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Wチャンピオン(22.5)


 プレートの上へ行く手段を得た俺たちは、ウォール・マーケットへ戻ってきていた。上へ行ってしまえば簡単には戻ってこれない、その前に準備をしっかり整えようということになったのだ。これから行くのは神羅カンパニー。敵の本拠地だ。念入りしておかなければ俺たちが後悔するだろう。


「二人とも、大丈夫かしら……」
「問題ないだろ。チョコボを使うと言っていたしな」


 バレットがマリンとウェッジの様子が気になる、と告げたことから二手に分かれることになった。このタイミングで別行動は避けたかったがアイテムも不足していたため、時短ということでこうなった。


「クラウド、大変」
「ん?」
「私たち、金欠よ」
「…………」


 だが、早速問題が発生する。金だ。度重なる戦闘で勝ち残っていくためには、装備やマテリア、アイテムへ費やす金銭を惜しんではいられない。俺のなんでも屋としての報酬もそこそこ入り苦難はしていなかったはずなのだが……。


「新しい装備買っちゃったもの、仕方がないわね」
「だがアイテムを持たずに行くわけにもいかない」
「そうねぇ……」


 困った。だが金がない以上は生み出すほかない。


「仕方がない。モンスターでも狩りに行くか」
「ああ、待って。それだったらもっといい手があるわ」
「は?」


 ――連れられたのは地下闘技場だった。
 思わずナマエへ無言の圧力を向けるとにっこりと微笑まれる。既にナマエの背後には人だかりが出来ていた。これでもかと山積みになっている。


「あのあのっ、蛇腹の踊り子さんですよね!!」
「ほら前に優勝したチャンピオン!!」
「俺ファンなんです!! あの試合で一目惚れしました付き合ってください!!」
「あ〜待って待って、サインだけでも!!」
「やば、生踊り子じゃん!!」
「こっち見てくれ! あんたがホンキで好きなんだ!」
「ガチ傾国の美女だった…ウチ負けた……」
「やぁ〜ん、踊り子様ぁ!」


 隠す気、ないだろ……。


「あのな……」
「この前は推薦出場だったから賞金は推薦人へいったけれど、今回は私たちに収まるわ。で、皆が賭けてくれれば賭けてくれるほど、報酬もあがるってわけ。まあ所謂裏バトルね。私たちなら余裕でしょ?」
「……いいのか、あんた一応逃亡者扱いなんだろ」
「もうコルネオいないもの。気にしない、気にしない」


 俺が気にするんだが……まあいい。戦って金が入るなら楽なものだ。二人でエントリーをしに行くと、受付の男は驚きすぎて後頭部をエレベーターの扉にぶつけていた。大丈夫なんだろうな……。エレベーターから出ると、ゲートキーパーと控室係員が待ち構えていて興奮した様子を隠せずにいた。


「おいおいおい嘘だろ!? まさか傾国の美女が現チャンピオンと一緒だなんてあんたら知り合いだったのか!?」
「頼む! 写真いいか!?」
「あんたら仕事しろ……俺たちは金が必要なだけだ」
「金ぇ!? だったら俺が貸してやろうか!?」


 要らん、と返すと「そういうなよ! 手助けさせてくれ!!」と無駄な熱量が振りかかってくる。


「ふふ、気持ちだけ頂いておくわ」
「おいおい前よりめちゃくちゃ美人になってねえかあんた!」
「あらありがとう」
「二人の関係は!? 頼む教えてくれ!!! いっそのこと清々しく玉砕させてくれ!!」


 ナマエがいるというだけでどれだけ興奮してるんだこいつらは……。前回、趣味の悪いマスクをつけておいて正解だったなとまた溜め息が零れる。ナマエがこんなにも注目を浴びていることが面白くない。そもそも見世物じゃないし、さりげなく告白までしてくる男には苛立ちすら覚える。今の俺にはこの感情が何かが分かっているから、尚更受け入れがたかった。


「もういいだろ。遊びに来たわけじゃない」
「相変わらずクールだな、クラウド!」


 なんで俺の肩に手を乗せるんだ。重みを叩き落としていい加減にしろと溜息を吐くと、ゲートキーパーが両手をあげてようやく一枚目の扉を開けてくれた。


「まあ、あんたらチャンピオンだったら楽勝だと思うぜ! さ、準備はいいか?」
「もちろんよ」
「ああ。ぱっぱとしてくれ」


 重々しい扉が開かれる。
 あの時はコルネオの部下が司会をしていたが、今回は当然違ってた。キィン…とマイクの接続音が会場を包む。


『なんと今宵のトーナトメントは!! 過去このウォール・マーケットに激震を走らせたあのチャンピオンが登場するぞ!!』
『知らないやつがいたら即刻出ていきな!! 夢のチャンピオンがタッグを組んでここに登場! ナマエ&クラウドチームの出場だあ!!』


 沸き起こる歓声は、俺たちが優勝を収めた時と同じレベル。いやそれ以上に耳を劈いた。目の前の扉が開けばその声は更にダイレクトに届く。一歩、足を踏み入れるとさまざまな声が折り重なった。


「待ってましたナマエ――!!!!」
「クラウドー! そこ代わってくれー!」
「チャンピオンズ最高!!」
「ナマエー! 帰ってきてくれてサンキュー!!」
「またいい戦い見せてくれ!!!」
「ナマエっ、ナマエ!! うぉおおお!!!」


 歓声の津波に押し流されそうになる。俺が想像していたよりもナマエはこの地で随分な活躍をしたらしい。当の本人は困ったように眉を下げながらも、何故か手を振っていた。確か以前の舞台でファンサービスをしたら、と言われたことを思い出す。


「……手を振るな」
「あら。これで収益増やせるかと思って」
「また変なのに目を付けられたらどうする」
「対処できるわよ」


 これで更にこいつのファンとやらが増えたらどうする。本気で惚れる男がいたらどうするつもりなんだ。バスターソードを手にすると、奥の扉が開いた。どうやら相手の入場らしい。心の中で消化しきれない感情が渦巻いて苛立ちも募ってきた。


『さぁ始まります、ウォール・マーケット今夜の裏バトル! Wチャンピオンはどう魅せてくれるのか! 二人のコンビネーションにも要注目だぁ!!』


 ゴングが鳴り、一気に距離を詰める。叩きつける感触に怒りを籠め、モンスターを切り裂いた。後ろからすぐにナマエの追撃に入り込み、確実に相手の息の根を止める。


『な、な、なんとどういうことだ――瞬きしている間に終わったぞ!? この二人、半端ねぇ!!!』


 裏バトルというからどれだけ苦労させられるかと身構えていたが、予想よりも遥かに弱かった。それより俺とナマエが強いのかは分からないが、あっけないの一言に尽きる。


「楽勝ね」
「ああ」


 ナマエも同感だったらしく、お互いにハイタッチをする。どっと湧きたつ歓声。未だ不快な気持ちがないわけではないが、こいつと同じ土俵に立てている優越感の方が今は勝った。どれだけ歓声や感情を飛ばそうとしても、隣には立てない。許されている距離感に瞼を閉じた。


「ねえ、クラウド」
「ん?」
「あなたとの共闘、やっぱり好きよ」
「……俺もだ」


 共闘が。
 そうだと分かっていてもナマエの言葉は意味深で、俺の心を意図も容易く乱す。


「ウインク俺にも頼む〜〜!!!!」
「ナマエ!! 好きだ結婚してくれ!!!」

「っおい、そのサービスは要らないだろ!」
「え?」


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