Protect you. | ナノ

06


 駅へ辿り着くと、何故かビッグスとウェッジも一緒にいた。なんでもジェシーの様子から動きを悟ったらしい。終電が壱番魔晄炉爆発のせいで早まっているとのことで、バイクまで用意してくれていた。


「クラウドはジェシーを乗せて」
「あんたと一緒でいいだろ」
「今回の作戦、聞かないとでしょう?」
「そっちが聞けばいい」
「ジェシーはクラウドに信頼を寄せて頼んだのよ? 応えてあげないと男が廃るわ」
「はぁ」


 少し強引に攻めればクラウドは渋々といった様子で受け入れてくれた。多少押しが強い方が、この男にはいいらしい。ジェシーなら私を頼るだろう、とビッグスが更にもう一台バイクを用意してくれていたため単独で跨り、螺旋トンネルを勢いよく走る。可笑しな時間に入ってきた私たちに警備兵が襲い掛かるも、クラウドと私を中心に撃退していく。


「ねえ、クラウド。今の見えた?」
「ああ――ソルジャーだ」
「ソルジャー!? い、いたの!?」
「恐らく追ってくるわ。どっちがやる?」
「あんたはどうにも血気盛んだな。俺がやる」
「ふふ、じゃあ周りの兵士は任せてちょうだい」


 エンジンを吹かすと、背後から猛烈なスピードで他とは異なるバイクが私たちを飛び越えてきた。赤い特徴的なバイクに乗った男ローチェは、高らかに笑いながらクラウドと対峙する。その間に他の邪魔者をと考えていたはずが、何やら彼に巻き込まれたくないと言い残して退散してしまった。
 クラウドはローチェのバイクの頭部を華麗に叩きそのスピードを落とさせる。流石の手腕に思わず楽しい気分を味わわせてもらった。昔ザックスと一緒にバイクレースをしたのが懐かしい。

 無事に追跡を切り抜けて、七番街の市街地へ辿り着きジェシーの自宅前に到達した。家からIDカードを入手した後、ジェシーは七六分室の倉庫へ潜入できると先行する。私たちは警備兵たちの目を引きつける陽動をすることに。だから、揉め事に長けたクラウドと私が呼ばれたらしい。


「ジェシーの親父さん、いただろ。魔晄中毒ってやつさ」
「ああ」


 ビッグスはジェシーの昔話をクラウドへする。ゴールドソーサーで女優目指して奮闘していたジェシーたち家族に襲い掛かった過酷な現実。魔晄だまり近くの通路に倒れた父親は、今も魔晄中毒に苦しんでいる。その姿はかつての――


「どうした」
「ううん。ジェシーの話に興味持ってくれたのが嬉しくてね」
「……別に。深い意味はない」
「あ、話したってことジェシーには内緒だぞ。怒ると手が付けらんねえんだよ。万が一の時は、頼むからなっナマエ!」
「うーん、お代は高いわよ?」
「おいおい! いつも金とらねえだろ!」


 四人で談笑しながら目当ての場所に到達すると、不穏な空気が流れていた。警備兵が既に誰かに殺されていたのだ。


「やるのは俺だけでいい」
「おいおい、足手纏いってか? んなこと言うなよ」
「仲間ッスからね」
「面倒は見ないぞ」
「二人だってアバランチのメンバーよ。クラウドの手を煩わせることはないと思うけど」


 私の言葉に、ビッグスは「あー、やっぱり?」と頬を掻き、ウェッジは大きな驚愕を発して慌てて口元を押さえた。前者に至っては薄々勘付いていたらしい。


「ま、ナマエは気付いてたよなぁ……。うし! だったら遠慮なく甘えるぜ。二人とも中心部で大いに暴れてくれ」
「俺たちがフォローをするッス!」
「……ナマエもフォローに回れ」
「嫌よ」
「あのな」
「ピンチになったら、私が助けてあげるわ」


 はっと目を見開いたクラウドは、そのまま天を見上げて薄い唇を開いた。まるで何かに思い馳せるような姿。ザックスのこと? クラウドは、彼をどう思っているのだろう。もしかして、忘れていたり――しないわよね……。
 潜入完了の合図である閃光弾が空を照らし、私とクラウドで広間の中心部へ足を踏み入れる。途端、銃撃の嵐が蠢いた。


「さあて、お次は誰かしら?」


 兵士の次はワンちゃん、次は兵器。次から次に溢れ出てきては片付けていくと、次第に神羅兵の数が倍増して囲まれる。……ものの、これを再び現れたローチェが遠慮なく薙ぎ倒し、クラウドへ勝負を挑んできた。


「約束しただろ? 次は、二人だけで勝負をしようと」
「……下がっていろ。手は出すなよ。特にナマエ」
「あら名指し? だったら、元ソルジャー様のお手並み拝見といこうかしら」
「はっ、すぐ片付く」


 余裕たっぷりのクラウドへローチェが素早く踏み込む。確かにローチェの動きはバイク同様俊敏だったものの、クラウドの方が一枚も二枚も上手だった。言葉通り早急に片を付けたクラウドに、ローチェは満足気に去っていく。その際に多少の敵を薙ぎ倒してくれたものの、再び現れたスイーパーたちにまたもや囲まれた。どうやら、ローチェを倒したことで強敵と認定されたらしい。

 その間にもウェッジはクラウドを助けようと自ら庇いに入り、窮地に陥る。けれど、何故かアバランチの本家が突入して来て、その間に七六分室から退却し、丁度良く点灯した閃光弾を確認して広間へと向かう。ジェシーと合流した後、ウェッジも逃げ仰せたのか、倒れ込むように合流した。


「撃たれたのか?」
「多分流れ弾ッス……痛いッ!?」
「どれ、見せてみろ」


 二人曰く、弾が当たったのではなく至近距離を掠めて軽度の火傷状態にあるらしい。どちらにせよ大した怪我じゃなくてよかった。まさかクラウドを庇いに体を張るなんて……。


「腹ペコッス……」


 いつも通りのウェッジに、周囲がどっと安堵に包まれて笑いが起こる。隣に立っていたクラウドも、釣られるように口角が上がっていた。無表情かムっとした表情しか見ていなかったから、貴重な美顔に思わず呼吸が一時止まる。


「……なんだ」
「…笑った顔も綺麗ね」
「なッ……――行くぞ、帰るんだろ!」
「ふふ、そうむすっとしないで。もう一度見たいわ、ねぇ笑って?」
「見世物じゃない」
「そう言わないでちょうだいな」


 たった数日の逢瀬なのに、クラウドの雰囲気が柔和になったのを感じる。悪くない。きっとこっちが、本当のクラウドの優しい姿なのかもしれない。


「お、あった! 良かったぁ!」
「パラシュートか」


 ジェシーの案内のもとスラムへ降りるための手段を手にする。パラシュートで降下するとなっても、二つしかない。ウェッジの体重を考慮して、私とジェシーと三人で降りるのが良いかも。


「俺たちで降りるから、お二人さんもついてこいよ」
「え? ちょ、ちょっと三人で大丈夫?」
「問題ねぇって。クラウド、ナマエのこと頼むぜ〜?」


 何故かにやにやと口元を緩める三人が先に飛び降りてしまう。残されたのは私とクラウド。パラシュートは一つしかない。つまり。


「……行くか」
「……そうね。私が持つわ」
「冗談じゃない。俺が操作する」
「ねえ、もしかしてさっきのまだ怒ってる?」
「怒ってない」
「ならいいけど」


 命綱の金具を繋げて、パイプの上に立つ。足元、遠く先の地上にスラムの光が輝いていた。降りるぞ、という言葉に一歩足を踏み出す。靴底は大地を蹴ることなく宙へと落下していった。開かれるパラシュートは安定していて、肌に踊り当たる髪の毛がちょっと擽ったい。


「あんた、伍番街だったな。……今日は、送る」
「クラウドは三人の様子を見てきてちょうだい」
「送った後にな」
「気持ちだけ頂いておくわ」


 心配してくれてありがとう、と告げる。


「壱番魔晄炉を爆発した爆弾、ジェシーのお手製なのでしょう? 今回潜入したのだって、被害が予想を超えていたから作り直すためなんじゃないの?」


 でも、私も心配だから。


「彼女なりに責任を感じているのよ。ビッグスも余裕あるように見えていっぱいいっぱいですぐ頭爆発するし。ウェッジは弱気なことばかり考えちゃうから、後押しが必要だわ。……あなたみたいに、強い人のね」


 背後から吐息が漏れる。近い距離に掛けられた息に心臓がとくんとした。何で、だろう。


「あんたは、他人のことばかりだな」
「そんなことないわよ」
「あるだろ。仕事を請け負っても報酬を求めない。ティファがアバランチのことを下手に隠していて、それに付き合ってやってる。あいつらにだってそうだ。だいたいバレットを付け狙う男たちを、あんたがわざわざ倒す必要がどこにあった? 関係ないだろ」


 突然饒舌になったクラウドに戸惑う。


「俺には、あんたの意思が分からない」


 呟かれた言葉に、胸が締め付けられた。跳ね上がった心臓はもうなりを潜めている。


「私はただ、……守りたいだけよ。自分の大切な人を」
「あんたは誰が守る」


 私自身のことなんて、気にしたことがなかった。クラウドに告げられて動揺が走る。初日は「俺の何が分かる」なんて睨んできたくせに、どうして突然心配しだすのか。


「クラウドってばどうしちゃったの?」
「……」
「ふふ、案外レディには優しいのね。モテるのも時間の問題かしら」
「興味ないね」


 私のことだって、そう突き放してくれればいいのに。


「もう少しで着地地点。最後までエスコート頼むわよ?」
「……するなら別の頼り方をしてくれ」
「ふふ。聞こえませーん!」
「聞こえてるだろ。……もう、いい」


 そう、そうやって打ち切ってくれていい。私にだって意思はある。守りたいっていう、強い思いが。それが今唯一出来る、私に課せられた旧友への恩返し。


「――……無事到着、ね。じゃあ、三人のことよろしくお願いするわ」
「本当に、いいのか」


 未だ渋るクラウドに、流石に苦笑いが浮かぶ。


「次があったらお願いしようかしら。伍番街を案内してあげるわ。ついでに、なんでも屋クラウドの宣伝もね?」
「あんたの仕事奪うことになるぞ」
「大活躍してくれた方が、こっちは嬉しいもの」
「……物好きだな」
「そんなことないわよ。ねえ、近いうちにまた来るから――」


 一歩踏み出して、くるりとクラウドを見上げた。


「その時に、会いたい」
「っあ…ああ……」
「ありがとう。気を付けてね、クラウド!」


 やっぱりクラウドの表情がしっかり映る今がいい。あの時よりも生き生きしていて、なんだかもっとクラウドのことを知りたくなった。人伝いに聞いた話じゃなくて、一緒に動いて、語って、更に理解を深めていきたい。


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ローチェとの絡みを追記したデータが吹っ飛びましたので、気合が戻ったらいつの間にか加筆されているかもしれません


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