Protect you. | ナノ

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 59階スカイフロア。以降はカードキーを更新しなければならず受付で手続きをしたものの、何故か見学ツアーなるパスポートになってしまった。エアリスを助けるためにやってきたのに、何が楽しくて神羅カンパニーの歴史を学ばされなければならないのか。と憤るものの、昔は神羅という大企業に勤めたソルジャーとなったザックスに、よく内情を聞いていた自分を思い出す。


「自己顕示欲が凄まじいわね」
「これって本物の金で出来てるのかな?」
「流石にちげえだろ……。自分大好き野郎ってことだな」


 プレジデント神羅の金ぴかな銅像に出迎えられ、面白くもない展示物を見せられる。道なりに進んでいくと、次は部門別のブースへ案内される。ここへ来るまでに撃退してきた兵器や神羅兵らのレプリカが展示されており、各部門責任者のホログラムが浮かんでいた。気になるのはどうしてソルジャーが科学部門に展示されているのか。神羅兵はきちんと治安維持部門にいるのに……。何が違うのかしら。魔晄を帯びているから? 


「見てるだけでもむなくそわりぃ! おいぱっぱと次行こうぜ!」
「そうだね。クラウド、カードキーの更新お願い」


 続いてミッドガルの模型を用いた魔晄の説明を聞いて再びカードキーを更新する。ヴィジュアルフロアへ進まされる。球体の劇場のような場所へ足を踏み入れた。何もない空間だったはずが、突然中心部から突起が飛び出して三次元の光が放たれ足元が消える。正確には床も映像の一部に切り替わったのだけど、あまりにも立体的かつ現実的な映像の中に私たちは吸い込まれた。

 星の映像から自然豊かな大地へとフォーカスが充てられる。そこでナビゲーターが古代種について語る。地中に眠る魔晄エネルギーに最も早く気付き、且つ活用も出来た存在だと。


『我ら星より生まれ、星と語り星を開く。そして約束の地へ帰る。至上の幸福、星が与えし定めの地』


 古代種が夢見た約束の地へ誘うのが仕事なのだと謳って映像が途切れる。私は、エアリスが古代種の唯一の生き残りであることしか知らない。古代種が本当に約束の地を知っているのか、エアリスがこれを受け継いでいるのかも分からない。でも神羅は、きっと求めているからこそエアリスに危害を加えずに関わってきた――でも今は違う。クラウドの予測通りタークスの手中ではなく科学部門へ引き渡されたのだとしたら……早く助けないと。


「映像見たんだし、これでまた更新出来るんじゃないかしら」
「そうだな。早くここから出て先へ進もう……?」


 踵を返そうとした途端、再び私たちを襲う映像。先程までの自然豊かな映像とは異なり、何故か不穏な空気に包まれたミッドガルの世界が映される。
 世界がやけに橙色に染まっており顔を上げると、まるで太陽が爆発したかのように燃え盛る巨大な球体が間近に迫っていた。逃げ惑う人々、建物を襲う炎のような竜巻。ヴィジョンは切り替わり、星へ襲い掛かる球体の正体は隕石で――誰かが、別の場所で祈りを捧げていた。
 
 誰か? 違う私はこの人を知っている――!?


「セフィロス……」


 クラウドの呟きと共にヴィジョンが消える。何もない球体の中に私たちは立っていた。けれど脳裏には先程の映像がいやに焼き付いている。

「ちくしょう。まだ頭がクラクラすんぜ。とんでもねえ映像を流しやがって。子どもが視たら泣くだろ!?」
「ただの映像じゃない……」
「あの隕石、なんだろう……」
「だからそういう映像だろ?」
「……ナマエ、大丈夫?」
「ええ……ええ、なんだったのかしらね……」


 皆も同じ映像を視たのであれば、一瞬映った姿が誰なのか分からなかったのだろうか。私には、分かる。あれはエアリスだ。エアリスがまるで祈りを捧げるように瞼を閉じていた。どうしてエアリスが出てくるの? あの隕石は一体……。神羅は何故こんな映像を私たちへ見せようとしたのだろう。疑問が尽きない。同時に押し寄せてくるこの不安は……。


「ここで考えていても仕方ねえ! ぱっぱと次だ次!」


 クラウドが再びカードキーを翳すと順調に更新することが出来た。これでようやく神羅カンパニー見学ツアーも終わりかと謎の疲労感に襲われていると、ナレーションにバグが発生したのか不可解な途切れ方をした。戸惑っている間に閉まっていた扉が勝手に開かれ、その奥には皺一つないスーツを着こなした老爺が佇んでいる。敵かと警戒する私たちに対して、その老爺は何故か丁重にお辞儀をした。


「お待ちしておりました、アバランチの皆様。わたくし、ハットと申します。ドミノ市長の使いでお迎えに参りました」
「市長っていうのは、あの神羅の言いなりドミノのことか?」
「はい。世界一の魔晄都市ミッドガルの市長であられるドミノ様のことです」


 ハットさんはこのヴィジュアルフロアで異常なシステムエラーを感知したため、私たちが困っているのではとわざわざ顔を出してくれたらしい。どうやら敵ではなさそうだけれど油断も出来ない。結局ドミノ市長と対面することになった私たちは、巨大な書籍の摘まれたライブラリフロアへと足を踏み入れることになった。
 隠し扉の先へ案内されると、再び図書に囲まれる。その奥に、市長は佇んでいた。気になるのは、市長の私室には数多のモニターが設置されていること。どうやら内部の監視カメラの映像を流しているらしかった。


「おお、やっと来たか遅かったのう。わしが、この魔晄都市ミッドガルの市長ドミノである。……ははーん、随分と暴れてきたようだな」
「どういうことだ」
「どうもこうもないわい」


 監視カメラに私たちの姿が映る。つまり、私たちの動きをチェックされていた?


「おまえらが警備に見つかるたびに、カメラに映るたびに、通報されるたびにもみ消してやったんだ。感謝せい」
「あなたは私たちの敵ではないと、そう言いたいのかしら?」
「んん? ……なんだ、分派の連中は知らんのか。わしがアバランチと組んでいることを」
「なに!?」


 バレットが驚愕の声を発する。どうやら知らなかったらしい。まさか神羅カンパニー内部、しかも市長がアバランチの協力者なんて誰も想像していなかった。けれど、これだけ強力な味方もいない。
 市長である自分の冷遇へ不満が募っていたらしいのか、私たちの目的を聞いても「神羅を引っかき回してくれるなら良い」と手助けをしてくれることになった。話の間で市長が酷く取り乱しながら恨みつらみを語っていたのには、流石に呆気に取られたけれど……。お陰でカードキーの更新が出来たからいいかな。

 階層を更に上がり、協力者からの情報で重役会議が始まることやそこに宝条も出席する情報を得た。男子トイレからダクトを伝って行けば天井から覗くことが出来るらしい。次の目的地が決まり踵を返すと、警備兵二人と鉢会ってしまった。


「やべぇ、どうするよ!?」
「落ち着いてバレット。ここで戦闘はまずいよ!」
「だけどよお!」


 焦燥を隠せず動きが止まってしまった私たちに警備兵が銃を構え――たはずが、もう一方の兵士が何故かこれを静止させた。


「クラウド? クラウドだよな?」
「え?」


 しかも、何故か親し気にクラウドへ声を掛けだす。その声色には喜びがふんだんに含まれていた。戸惑うクラウドに対して警備兵が更に近付いてくる。


「大丈夫、同期のクラウドだよ! 良かった、生きてたんだな! 心配してたんだ。死んだって噂があったから」


 死んだ? 不穏な単語に思わずクラウドを見上げると、またいつもの頭痛がするのか険しそうな表情を浮かべて頭を抑えていた。しかし警備兵は嬉しそうにしながら


「ちょっと待ってろ、カンセルたちも呼んでくる! ここにいろよ!」


 と言い残してもう一人の警備兵と共に上ってきた階段を下って行った。その足取りは軽く、どれだけクラウドと再会できたことが嬉しいのか伝わってくる。姿が見えなくなって、ようやくクラウドの腕へ声を掛けられた。


「クラウド、まだ痛むの?」
「……いや、問題ない……」


 クラスファーストであるかの真偽は置いといても、クラウドが神羅の人間だったのは事実。潜入してクラウドの知人に会うことを想定していなかったわけではないけれど、まさか対面することになるなんて。
 ……それに、死んだってどういうことなんだろう。ザックスが音信不通だった事件に関与している?

 今悩んでも仕方がないことだと分かっていても、消化できない。結局もやもやしたまま男子トイレからダクトを通じて入ることになったけど……。


「何人もぞろぞろ入って、万が一があったらどうするつもりかしら」
「見張りにバレットをつかせる」
「だったら私も待ってるわ。それにクラウド、あなたその大剣を抱えたまま狭いダクトを通るつもり? 引っかかって金属音でバレるわよ」
「……」


 潜入はクラウドとティファに任せることにして、バレットと私で見張ることになった。と言っても、念のため清掃中の看板を置いておいて、且つ私はバスターソードを抱えて個室の中へは入っておいたけど。
 ダクトから戻ってきたティファの顔色はあまり優れなかった。「ナマエは行かなくて正解だったかも。あんな会話、最低っ」と憤りを覚えているようだった。

 会議室から出てきた宝条の後をこっそり尾行して、人気のないところでバレットが銃口を突きつけた。


「動くな。…聞こえなかったのか?」
「なんだね」
「ここじゃなんだからよ、仲良く中へ入ろうか」


 研究室の中は照明が暗く落とされており、異質な雰囲気を醸し出していた。


「君たちはあれだろ。ナントカいう犯罪組織だろ? それならここにようはないはずだ。プレジデントは上だ。ほら、行きたまえ」
「うるせえ。とっとと歩け」


 動揺や恐怖を抱くこともなく、極めて冷静に宝条は歩き出す。自分は殺されない自信があるのか、興味がさしてないのか。


「まったく、目的を言いたまえ」
「なら手短に。エアリスを返しなさい」
「んん? 見たことのある顔だ。はて、誰だったかな?」


 その余裕さが憎らしかった。警告するように強い口調で告げると、宝条は口元に手を当てて首を傾げる。こちらをじろじろと凝視する目つきに嫌悪感が沸き起こる。それでも視線を逸らさず睨んでいると、にたりと宝条の口角が上がった。


「そうか、彼女によく付き纏っている流浪人か。君のせいでどれだけエアリスを手にする機会を逃したか! 無駄な時間と労力をいくら費やされたかを考えるだけでもキリがない!」
「あら。それは良かった。あなたのイカれた脳味噌を刺激できたようで光栄だわ」


 剣を抜いて、鼻先に突き立てる。


「だがいい。タイミングがいい! エアリスは君に心許している。そんな相手が目の前で死んだら、彼女はどんな顔をするのかな? ああ、それとも殺さずに凌辱させるのも面白いだろう! 強気の女が堕ちる姿はさぞ愉快だろうなぁ!」
「なっ!? きさま!!」
「我ながらいい案だ! 早速取り掛かろう! ……他は……ふふふ、容赦は無用だな」


 途端、上から敵が降ってくる。しかも巨大な筒状のポッド内で眠っていたモンスターが現れ、私たちの前に立ちふさがった。その間にも宝条はエレベーターで上へと昇って行ってしまう。恐らくあの上にエアリスが――そう考えると、私の脚は迷うことなく動いた。


「ナマエ! 一人で行くな!」
「無茶すんじゃ…ってこっちもやべえぞオイ!」


 私とクラウドたちの間にモンスターが塞がる。昇降機のボタンを急かすように何度も押して、ようやく降りてきた中へ乗り込んだ。
 エアリスをとにかく奪還しなければならない。意識はただそこにだけだった。


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