頭痛? 


「クラウドしっかり! 戦える?」
「っ……当然だ」


 剣をお互いに構えて、巨大な戦闘兵器へと向き合う。もしかしたら、クラウドは調子が悪いのかもしれない。そんな素振りを見せない戦い方ではあったけど、自尊心高そうだから我慢していたのかも。
 前方を警戒しながらクラウドをちらりと観察すると、不思議なことに視線が絡み合った。すうっと、目が細められる。


「無事にあんたを、家まで送り届けないとな」
「……ふふ。期待しているわよ、ナイトさん」
「ナイト?」


 こんな時まで、私の心配。自分の体調を優先してほしいのに。でもなんだか嬉しくて、そんな返し方をしてしまった。
 さあ、いつまでも構えているだけなんて性にあわない。近くを浮遊する小型兵器へ向けて蛇腹を伸ばし軽やかに破壊していく。道を開ければ簡単、今エアバスターの意識は反対側のティファたちに向いている。その隙にと関節部分を狙って駆け出す。


「な、おい! 先行し過ぎるな!」
「なら、しっかりついてきてちょうだい!」

『充填開始――さぁ、慌てふためけ!』

「っナマエ避けろ!」
「へーきよっ、と……」


 柵に飛び移って勢いよく宙を舞う。ちょうどその真下を強烈なビームが一直線に放射される。その威力だけでも風力で髪の毛が躍った。足をしっかりと揃えると、後ろからクラウドが大剣を振って無防備な腕へ一撃を食らわせた。その表情は意外にも少し焦っているようだった。


「頼むから無茶するな。俺が責められる」
「誰に?」
「……街中、だ」
「あら、それは大変」
「思ってないだろ」
「ええ、分かっちゃった?」
「勘弁してくれ」


 エアバスターの腕が分離したため、それを先に破壊するため刃を伸ばす。浮遊している腕を捉えるのは決して楽ではなかったけれど、的確なバレットの援護射撃もあって剣を叩きつけることに成功した。背後から稲妻が飛んできて、雷光が腕を破壊させた。


『この程度でやられてもらっては困る。倒しがいのある敵でなくてはな』
 

 ハイデッカーの笑い声が、やっぱり煩わしい。エアバスターは腕を失った後、巨大なフォルムからは想像もできない動きで宙へと浮き出す。下部から発せられるエネルギーも魔晄を使用しているのだろうか。星のためとか、魔晄エネルギーとか、今まであまり考えたことはなかったけれど、こういったことに消費されるのは納得がいかなかった。


「バレット、ガトリングよろしく!」
「おうよぉ! 撃ち落としてやるぜ!!」


 ハイデッカーたちの作戦で私たちの動きは割れていた。時限爆弾も起動されてしまった以上、残り時間にも気遣わないといけない。蛇腹剣を収めて腰部のホルスターから拳銃を取り出す。何度か撃っている間にダメージを食らわせられたのか、エアバスターの浮上火力が落ちてきて近くまで来てくれた。


「叩き斬ってやる!」


 その隙を見逃さず、クラウドの大剣が唸る。剣の重さなんて関係ないような動きでエアバスターへと重い一撃を叩きつけた途端、限界だったのか中心部から火花が飛び散った。爆発する!


「クラウド!!」


 最も近い距離にいたクラウドの身体が吹っ飛ばされる。自分の横を過ぎ去ろうとした影へ咄嗟に手を伸ばした。炎が茫々と燃え盛る中で自分の手は、クラウドの腕を掴むことに成功した。ただし、もう一方の手で放り出されないようにと手元の瓦礫を掴んだものの脆く崩れ、体が宙ぶらりんになる。抱えた重みに腕が悲鳴をあげた。


「っ手を離せ! あんたまで落ちる!」
「いいから……ちょっと口閉じててちょうだい……」


 腕力お化けではないため、この状況から体勢を立て直すのは大分厳しい。せめてクラウドだけでもと考えたって、どうやっても男一人を片手では持ち上げられない。おまけに重い剣まで背負っているし。
 すると、二つの声が背中に投げられた。どうやら破損した反対側のブリッジに、バレットとティファは飛ばされたらしい。二人の姿は、怪我こそしているものの無事に映った。
  

「ナマエ! クラウド!!」
「俺たちのことはいい! ティファを頼む!」
「……いろいろ悪かったな」
「これで終わりみたいな言い方をするな」
「ま、待ってよバレット! いや、二人とも!!」
「私たちは平気よ! また後で会いましょ、ティファ!」


 バレッドに連行されていくティファの姿を見送って、さてとと地上を見下ろした。酷く、遠い景気。


「クラウド……パラシュート無しの降下でも楽しみましょうか」


 クラウドも同じことを考えていたのか、小さく頷かれる。指先がじりじりと痛みを覚えて、血液すら行き届いていないかのように冷たくなった。ぱっと手を離すと二人分の体重が重力に従って落下する。ビッグスから受け取ったワイヤーリールをすぐさま発射させて何とか衝撃を抑えようとしたものの、重力や爆風に耐えきれなかったのか、途中で外れてしまった。

 あ、これはまずい――心臓が冷えついた刹那、ぐっと強く引き寄せられた。


 ***

 何か、夢を見ていた気がする。誰かが俺に呼びかける声。初めてかもしれないし、そうではないかもしれない。聞いたことのある声。語り掛けてきていた言葉が、不透明だ。

「もしもーし。もーしも〜し?」

 強く打ったせいか、背中や頭部が少し痛む。高い声に導かれるように重い瞼を開く。掠れた視界の焦点が合うと知らない女の顔が映った。ナマエよりも少し幼さそうな――そうだ、ナマエは!?


「ナマエ!? おい、しっかりしろ!!」
「気絶してるみたい」
「そ、そうか……」


 腕の中で瞼を伏せるナマエの胸元からは、規則正しい鼓動が――って、違う! 別に膨らみが心地良いとかそういうのではなくて。って俺は誰に言い訳をしているんだ。額に張り付いた髪の毛を流すと、閉じられたアイホールがぴくりと動くものの目を覚ます気配はない。俺を綺麗だと見つめてきた眼が閉じられていることに、身の内側がざわざわと落ち着かなった。


「ナマエ、美人だよね」
「は?」
「惚れちゃった? 無理ないよ」
「ほっ惚れ!? 違う!」
「動揺、凄いね」
「……だいたい、あんた誰だ」


 可笑しなことをいう女の言葉に、心臓がざわめきの代わりにどくんと跳ね上がった。なんだ、惚れるって。別に俺はそういう気持ちでナマエを見ていないし、興味だって――……。


「エアリス――わたしの名前、エアリス」
「……クラウドだ」
「また会えたね。……覚えてない? ほら、お花!」


 俺たちの周りに咲き誇る花は黄色に咲き誇っていた。そこで思い出す。確か、壱番魔晄炉の爆破後に会った花売りだ。俺たちの落下によって花はひしゃげていた。悪いと謝るとエアリスはお花は強いからと怒ることもなかった。


「で、ナマエの知人か?」
「聞いてない? わたし、ナマエと一緒に住んでいるの」
「あぁ……あんたが、大切な人ってわけか」


 ジェシーから聞いた話をそのまま告げれば、エアリスは小首を傾げた後すぐに満面の笑みを浮かべた。純粋な喜びを体現した表情で「そう、ナマエの大切な人! ナマエも、わたしの大切な人」と口にする。だが次第に眉は下がって、俺の腕の中で目を瞑ったままのナマエの頬に触れた。柔らかそうな肌に、傷がついている――いつの間に。


「でも、いつも無茶ばかり。自分より、他の人。ナマエ優しいから、分かるけど、わたしすごく心配」
「……あんたもそう感じてるんだな」
「も? 嬉しいな、ナマエのこと、見てくれてるんだ」
「別に」

 
 ただ、視界にやけに入るようになった。今回の作戦だって本来なら無関係のはずだったのに結局巻き込まれて、無駄に神羅と敵対する羽目になった。俺たちがお尋ね者になるのは覚悟の上だが、ナマエには帰る場所がある。どうして、自らの身を軽々と投げるのだろうか。

 戦い方だって、まるで犠牲するかのような動きだ。何時も率先して前へ出る。銃もある上に蛇腹剣なんだから後方でも戦えるはずだが、基本的に下がることは無かった。
 エアバスターとの戦闘もそうだ。俺の方が火力が出るのに必要以上に前に出て、自分が狙われている最中でも反対側にいるティファとバレットの身を案じていた。流石に強力なビームが発射された時には肝が冷えたな。避けられたから良かったものの、あんなの間近で食らったら身が砕けたって不思議じゃない。

 とにかく、こんなんじゃ命が幾つあっても足りないし、そのうち――いや、俺の目が届く範囲は許さないが。


「お〜い、クラウドさーん?」
「なんだ」
「考え事? ナマエのこと?」
「関係ないだろ」
「だって、ぎゅって抱きしめてる。ナマエ、ちょっと苦しそう」
「あ」

 いつの間にか腕に力が籠っていたらしい。細い眉が少し苦し気で、すぐに腕の力を抜いた。くたんと俺の胸板で瞼を閉じる姿に、また心臓が忙しなくなる。なんなんだ、一体。


「そうだ、クラウド。これ落としたよ」


 マテリアか。装備しているのではない、予備が懐から落ちたらしい。今回の戦闘でマテリアも大分成長したし、ナマエにもう少し持たせるも良いかもしれない。そうすれば自然と後方へ下がってくれるだろう。……いや、魔法を打ちながら特攻してきそうだ。


「わたしも持ってるんだ」
「マテリアなんて珍しくともなんともない」
「でも、わたしのは特別。だって、何の役にも立たないんだもの」


 前触れもなく、頭がまた痛みだす。最近やけに多い頭痛は俺に何かしらの映像を見せてくるようだった。過去に類似した出来事だったり、覚えのない風景だったり、一体なんなんだ……。今の映像だって身に覚えはない。だが不思議と口の中が乾燥した。


「使い方をしらないだけだろ」
「そうかもね。でも、それでいいの。身に着けてると安心できるし、お母さんが残してくれた……あっ! ナマエ、起きそう!」


 長い睫毛が、ふるふると震える。薄っすらと開いた瞼にエアリスが顔を覗かせた。赤と紫の混合した色がようやく映る。
 俺より、あんたのその眼の方がよっぽど――……


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