Protect you. | ナノ

14


「こっちは話が纏まったわ。クラウド、あんたあたしの推薦で地下闘技場に出場しな。そこで優勝出来たら、エアリスとナマエを飛びっきりの美女に仕上げてやるよ」
「賞金が出るのか」
「推薦人のあたしにね。どうだい、乗るか?」
「分かった」


 ドレス代を稼げってわけね。さっきまでのクラウドの様子も一変、いつもどおりの状態に戻ったみたいで一つ返事を返す。
 さっきのは一体なんだったのか。ただ手を揉まれただけであそこまで熱に浮かされる? しかも普段言わなそうな言葉を……色艶たっぷりで……。考えるだけでまた顔に熱が籠って、首を横に振った。今はこんなことをしている場合じゃない。


「で、ナマエ。あんた出場するつもりは?」
「もちろんあるわ」
「でしょうねぇ。でも、そのままで出たらすーぐ正体バレるわよ。傾城の美女、蛇腹の踊り子だってねぇ」
「傾城の美女?」
「蛇腹の、踊り子……?」


 懐かしくも羞恥を煽ってくる二つ名に首を横に振る。せめて二人の前では恥ずかしいから口にしてほしくなかった。マムは「知らないのかい」と眉を吊り上げる。


「この娘はね、ウチへひょっこり顔を出したと思ったら、闘技場で優勝を軽々ともぎ取っちまったのさ。誰も勝てなかった優勝者にも、コルネオが差し向けたモンスターも平然と薙ぎ倒してね」
「モンスターが出るのか」
「しかも、この通り美人ときたもんだ。そりゃもう、街中の男が放っておかないさ」
「マム、よしてちょうだい」


 簡単に話していたはずなのに、一部だけでも詳細を告げられるとこっちが堪らない。まるで私へ仕返しをするかのように、マムが扇子を仰ぎながら楽し気に語った。


「立ち姿は絶世の美女。戦う姿はしなやかな踊り子。当時このウォール・マーケットをかつてないほど騒がせたのが、このナマエってわけだ」
「さっきの視線はそれか」
「その目止めてクラウド」
「ま、あんたの腕も確かみたいだしナマエもいるんだ。優勝は間違いなしだろうね。で、ナマエ。あんたは顔を隠した方がいいね。武器は別のを使いな。その腰に付けてるのは玩具じゃないんだろ」
「分かったわよ。顔は? どうすればいい?」
「ぶっさいくな仮面貸してやるから、それ着けときな」


 ぶっさいくって……。まあ、顔がバレないならいいかしら。なんて楽観していたら、目元を隠すマスカレードマスクを手渡された。金色の蝶の羽が右半分の顔を隠し、左側は目元だけ。これ、つけているだけで大分怪しい人だと思うんだけど……。
 そもそもこの服に合わないわと返そうとすれば、師を彷彿とさせる真っ赤な革のコートも手渡された。少し大きめのコートは体のラインも隠すことが出来る。胸部の盛り上がりは隠せないし、名前もそのままだけれど恐らくバレないはず。


「わ、ナマエ、誰か分かんない!」
「……まあ、そうだな」
「言っておくけれど、こんな怪しい私と出場するクラウドも同罪だからね」
「…はあ、覚悟の上だ」




 地下闘技場へ向かうと、予想通り怪しい人物扱いされる。けれどマムの推薦ということもあって、時間ギリギリながらも出場することが叶った。クラウドは、エアリスを残して戦う気だったみたいだけど、当然頷くはずもなく結果三人。これなら余裕かな。


「あんた、単独で戦ったのか」
「そうね」
「……昔から無茶をするんだな。それとも、じゃじゃ馬娘だったのか?」
「し、失礼ね! 誰がじゃじゃ馬よ」


 クラウドを睨みつけるとふっと笑われた。いつもなら、以前みたく綺麗だと告げられたのかもしれないが、何せあの艶美を孕んだ瞳を受けたせいで、咄嗟に視線を逸らしてしまう。
 首を傾げるクラウドと、楽し気なエアリスに囲まれていると、エレベーターが到着した。重い扉が開いて、早速入場を促される。控室には前座試合でボロ負けしたジョニーの姿があって、その心意気だけには拍手を送った。


『さて、次はなんと異種三人組の出場!』
『しかも初参戦!』
『一人はバッチリ怪しい格好をしているぞー?』
『いけすかない!』
『クラウドチームの入場だぁ!」』


 どうせ怪しいわよ。分かっていたことだけれど、溜め息が零れる。初めて参加した時の方が酷い言われようだったから、大分マシかもしれない。女一人なんていいカモだったし、入場すると当然非難の声が飛び交う。けれどそんな彼らも、実力を見せれば鎮まり、別に燃え上がるのだ。
 一回戦目で当たった猛獣使いとモンスターを易々と数秒で倒した刹那、一瞬場内が静まり返った。しかしどっと湧きたつ熱量は当初よりも会場をざわめかす。


「楽勝ね」
「ああ。だがルールが曖昧だな」
「そういうものなの。エアリス、大丈夫?」
「うん! 案外余裕!」
「そう」


 続く第二回戦に入場すると、観客たちの反応が少しだけ変わる。重々しい扉が開かれて現れたのは、まさかのおバカ三人衆だった。しかも背後からは仲間が五人も姿を見せて、つまり八対三。多少腕は上がったみたいだけれど、やっぱりまだまだ弱い。


「あ、ぅ…めがみぃ……」
「死んだふり、できない……」
「めがみ、…ぐっじょぶ…」
「なんでわかっちゃうのかしら?」
「うーん、声とか? 熱狂的ファン、だね」
「ここで殺しとくか?」
「やめてちょうだいクラウド」


 どうしてか彼らに変装はバレたけれど、素性を知られているわけでもないし困りもしない。それにしてもとんでもなく縁があるわね。下手なモンスターよりは大分楽に勝てたからいいけれど。
 お陰で次は決勝戦。以前はスイーパーが出てきたけれど、今年は何かしら。

 廊下にはエアリスやクラウド、顔を隠した私にでさえも花束の贈呈があった。これも昔はすごかったなと懐かしみながら、最終戦へと歩を進める。白熱したコルネオ杯に、ゲートキーパーは興奮を隠せない様子で再び扉を開いた。


「恐れ入ったよ、まぐれじゃなかったんだな。俺は、あんたらに掛けたからな。頼んだぞ!」


 この人も、変わらない
 ――年月が経っても変わらないものはたくさんある。私は、変われただろうか。今こうしてクラウドを見つけることが出来て、でもザックスはいない。少しでも前進、出来ているのかしら。


「ナマエ行くぞ」
「次もさくっと勝っちゃお?」
「ええ、そうね」


 そうだと、いいな――……

 最終戦。扉を切り裂いて現れたのはスイーパー……のみならずカッタースマシンまでもが現れる。神羅兵器の登場には流石にクラウドも顔を険しくした。本当なら蛇腹剣で接続部を薙ぎ払いたいところだけど、今回はそうもいかない。かといって私の持っている拳銃もそこらとはちょっと違う。


「クラウド、援護射撃はバッチリ任せてちょうだい」
「ああ、頼んだ」


 クラウドとの戦いは、どこか面白い。あの頃は荒みながらただ波を掻き分けていたけれど、こういう進み方も悪くはないと思えた。やっぱり、前に進めていると実感する。
 二体の神羅兵器を再起不能にさせた私たちに、会場はざわつきにざわついた。地上に響くのではないかという程の歓声と熱気に包まれる。けれど喜びも束の間、エキストラバトルが発生した。これに打ち勝たないと賞金はもらえないらしい。マムも激しく激怒して、この世のものとは思えない言葉を吐き捨てるものだから、慌ててエアリスの耳を塞いだ。

 ゲートキーパーからの激烈な声援を受けて、再び闘技場へと足を踏み入れる。最初入場した時とは想像も出来ない大いな盛り上がりと歓声が私たちを出迎える。


「クラウドー、こっち見てー!」
「かっこいいー! かわいいー!」
「惚れたぞクラウドー!!」


 そりゃ、クラウドって顔立ち整ってるし、綺麗だし、かっこいいし、可愛いけど……。なんだか知らない人たちにそう盛り上がられるのが面白くなく感じた。前自分が言われた時は、何とも思わなかったのに。


「だって。クラウドさん?」
「なんだ」
「別に? 軽く手でも振ってあげたら? ファンサービスよ」
「要らないだろ。目的は媚を売ることじゃない」
「そうだけど」


 クラウドと居ると自分の中の余裕というか、冷静な部分が削られていく。子どもっぽいところも多々暴かれるみたいで、やっぱり面白くない。


「他の連中がどう思おうが興味ない」
「出た、興味ない」
「あんたは」
「え?」
「あんたは、俺をどう見る」
「どうって……」


 戦う直前だというのに、眼差しの奥に再び熱が点火しているような錯覚を受ける。言葉に詰まっていると『なんと、クラウド選手のお相手は怪しげなマスカレードナマエ選手なのか!?』『ってことはエアリス選手と三角関係!? やはり異色だ――!!』と不可解な盛り上がり方をさせたものだから、すぐに視線を逸らす。


「頼りにしてる。それだとご不満かしら?」
「……どうだろうな」
「もう! 二人とも、目の前に集中!」


 最後のバトルは、コルネオの秘密兵器だった。地中がぱっくりと割れて下から現れたのはどこかで見たことがあるような家。
 ――……ん? 家?


「ただの家、だよね?」
「これもモンスターよ! エアリス、構えて!」
「うっ、うん!」


 ヘルハウス。名前の通り地獄の家ってこと? コルネオってば何を隠しているのよ。呆れる間もなく玄関の扉が開かれると、恐ろしい程の吸引力で体が浮き上がる。


「えっ、や、嘘!?」
「ナマエ!」
「っ、クラウド……!」


 バスターソードを地に突き刺したクラウドが、腕を伸ばす。必死に手を伸ばすと、僅かな接触から引き寄せられて、がっしりと私を抱き寄せてくれた。まずい、なんでこんな場面で胸が忙しなくなるの?
 なんとか凌いでいるうちに再びヘルハウスから魔法が放たれる。中で燃えていた炎がいつの間にか沈静化して氷を纏っている。どうやら属性をころころと変えるモンスターらしい。


「エアリスと一緒に離れて応戦してくれ」
「分かったわ。クラウド、私が絶対に怯ませる。だからその隙にお願い」
「ああ、任せた」


 ホルスターから拳銃を取り出して別のお手製を充填させている間に、何故か家が浮いた。ヘルハウスの下部に足が生えたのだ。この間のエアバスターも浮上したし、もしかして最近は途中で形態を変えるのが流行っているのかしら。


「エアリスを狙ってるぞ!」
「大丈夫、任せて! ――食らいなさい、ショット!」


 拳銃が、屋根から顔を覗かせた頭部へとヒットする。途端、動きが鈍る。本当なら一撃で麻痺させられる弾薬を仕込んであるけど、まだ調整が必要なのかもしれない。それでもクラウドには十分すぎる時間だったらしい。大きく飛躍した身は宙で翻り、頭部へ埋め込んだ銃弾を奥へ押すかのようにバスターソードを深く突き刺す。
 最後の足掻きをするかのようにヘルハウスから飛び出た魔法を、エアリスの魔法と私の銃撃とで撃退していると、巨大な爆発音を派手にかませてヘルハウスを再起不能に追いやった。


「ナイス、クラウド!」
「二人ともっ、やったね!」
「ああ」


 三人で腕を上げてハイタッチをすれば、かつてないほどの歓声が耳を、体全身を震わせた。戦う最中、余裕を見せようと旧友の真似をしているうちに笑いながら戦う術は覚えたけれど、楽しいと感じたことは数少ない。
 それでも今日に限っては、三人で協力して打ち勝ったこの戦いが心を躍らせた。控室へ戻っても未だ届く歓声に、少しだけ口元が緩む。ティファのためと分かっていても、どうしても抑え切れない興奮が尾を引いていた。


「いたいた! あんたら、マムから伝言を頼まれてたんだ!」


 エレベーターで地上へ上がるとゲートキーパーが駆け寄ってくる。どうやらマムは先に戻っているらしい。


「あんたらのお陰で大盛り上がりだ! 久々に俺も興奮したよ! こんなの蛇腹の踊り子ぶりだっ!!」
「そうか」
「もしよかったら、また参加してくれ! あ、その時は姉ちゃんは是非仮面を外して、な?」
「考えておくわ」


 恐らく暫くは無理だろうけれど。
 マムの下へ戻ると、恐ろしく上機嫌に出迎えられた。先にエアリスの身支度を済ませた後、私らしい。奥から出てきたエアリスの変貌に力いっぱい抱きしめるのは数十分後の出来事だった。


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