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花摘みの報酬(10.5)


 クラウドと二人で静かな伍番街を歩む。エルミナもエアリスも、今頃ぐっすり眠ってくれていると良いんだけど。


「そういえばあんた、どうやって家から出てきたんだ?」
「ん? 窓から飛び降りたのよ」
「は?」


 エルミナの家は豪勢で、三階建てでスカイバルコニー付き。スカイバルコニーにはエアリスとエルミナが育てている花壇や花々が設置されて、風が心地よいのでお気に入りの昼寝スポットだったりする。


「だって居間にはエルミナがいたんでしょう?」
「ああ、そうだが……飛び降りたのか」
「ええ。……あ、大丈夫。よく抜け出すときはそうしてるから」


 依頼される任務内容の中には、夜にだけ出没するモンスターの退治もある。エルミナはあまりこれを好ましく思っていないし、エアリスはついて来ようとする時があるから、抜け出すのは日常茶飯事。実はこっそり飲みに行くときもやってたり。


「……あんた、意外と不真面目なんだな」
「あら失礼しちゃう。真面目だけなんて面白くないじゃない?」
「それは……そうかもしれないな」
「ふふ、クラウドが理解してくれる人でなによりよ」


 あ、こっちの方が近いかも、と一歩先へ歩く。繋いでいた手の感触に胸がくすぐったくなった。エアリスやスラムの子どもたちと繋ぐことはあっても、男の人と繋ぐことはなかった。クラウドの手は大きいから安心するしドキドキもする。


「夜少しは眠れた?」
「ん? ああ多少はな」
「魔晄炉爆発、エアバスターとの戦闘、かと思えばレノと戦って大冒険。次は伍番街スラムで大活躍して、ルードともバトル。……中々濃い一日だったから、疲れとれてないんじゃない?」
「これくらい疲労のうちに入らない」
「あら、逞しい」


 見たところ本当に疲労を感じていないらしい。膝の力が抜けた自分の方がもしかしたら蓄積しているのかもしれない。そう考えると苦笑が出てしまった。まるで見透かしたように、クラウドの視線が私へ向く。


「あんたこそどうなんだ」
「平気って言いたいところだけど、さっき助けてもらった手前言えないわね」
「……怪我、…治りそうか」
「え?」


 視線は私の顔、頬へ向けられているらしい。エルミナにも大層叱られたけど、当の本人が何も気にしていないのだから良いのに。


「これくらい時間が経てば治るわよ」
「そうか」
「むしろ、言われてはじめて怪我してたなって思い出すくらい」
「強がってないだろうな」
「強がる必要がないもの」


 ならいい、とまた魔晄の瞳が前を見据える。暗いからこそその輝きは普段よりも凛々としている。本当ならじっと見つめていたいけれど、今は七番街へ急がないとね。


「そういえば、今夜の夕食あんたも手伝ったんだってな」
「え? 知ってたのね」
「エアリスが聞いてもないのに勝手に喋り出した」
「居候の身としては手伝わないとね。クラウドは料理できる?」
「いや……神羅にいた頃は食事も社内で片付いたしな」
「任務の時は外食ってことかしら」
「ああ」


 これで料理得意と言われたらむしろ驚いていたと思う。偏見ではないけれど、なんとなくクラウドは料理出来ない気がした。当たったことに小さく満足して、ふと思い出す。


「ね、報酬の話覚えてる?」
「うん? ……ああ、花摘みか……」
「リーフハウスがお花で綺麗になったって、エアリスが喜んでいたわ。ありがとう」


 身寄りのない子たちを引き取る孤児院、リーフハウス。クラウドが花摘み用の籠を持つ姿を思い出して笑いが込み上げそうになった。クラウドも思うところがあるのか、少し遠い目をしている。


「子どもたちがクラウドに懐いてたって」
「…どうだろう」
「ふふ、なんで謙遜するのよ。じゃあ、頑張ってくれたクラウドにご褒美ね」


 繋がれていない手で、ポーチから包みを取り出してクラウドへ渡した。すっと手が離れてクラウドがその包みを持ち上げる。離れた熱を追い求めそうになった手に自分の掌を重ねて、不可解な現象に内心疑問が浮かんだ。


「……これは?」
「クッキー。元々今日、エアリスと作る予定だったの」


 フィーラーに邪魔されて、随分遠回りをしたけど。クラウドとエアリスを待っている間に作っていたのだ。出来ることならもう少し凝ったものを作りたかったけれど、あまり時間が許さなかった。それに加えて、材料がなかったのもあるけれど。


「俺にか?」
「ええ、もちろん。もしかして、嫌いだったかしら?」
「いや…………誰かから、こういうのを貰ったのは、初めてだから」
「……そう。じゃあ私が初体験のお相手ってことね」


 笑いながらそう告げると、クラウドは目を小さく丸めた後にすっと視線を逸らす。


「……言い方が、よくない」
「あら失礼」


 また、くすくすと止まらない。


「一枚食べてもいいか」
「どうぞ? お口に合えば嬉しいけれど」


 包みが解かれて、クラウドの指先が一枚摘まんだ。それが口元へと運ばれる瞬間をここまでドキドキしながら見つめることこそ初めてかもしれない。咀嚼し、咽喉仏が上下に動いたのを見計らってもう一度小首を傾げた。


「どう?」
「……美味いな」


 薄っすらと口元が緩んでいる姿は、どこか無防備だった。


「…どうした?」
「え? ああ、なんでもないわ」
「あんたも欲しいのか」
「それはクラウドの。私は――」


 クッキーが、差し出された。私が作ったのに……なんて呆れつつもクラウドのそれが嬉しくて、受け取る。口の中でほんのり広がる甘さが、試食した時よりも強く感じた。


「……美味しいわね」
「ああ」


 結局、用意したクッキーはあっという間に二人で完食してしまう。


「うーん、クラウドのためにって作ったのに私まで食べちゃった」


 しかも、こんな時間に。


「止まらなかった」
「また今度作ってあげる」
「……ああ」


 でもお気に召していただけたらしい。


「いい報酬だった」
「また機会があったらお花摘みよろしくお願いするわ」
「……それは勘弁してくれ」


 クラウドが花を選んで摘む姿、見てみたかったのに。ふふ、と笑って七番街の方向へ身体を向ける。


「そろそろ先へ進みましょうか。足を止めさせてごめんなさい」
「いや、いい。……ん」
「……もう、躓かないけれど」
「……」
「……」


 差し出された手に、手を重ねた。


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