そして、飛躍していく | ナノ

変わっていく日常

湘北の副生徒会長は強い。逆らってはいけない。
その言葉が未だに根強く校内で駆け巡っている頃、更に追加して決まりが出来たのをナマエは知らない。

「おはようございます、ミョウジ先輩!」
「おはようございます!!」
「あら、おはよう。今日も朝から良い声ね」
「はいっ! では、失礼致します!」
「は、はぁ……」

高校生が頭を90度下げて固い敬語を使って去っていく。その姿を見送った後も、続くように元気な挨拶が飛び交った。副生徒会長としてだけではなく、各部活にヘルプに行く身且つそれぞれ部活で後輩たちと良好なコミュニケーションを取っている故の交流の深さだが、最近はやけに皆元気であった。

「本当に怖がられてるのかしら」
「ありゃあ凄ぇ迫力だったからなぁ」
「竹内……もう、皆して酷いんだから」
「おっす、ミョウジ」

ラグビー部の副キャプテンである竹内が横に並ぶ。

「この間の決勝戦、惜しかったわね」
「全くだぜ。最後の最後ってところでやられちまった。けどよ、不思議と悔いはねぇんだよなぁ」
「ふふ、それなら良かった。部活は引退しないって聞いたわよ」
「まぁな。あいつらに任せるのはまだまだ早ぇってワケよ」

竹内と肩を並べながら玄関へ辿り着いたときに、ふと竹内が「おっと」と両手を上げだした。一体どうしたのだろうかと首をかしげる。

「なぁに、靴箱にラブレターでも入ってた?」
「はは、だったら良かったんだけどな。……あー、じゃ俺先行ってるわ! 何もしてねぇからな!」
「え? んもう、何よ突然」

勢いよく靴を履き替えた竹内の背中を眺めて、口を尖らせる。まさか竹内さえも自分に恐怖心を抱いているのではないだろうか。やりすぎたかなぁと、先日の件を振り返りながら自分の靴を履き替えた時だった。

「ナマエセンパイ」
「あら、流川。おはよう」
「うす」

流川が挨拶の直後に、眠そうに目尻に涙を浮かべながら、くぁ……と大きな欠伸を溢す。その視線が、ふと階段の方へと向かっていった。

「今の、誰っすか」
「今の……って、ああ。ラグビー部の副キャプテンよ。ラグビー部ね、IH予選で準決勝だったの! バスケ部と一緒ね。今後が凄い期待されてるんだから」
「……ふぅん」

聞いておいてそれだけ、が流川である。ナマエは靴箱の扉を閉めて、流川を見上げた。髪の毛が少し跳ねている。横顔もまたカッコいいのだと改めて思わされた。今まではここまで注視したことなど、最初の頃ぐらいだっただろうに。改めて流川から告白を受けて、まさか恋人同士というのは中々信じられない出来事だった。

「……センパイ、今日は?」
「生徒会あるわよ。IH出場する選手たちをサポートするためにも今いろいろ手配中」
「迎え行く」
「ふふ、流川の方が遅い癖に」
「む」

しかもあの流川がこうして自分を気にかけてくれている。ナマエは嬉しさを隠さずにくすくすと笑った。

「今日は朝練習してきたの?」
「ねぼーした」
「だから髪跳ねてるのね」
「跳ねてる…っすか」
「気になるから鏡見てきたら?」
「いー」

だろうと思った。

「ほら、早く教室に行きなさい。お昼の時間は取っといてあげるから」
「上から目線……」
「事実でしょう? 私は行くわよ。今日は日直なんだもの」

職員室へ行って日誌を貰ってこなければ。ナマエがそういって手を振り、背中を向けた直後だった。いつものようにカバンを引っ張られる。いつもと違うのは、その力がとても強いことだろう。体勢が崩れて咄嗟に後方へ倒れそうになったのを、恐らく流川の胸元が受け止める感触がした。

「こら、引っ張る力を考え――っ!?」
「……起こしに来てクダサイ」
「…………」
「じゃ」

上から降ってきた感触に、ナマエは硬直した。途端、流川の表情が勝ち誇る。ナマエがしたのと同じように手を振り、そのまま1年の靴箱へと足を進めて去って行った。取り巻きたちもまた硬直し、次第に声を荒げる。

「朝から熱いですねー!」
「よっ、流石だぜ、流川のヤロー!」
「イケメンはやることが違うなぁ……」

「も〜〜ナマエ先輩ずるーい!!」
「流川くんって……キスするんだ……ショック……」
「ベスト身長差!! グッジョブ!!」

生徒会副会長であるミョウジナマエには手を出すな。頭のキレる本人からの恐ろしい公衆での報復が待っている。精神が崩れるから止めておけ。あの人は、強い。そして、手を出せばあの流川楓が黙ってはいない。邪魔をしたら容赦ない目に遭うから大人しく身を引け。そんな言葉が出回っていると知ったのは、数日後だった。

「っ〜〜流川ってば……!」

ナマエは顔を赤くして、逃げるように足早で消えていった。

流川と付き合ってから。いや、付き合う前に覚悟しておけと言われてから、彼のスキンシップは激しさを増す。あの流川楓のナマエへの熱中ぶりには、ナマエ自身も本物なのかと疑うものがあった。けれど、バスケへの熱の強さを受けられる立場であることを、同時にどうしようもなくなるほど嬉しくなる。

先輩としての立場で何とか優位に立とうとしても、そのうち追い越されそうだなぁと笑みを零した。そして、大事な最後の1年を去年よりももっと大切にしようと心に誓うのである。

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