Protect you. | ナノ

09


 身体が、温かい。とても居心地が良くて、微睡んでいたいくらい。


 ――お前の話すると、エアリスのやつ面白くなさそうな顔すんだぜ? 嫉妬だよ、嫉妬! 可愛いよなぁ
 ――は? しっかり守ってあげろって? とーぜんだろ!? 任せろって!! ……任務で離れてるとき? ……あー……じゃ、そん時はナマエがよろしく! お前の腕は俺のお墨付きなんだから余裕だって!


 ザックスは、私の友であり恩人だ。彼のお陰で剣の腕だってここまで上達できたと言っても過言ではない。そんな彼が残した宝物を、私は守らなければいけない。死ぬなら、せめてエアリスが幸せになってからじゃないと……。


「え、あ……す……」
「うん? ナマエ、起きた?」


 重い瞼を開けると、見知った景色が映る。あれ、どうしてスラムの教会に? 瞬きを繰り返しているうちに視界にひょっこり覗き込んでくる顔があった。エアリスだ。あら、嘘でしょう。私もしかして死んだ? 冗談。まだ死ぬなんて許されないのに。


「…おこられ、ちゃう」
「誰にだ」
「……う?」


 低い声が届く。ザックスじゃない。ザックスよりどこか固いけど、優しさを孕んでいる――?
 瞬きを繰り返すうちに焦点があってきて、エアリスとクラウドが私の様子を窺っていた。辺りを見回すとやっぱりスラムの教会だ。だって私たち、プレートの上から……。


「上から落ちてきたの。天井とお花、クッションになったかな」
「……エアリス? 本物? 生きてる?」
「うん。生きてるのか心配なの、ナマエの方」
「…良かった…無事ね」
「だから、それ、わたしのセリフ!」


 エアリスの頬に手を当てる。私はまだ死んでいない。まだ傍にいてあげられる。


「あんたこそ、どうなんだ」
「クラウド……! あなたも平気?」
「はあ。俺が聞いてるんだ」


 その溜め息の深さ、本物みたい。天井には私とクラウドが落ちてきた穴がぼっこりと開いていた。エアリスの言葉通り、周りの花々がクッション代わりになって助けてくれたのね。運が良かった。


「それで? 何時まで抱き合ってるんですかー?」
「……あっ、わ、悪い……!」
「ううん。こちらこそ」


 体が温もりに包まれていると感じたのは気のせいじゃなかったらしく、クラウドが落下中に引き寄せて守ってくれたようだった。不思議と心地が良くて、未だ腕の中にいたことへ気が付くのが遅くなってしまう。


「ごめんなさい、世話になっちゃったわね」
「謝るな。……ナイトなんだろ」
「……そうね、ありがとう。助かったわ」


 クラウドから離れると、以前のように手を差し伸べられた。床に手をつきながら立ち上がる。


「いい雰囲気?」
「だから、違う!」
「なに怒ってるのクラウド?」
「怒ってない!」


 その割には、声が少し大きいけど。こんな感情剥き出しなんて珍しい。足元に咲く花々に感謝をして、そっと花から離れる。


「せっかくの再会、少しお話する?」
「悪いが急いでいる」
「えぇ? お話したい」


 クラウドと顔を見合わせる。クラウドはどうにかしてくれ、と助けを求めるような顔だったけれど、私としてはエアリスのために時間を少し割きたいかな。


「ちょっとだけお願い。ね?」
「……はあ、仕方がないな」
「やった! それじゃあ!」


 エアリスの表情に花が咲くと、無粋にも教会の扉が開き奥から男たちが姿を現した。即座にクラウドは警戒をしてバスターソードへと手を伸ばす。これを制して、代わりに一歩前へと出た。手は剣柄に。


「邪魔するぞ、と」
「邪魔ね。お帰りくださるかしら」
「はぁ〜ナマエは冷てぇなあ。ま、そこが最高に痺れるんだけどよ」


 警棒を手にしたレノがへらりと笑う。


「あら、ありがとう。でも私、エアリスが大好きなの」
「そんなの知ってるぞ、と。……あ? おい、その頬の傷どうした」
「頬? ……ああ、…まあちょっとね」


 エアバスターとの戦闘で、かな。気が付かなかった。頬に触れても痛みはないし、傷痕が残った所で気にもしない。けれど、私よりも何故かレノの方が面白くないと顔に出していて、不愉快そうに低い声を発する。


「オレ以外が傷つけるなんて許されねぇぞ、と」
「だったらUターンして、いいポーションでも買ってきてくれる?」
「いーや。ナマエがオレのところに来るんだぞ」
「私、優しくエスコートしてくれる殿方がいいわ」


 レノ相手にあまり手加減できないし、向こうも加減してくれると言ったってタークスだからバッチリ強い。銃を求めて背中に手を回したとき、ずきりと肩甲骨に痛みが走る。流石に落下のダメージがゼロってわけにはいかないみたい。蛇腹剣を抜いて、もう一方でそのまま拳銃を手にすると、肩を掴まれて後方へと引っ張られた。


「クラウド?」
「下がっていろ」
「おまえ、何?」


 睨み合うレノとクラウド。初対面みたいだけどお互い敵意剥き出しなのが伝わってきた。ビシビシとぶつかりあう殺気に戸惑っていると、ひょっこりとエアリスが指を立てる。


「この人、わたしとナマエのボディガード。ソルジャーなの」
「ソルジャー?」
「元ソルジャーだ」
「……あらま、魔晄の目。ナマエー、おまえなんつーのとつるんでるんだよ、と」
「交友関係にまで口出しするほど暇なのかしら、タークスって」
「俺個人の話だぞ、と。給料ならタークスの方がいいぜ」
「お金で相手を選ぶ女と一緒にしないでほしいわね」
「ははっ、悪い悪い。っと……なんだあ?」


 まるで私とレノとを遮るように、視界がクラウドの背中でいっぱいになる。なに?


「ボディガードも仕事のうちでしょ。なんでも屋さん?」
「……言ったか?」
「わたしのカン、あたるの! ほらほら、見ての通りナマエの大ピンチ、だよ!」


 全然大ピンチではないのだけれど。


「……いいだろう。でも安くはない」
「デート一回!」
「え?」


 デート一回って、それザックスの常套句。もう、変なこと覚えちゃうんだから。


「こらエアリス。クラウドを巻きこまないの。いつもみたくしっかり撃退してあげるから、下がっていてちょうだい」
「あんたが下がってろ」
「ちょっとなあに? クラウドには関係ないことなんだから、離れてて」
「乗り掛かった舟、だったか」
「あ! 人の揚げ足取らないでよ!」


 一歩前に出ようとするとクラウドに邪魔をされる。故意的に私とレノとを対峙させないかのような動きに、口が尖った。すると何故かクラウドの口角が上がって、こっちの目が丸まる。


「あんた、そんな顔もするんだな」
「ど、どういう顔よ……」
「余裕こいているより、そっちの方がいい」


 な、なにそれ……。肩越しに告げられる言葉に不覚にも胸が締め付けられる。咄嗟に視線を逸らすと、また小さく笑われた気がした。


「へぇ、見せつけてくれんじゃん。……クラスは?」
「ファースト」
「くっ、はは……いくらなんでもファーストって、おまえよお」


 挑発的なレノへ、クラウドが斬り込む。


「お花、踏まないで!」
「だってよ」


 同行者の神羅兵に指示を出すと、クラウドへと襲い掛かる。流石にその数は舐めすぎ。案の定一振りで吹っ飛ばされた様子に「へぇ」とレノが反応した。


「かったるいけど出番だぞ、と」
「クラウド気を付けて!」


 迅速な動きで背後を取ったレノの警棒が振り下ろされる。それを巧みに避けるクラウドに、レノの口角が吊り上がった。二人の攻防は激しく続く。金属音がぶつかり擦れる摩擦音が耳の奥を揺らした。


「おまえ、ナマエに惚れてんの?」
「は? ……どいつもこいつも、関係ないだろ」
「俺は惚れてるぜ」
「なっ」
「あんなイイ女、中々いねえ。強いだけじゃねえ、芯がある。おまえにはちっと高嶺の花だぞ、と」
「っ興味ないね」


 何の話をしているのか、衝撃音の激しさでよく耳に届かないが、レノがいつものように挑発しているのだろう。クラウドが冷静沈着な人で助かった――ん? 冷静沈着でもないか。クラスファーストを笑われて襲い掛かったんだし。でも、あのレノの反応を見るにやっぱりクラウドは――……。
 考えに耽っていると、レノの片膝がつく。そこへクラウドが大剣を振り下ろすところだった。


「クラウドストップ!!」


 慌てて蛇腹剣を伸ばそうとした直前に、フィーラーが私たちの前に現れた。クラウドも視認出来るのか驚いたように剣を振るう手が止まる。フィーラーはクラウドと私、エアリスだけを抱えて扉の奥へと押し込めた。まるで雪崩だ。


「こいつらは……」
「襲って、こないね……」
「だったら都合がいいわ。追手が来る前に、ここから離れましょう」


 閉じられた扉を神羅兵がどんどんと叩いていた。どうやらフィーラーが扉が開かれないように塞いでくれているらしい。意図は分からないけれど。


「なんだか通せんぼばかりね」
「あそこ、屋根裏にあがれるよ」
「ああ。穴から出られるな」


 エアリスが奥の穴を指差した時、手摺りが脆かったのか突如として崩れ、その身体が前のめりになる。


「エアリスっ!?」
「……え?」


 落ちそうになった身を助けたのは、私でもクラウドでもない。フィーラーだ。……どうして?


「助けて、くれた?」
「まさか……」


 古い教会だからところどころ足場が脆い。人一人が通れるだけの木の板を渡って奥の道へ進む。


「エアリス、おいで」
「う、うん」


 一歩、一歩と慎重に進むエアリスへ手を差し伸べていると、遂に塞がれていた扉が突破された。神羅兵が私たちに気が付くとすぐさま銃口を向けてくる。


「待て、撃つな!」
「っきゃ!?」


 銃弾が木の板を壊し、エアリスが一階へと滑り落ちてしまった。なんてことしてくれるのかと睨みつけると、レノが兵士へ「怪我なんかさせてみろ。おまえ、終わるぞ」と忠告をしている所だった。新人兵士でも連れてきたのだろうか。


「クラウド、サポートよろしく」
「は? っおい!」


 ウインクを一つ飛ばして、飛び降りる。瓦礫の側面へ足を滑らせてエアリスが辿った道を同じように追った。未だに尻もちをついているエアリスへ手を差し伸べながら、もう一方の手で銃を構える。


「お、ナマエ。やっぱり下りてきたな?」
「ずいぶん手荒い扱いに文句を言いたくてね」
「あー……そりゃ悪かったぞ、と」
「女性へのエスコートがへたくそな男は、嫌われるわよ?」
「っレノさん!」
「やめろやめろ。撃った瞬間におまえの脳味噌がはじけ飛ぶぞ」


 私へ向けられた銃口がぴくりと震えた。そんな兵士へにっこりと微笑む。それは牽制。


「目的は保護だぞ、と」
「残念でした。帰って教育に専念してちょうだい」
「うおあ!?」


 その言葉と同時に、銃口を向けてきた神羅兵の足元にシャンデリアががしゃんと落ちた。クラウドだ。すぐにエアリスの手を取って階段を駆け上がる。銃口は私からクラウドへ。その神羅兵の足元を次は私が狙撃をして、ようやく再び合流した。三人で屋根裏への階段を上ると、そこにもフィーラーが浮遊している。


「ここにもいるのか」
「こっち、来ませんように」
「俺から離れるな」
「わ、かっこいい。ねー、ナマエ?」
「ふふ。そうね」
「あんたは勝手に突っ走るな。援護のしようもない」
「あら、してくれたじゃない。的確だったわよ?」
「……はぁ」


 屋根裏を進んでいくうちにレノたちは撤退をしていき、フィーラーもまた姿を消した。今日は少ししつこかったかもしれない。クラウドがいたせいなのか、別の用事があるのかは分からないけれど。ようやく教会から外へと出ると眩しい日差しが差し込んできて、目が細まった。


「ねえ、これからどうするの?」
「暫くはボディガードだ」
「そうでした」
「その後、七番街のスラムへ戻る」
「道、分かる?」


 クラウドの視線が私を一瞥する。


「……ああ」
「なんか怪しい」
「分からないわよ、クラウドは」
「おい!」
「事実じゃない、ふふ」


 合わせろ、という意味で見てきたのかもしれないけれど、さっき人の揚げ足をとった罰よ。


「だいたい、あいつらは何なんだ」
「神羅のタークスね」
「そんなことは知っている。なんで親しげに話していた」
「何でって言われても」
「ナマエ、人気者だから! いっつもデートのお誘い、受けてるよね?」
「その情報は必要なのかしら?」
「少なくとも、クラウドには。ね?」
「……俺に振るな」


 まあ、エアリスが楽しそうならいっか。


「で、タークスがあんたらに何の用だ」
「さぁ? わたし、ソルジャーの素質すっごくあるのかも!」
「……もういい」
「あれ、怒った?」
「クラウドってば、そうやって話打ち切るのよね」


 それにも慣れたかも。エアリスがいて、クラウドもいるこの空間がむず痒い。ここにザックスも居ればよかったのに――ううん、今は二人と一緒に居られる喜びを噛み締めたい。この二人を、私が守っていかないと。


「ちょっと、ちょっと待って!」
「質があるんじゃなかったのか」
「もう、意地悪!」


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