Protect you. | ナノ

23


 崩落したプレートの上へ昇るのは容易なことではなかった。レズリーから受け取った昇降用ワイヤーリールを駆使しつつ、神羅兵や機械兵器と戦いながらようやく拝むことのできた神羅カンパニー。裏の駐車場から潜入するけれど、途中でバレットが車上から転落して結局戦闘を避けることは出来なかった。


「おかしくないかしら」
「ああん? 何がだ?」
「これだけ警備兵と戦っているのに増援が来るどころか、警報すら鳴ってないのよ?」


 おまけに、一階のエントランスフロアは無人だった。待ち伏せされている気配すらない。


「普通だったらこの広い場所で包囲して、私たちを捕まえようとするけど」
「確かにそうだね。……もしかして、泳がされてる?」
「俺たちがぱっぱと倒しちまったから、連絡いってねえんだろ! 気にすんな!」
「クラウドは、どう思う?」
「……どうであれ、今はエアリスの救出を優先させよう。追手が来ても倒せばいい」


 ティファの顔色が陰る。余計な心配をかけてしまったかもしれない。だけど、警戒するに越したことはない。クラスファーストとして貢献していたザックスを襲うような組織の人間たちだ。


「エアリスの居場所、検討ついてるの?」
「おそらく科学部門の研究施設だ」
「どこにあんだよ」
「多分、上の方。ずっと上だ」
「多分かよ!?」


 ソルジャーが科学部門まで足を運ぶことはないのか、クラウドの回答は曖昧だった。顔を上げると、吹き抜けの天井が拝める。外から見ても相当高い建造物だったけれど、改めて唖然としてしまう。流石の大企業なだけあってセキュリティは厳重で、職員カードがないとエントランスから出ることすら叶わなかった。


「受付にカードキーがあったわね。私ちょっと取りに行ってくるわ」
「は? どうやって取るつもりだ」
「上から侵入できそう。私が、照明伝って行こうか?」
「ううん。これ使えば簡単に解決できそう」


 懐から取り出した鉄鎖に、ティファが「え?」と戸惑った様子を浮かべた。何処から出したんだよ!! とバレットが想像通り反応する。これだけの大声でも警備兵が顔を出さないなんて、やっぱり可笑しいわね。


「レズリーから貰ったの。麻袋の中にあったから」
「なんで鎖なんて持ってきたんだ?」
「どうにも最近、良く落ちるからお守り代わりよ」

 あなたと一緒にいるとね――とクラウドへ悪戯に告げると、気まずそうに視線を逸らされた。事実、何度転落すれば良いのか。しかも高さが尋常ではない。よく生きているなと身体の頑丈性を褒めたくなる一方で、その度にクラウドが自分を抱えてくれたことも思い出してしまった。頬が火照ってくるのを感じて、慌てて鎖を手首に巻き付ける。


「あそこの照明にこれを引っかけて、後は勢いつけて中へ侵入するわ」
「帰りはどうすんだあ?」
「鎖に向かって私が剣を伸ばせば行けるはずよ」
「なるほどね。だったら、ナマエの方が適任だね!」
「ええ。任せて」


 照明へ向かって投げようとすると、バレットが代わってくれた。確かに腕力は私よりもあるから適任かもしれない。一度目は外したものの、二度目でしっかりと固定することに成功した。鎖を上った後、受付エリアへと上から侵入する。セキュリティカードを手にすると、不思議なことに受付へ侵入することになった理由であるセキュリティが勝手に解けてしまった。


「私、何もしてないわよ?」
「まあいいじゃねえか!」
「……泳がされてる気がしてならないけど……」
「だったら受けて立つまでだ。そうだろ」
「…ええ、分かった。宝条博士の研究施設は63階みたい」


 エレベーターか階段で59階のスカイフロアまであがり、そこからはまた受付でセキュリティカードの更新をしなければ進めないらしい。エレベーターの方が早いけど、その分兵士や一般職員にも会う可能性がある。目的はあくまでもエアリス救出。不要な戦闘やアクシデントは、可能な限り避けたい。


「マジかよ」
「ああ、正面突破よりは人目につかない」
「そりゃ、そうかもしれねえけどよ……」
「たった59階だ」
「準備運動って考えて、頑張りましょ」
「レースじゃねえからな。煽るなよ……」


 で、階段を選ぶことにしたわけだけど……いくら日頃動いている身だとしても階段が、果てしがなく、長い……。そもそも次のフロアまでの階段が長すぎる。意外にもティファが先頭を掛けていて、その隣を負けじと走る。次第にバレットと距離が開いて、私たちの間をクラウドが歩いてた。バスターソードの影響が大きいのか、その足取りは重そうだった。二人を気にしながら、ひたすら脚を上げる。


「っねえ、ナマエってクラウドのことどう思ってるの?」
「えっ!?」
「あ、すっごく動揺してる! もしかして、好きだったり?」
「もちろん仲間として好ましくは思ってるわよ」


 危うく右脚が上がらないところだった。意地悪そうに目を細めるティファは、まだまだ余裕らしい。


「も〜そうやって曖昧に答えるんだから! そうじゃなくって、クラウドのこと男の人として好きなのかなって」
「……ティファ、私の恋愛話は何もないわよって以前教えた気がするのだけれど」
「でもそれって、まだクラウドがいなかった頃じゃない?」
「そういうあなたはどうなのよ。同郷の、所謂幼馴染があんなに頼もしく帰ってきたのよ? 気になるんじゃない?」


 ティファみたいに人に弱音を吐かずに自分で解決しようとする相手には、ティファを支えてあげられる人間が必要だ。それがクラウド。クラウドがやってきてからティファは楽しそうによく笑うし、七番街プレートの件があってからも壊れずにいる。


「…確かにクラウドが来てくれて助かってるけど、そういうのじゃないかな。……ううん、昔から好きだったかもしれないけど、今は違う」
「……違う? どうして否定してしまうの?」
「クラウドにお似合いの人、見つけちゃった。その人が隣にいる時のクラウドを見ていると、私が出してあげたい表情じゃないって納得できたの。私が出せる表情でもないなぁって」


 思わず、脚が止まりそうになった。エアリスのことだと一瞬でも推測出来たら良かったのかもしれない。けれど、ティファの表情と視線が私のことを指し示しているのだと気づいてしまった。違う、と否定をしたくてもクラウドの想いを知ってしまったからなのか。自分の気持ちを自覚してしまっているからなのか。どう伝えればよいのか分からず、必死に頭を回転しているとティファがふふっと笑う。


「先に伝えておくと、私はそんな二人が大好きだから、早くくっついてくれたらすっごく嬉しいんだけどなあ?」
「……どうなるのかなんて誰にもわからないわよ」
「…ナマエはもっと自分のこと大切にして? 自分の想いを無視しないで、むしろ欲張ってほしい。じゃないと、クラウドの片思いがすっごく虚しく見えちゃうもの。それとも、もっと積極的に行くよう背中を蹴った方がいいのかな?」
「ティファ……」
「ふふ、冗談。でも時々もやもやはするんだよ? 男なんだからがつんといけーってね」


 バレていた。クラウドと私が分かりやすいのか、それともティファの観察眼が鋭いのか。言葉に詰まっていると下からバレットの叫び声が上がる。さっきまではもっと近い距離で聞こえていたのに、知らないうちに差が開いてしまっていたらしい。


「少し休憩がてらバレットを待つわ。ティファも自分のペースで上がってちょうだい」
「……ナマエが幸せになって、初めて守れる心もあると思う。忘れないで」
「……ええ。ありがとう」
「うん。じゃあ、先待ってる! よおし、行くぞ〜!」


 ティファの背中を見送りながら、息を吐く。脚がぱんぱんに張り詰めている。少し膝も痛い。でも、七番街の支柱を駆け上ったときに比べれば気持ちに余裕があった。余裕があるからこそ痛みを覚えてしまうのかもしれない。

 前々から言われていた――「自分のことを大事に、大切に」「自分を優先して」「あなたは他人ばかり」。心配してくれているからこその言葉なのは理解できても、頭の奥底では首を横に振っていた。……私が守らないと、この人たちの笑顔が拝めない。私は相手のために守っているわけじゃない。相手を庇い守ることで、自分の中の安心という欲求を満たしているだけ――向き合えば向き合うほど、自分勝手な理由で他人を守るという美しい建前を作っている。
 だから、そんなことを言われる権利なんて私にはない。だから、


「ナマエ? 疲れたのか?」
「バレットは?」
「ほら」
「あー…あ〜!! 空気が薄くねえか!?」
「元気そうね。ほら、バレット、頑張る頑張る!」
「はぁ……おお、……おぁ? ナマエじゃねえか! だらしねえなぁ……もうリタイアか!? お、俺は、…っ俺はまだ行けるぜぇ!!!」


 ぐんぐん、どしどし…のろのろ……
 バレットがふらつきながら、手摺りの力を借りつつのぼっていく。後ろに人が居た方が、むしろやる気が出るのかもしれない。続こうとした時、何故かクラウドに手を掴まれた。どうしたのかと振り向くと、魔晄の瞳が私を見据えている。


「行こう」
「…一人で歩けるわよ。私、バレット待ってただけだもの」
「俺がこうしたい」
「元ソルジャー様ってば甘えん坊なのかしら? それとも意外と体力なかったり?」
「希望するなら抱えても構わない」
「冗談よ、冗談」


 だから、クラウドに好かれる権利だってない。


「ティファとバレットに揶揄われるわよ」
「あんたが離れるよりよっぽどマシだ」
「……なんか、変わった? そんな性格だったかしら」
「違うだろうな」
「だったら」
「あんたに変えられた。……責任とれ」


 それに、ザックスを捜さないと。捜してエアリスに届けないと。二人が幸せにならないと私がこれを掴むことは赦されない。あの時、間に合わなかった償いをしないと、私の心は晴れない。


「もしかして……ティファに何か言われた?」
「ティファ? どうしてティファが出てくる?」
「…ううん、なんでもないのよ」


 でも、クラウドが私を導いてくれる。明るい方向へ。それが心地良くて全部どうでも良くなってしまいそうになってしまう。私だって伝えてしまいたい。あなたに、心惹かれているんだって。


「ねえクラウド」
「ん?」
「私もクラウドに随分変えられちゃったから、お互い様ね」


 すると魔晄の輝きがはっとより一層大きくなり、言葉が出てこない代わりに視線があらゆる方向へと動かされる。ティファに動揺していると指摘された時の私も、こんな感じだったのだろうか。


「…っ…あんたって…なんでそう……」
「偶には誤魔化さないのも必要だと思って」
「…だったら、……別の言葉が……ほしい……」


 クラウドの掠れた声が、バレットの叫びによってかき消される。首を傾げると「なんでもない!」と荒々しく腕を引っ張られた。痛いと告げればすぐにしゅんとなって謝る姿に、頼もしさ以外の様子が垣間見えて、なんだか役得だと思ったのは内緒だ。


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