仮面を脱ぎ捨てるとき
昼休み。3年の廊下は騒然としていた。
女子生徒たちにとって怒りの対象であるナマエが、全く歯牙にもかけない態度なのだ。臆することもなく毅然とした姿に、苛立ちが募っていた。
「余裕ぶっこいちゃってふざけないでよ!」
「迷惑してるのよ!」
「生徒会にこんな人間いるなんて知らなかった!」
「3年生だからって何でもしていいとか思わないでください!!」
一部の女子生徒が集い、ナマエに対して非難の声を浴びせる。事情の一切知らず噂に踊らされている同フロアの生徒たちは、口を出せずに遠くからナマエたちへと視線を向けていた。そこには、厳しい視線も混じっている。
「流川くんの邪魔しないで!」
「もう部活にだって来ないでください!」
「生徒会だって辞めちゃえ!」
「中途半端に来られたって何の役にも立たないし!」
再び、背後から怒りに満ちた赤木の怒声が飛びそうになり、ナマエは咄嗟に腕を伸ばす。そして、大きくため息を吐いた。口角はまだ上がっている。
「何笑ってんのよ、男漁ってんじゃねぇアバズレ!!」
激昂した後輩の腕が、ナマエの肩を強く押す。その腕を、ナマエは強く掴んだ。
「なッ、なに! 副会長が生徒に手出して良いわけ!?」
「手は出さないわよ。ただ……そうね、アナタ1年4組の佐々浦さんでしょう」
「それがどうしたってんだ!」
ナマエはにっこりを微笑んだまま、口を開く。
「アバズレはどちらかしら。学校に通報があったわよ、近くの銀行に勤めているサラリーマンに対してパパ活しているみたいね」
「はッ……!? な、なに証拠ねぇこと言ってんだ!」
「証拠ならあるわよ、生憎職員室だけど。名前をここで言った方がいい? それとも、初めて行ったラブホテルの名前と部屋番を言った方がいいかしら? 彼、アナタに脅されてるって泣きながら電話してきたそうよ。写真を撮られたんだって言っていたけど、その腰に提げている古いカメラかしら。それ貸していただける?」
「ざっ、けんな! テキトー抜かしてんじゃねぇ!!」
後輩、佐々浦が顔を真っ赤に染め上げて腕を振り払う。その手は腰に提げているケースへとすぐに行き、カメラが入っているのはそこかとナマエは笑顔を深めた。
「アナタたちが好き勝手に言うのは勝手よ。部活へのサポートも私はお願いされたときにしか行かないし、邪魔だというなら部長と話し合ってもう行かないわ。それぞれ、所属の部活を教えてちょうだい」
「はぁ? 何言ってんですか、そうやって他の人間巻き込んで卑怯者!」
「卑怯はどちらかしら。アナタ1年2組の塚越知さんね。女テニみたいだけど、練習に熱心じゃないと部長が嘆いていたわよ。こんなことしている暇があるなら練習すればいいんじゃないかしら」
「そ、そんなのカンケーないじゃないですか!」
1人、一歩下がった。ナマエは更に笑みを深めながら、次の女子生徒へと視線を移す。額に汗を掻いているのは、自分たちの愚かさを知ってか、それとも次の対抗手段を考えてなのか。
「次。1年1組の澤口さん、アナタは放送部だったわね。アナタが昨日見たことは事実よ。確かに私はツンツン頭の男の人と一緒に歩いていたわ。……で、アナタに男の友人はいないのかしら?」
「は?」
「彼は私の友人よ。その人と歩いていただけでアバズレだなんて、酷いんじゃなくって?」
「べ、別にその人だけじゃないんでしょ! 私他にも見たわよ! 先週ラグビー部の」
「竹内はラグビー部の副キャプテンであり、今年の予算について話し合っていた帰りじゃないかしら。先生もご存じよ。はい、他には」
「な、な、何よその態度! 自分が悪くないって!?」
慌てる澤口にナマエはいよいよと呆れの溜め息が付いた。散々苛めてきておいて、結局は全てが幼稚で簡易なのだ。こうして向き合って正論を叩きつければ、簡単に崩れていく。これならまだ去年の苛めの方が、迫力も嫌味も何もかもが揃っていた。人の髪の毛を切ってきたり、モップで叩こうとしてきた女がいたからだ。
「言っておきます。この件に関してアナタたち……皆よ、ここにいる皆。アナタたちが信じようと信じまいと勝手にしてちょうだい。でも、私は間違ったことはしっかりと否定させて頂きます。そして、正しい処置を持って、アナタたちに応えます」
ナマエは勢いよく踵を返した。背後にいたクラスメイトは毅然としたナマエの態度に呆然としながら、咄嗟に道を開ける。自分のカバンからいくつか物を取り出して、ナマエはそれを女子生徒たちの足元へと投げた。
その袋の中にはさまざまなものが詰められていた。手紙であり、ゴミであり、画鋲やカッターの刃であり、隅には虫の死骸もある。近場にいた関係のない男子が顔を青ざめた。
「警察に被害届出して指紋でも調べてもらおうかしら。それとも、今ここで持ち帰ってなかったことにしてあげましょうか」
「な、何なのよ……」
「あんたが、悪いんじゃない! 流川くんに近付いたあんたが……!」
懲りない生徒に、ナマエの目の色が変わる。
「苛めたいならもっと気合入れて苛めに来い」
「っ」
「幼稚な苛めで私の心が折れると思った? 流川流川っていうけど、アナタたち彼に何かアクションした? 話してるだけで妬んでたらこの先妬んでばっかで疲れるわよ。後、先輩には敬語を使って礼儀を弁えなさい、無礼者」
「っな、なに…よ……そんな……酷い……」
低い、ドスの利いた声。先程まで笑っていた姿が無表情で見下してきて、初めて女子生徒たちが恐れに唇を震わせた。それを見てナマエは微かに口角を上げる。貶すような瞳で1人ひとりを見やった。
「誰が酷いの。この状況下、誰がアナタたちを肯定してくれると思う? ほら、そこの君、今のをみてどっちが悪いと思うのかしら」
「エッ!? や、……あの……こ、この子たち、です……」
「ですって。懲りずに苛めたいならそれでもいいけれど、私も優しい対応じゃ済まさないわよ。アナタたちが先生や親、警察に泣きつこうが、それを黙らすだけの証拠をもって対応させて頂くから。やるなら十分に覚悟してからしてちょうだいね」
威圧的な瞳に、1人が声を上げて泣き始める。それに釣られるようにして、もう1人が涙を流して逃げ去った。それでも、まだ対抗する生徒はいてナマエへと睨みを利かせる。
「そうやって脅してきたって私たち屈しません! 流川くんだってメーワクしてるんですよ!」
その言葉と同時に、ナマエは初めて目を見開いた。女生徒は勝ち誇ったように笑みを浮かべたが、ナマエの視線は自分よりも後ろ、少し上へ向いている。思えば影が差してきたし、辺りが騒然として来ているなと女子生徒が顔を上げて……顔面蒼白した。
「……誰がメーワクしてるって」
「るっ流川くん!?」
何故、ここに流川がいるのだろうか。ナマエは目を瞬かせたまま流川をじっと見つめる。彼の細い瞳はナマエへ向けられ、次第に教室内、女子生徒の足元に落ちている袋へと向く。ゆっくりと上半身を屈めてその袋に手を付けた。
「そ、それ、この人が私たちに投げてきたんです!」
「そうなの流川くん! 流川くん、騙されてるのよ!」
自分たちにチャンスが巡ってきたと言わんばかりに、女子生徒たちは口々に声を発する。ナマエは静かに口を閉ざしたままだ。それをいいことに更に言葉が重なった。
「昨日だってツンツン頭と男と遊び歩いていたのよ! 流川くんのことだって遊びなのよ!」
「そーよそう! 去年だってサッカー部の部長をぶっ!?」
流川は、袋を女子生徒の顔面に投げ捨てた。たまたま、投げ捨てた先が女子生徒なのだが。ナマエは刃物にガムテープを貼っておいてよかったとそこで安堵する。安堵するポイントが、ズレているのは気のせいであろう。
「ツンツン頭……」
「……ふふ」
流川の眉間に皺が寄って、ナマエは笑って誤魔化した。ちっと小さな舌打ちをしながら、女子生徒たちへと視線を初めて移す。
「よくわかんねーこと耳にすんだけど」
「えっ?」
「流川くん……?」
「俺がこの人に遊ばれてるとか、弱み握られてるとか」
「そ、そ、そうなんでしょ!? じゃないと、流川くんがこの女相手にするわけ」
そこで、女子生徒たちの身体が硬直する。長身の流川、整った顔立ちに普段は赤くなる頬も、再び血の気が引いていく。流川の細いシビれるような瞳が、自分たちを見下しているものだと悟ったのだ。
「俺が、勝手にナマエセンパイに惚れてるだけ」
その言葉が、辺りを騒然とさせた。
「人のコイジを邪魔すんな」
流川楓の口から出た衝撃の言葉に、ばたりと数名が倒れた。流川の睨みを受けている女子生徒は唇を震わして、言葉を発そうにも何も出てこない。
「つーか、どっちがメーワクだ。練習中もうるせぇ、貴重な昼寝の時間も邪魔しやがって」
「え、…ぇ…わ、私たち、…流川くんの、ために…」
「頼んでねぇ」
バッサリと告げて、流川はくわぁと欠伸を漏らした。もしや先程まで寝ていたのだろうかナマエは場にそぐわずに笑みをこぼすと、流川の視線を受けて肩をすくめた。
「もう一度言っとく。邪魔すんな。次したら容赦しねー」
その言葉は女子生徒たちだけではなく、何故か周囲へ向けられたのではないかと思う程鋭利なものだった。女子生徒たちが、一歩、二歩と後退り、転倒しそうになりながら逃げ去っていく。取り巻きたちはどよめきを上げていた。
「あーぁ、せっかくの証拠品持って帰らなくていいのかしら。これ、取っておくの心苦しいんだけどな」
ナマエはゆっくりと落ちた袋を手に取る。そのまま、流川へと向かい合った。静かな怒りを宿した瞳がこちらを睨みつけている。
「ふふ、怒らないで流川」
女子生徒たちにとって怒りの対象であるナマエが、全く歯牙にもかけない態度なのだ。臆することもなく毅然とした姿に、苛立ちが募っていた。
「余裕ぶっこいちゃってふざけないでよ!」
「迷惑してるのよ!」
「生徒会にこんな人間いるなんて知らなかった!」
「3年生だからって何でもしていいとか思わないでください!!」
一部の女子生徒が集い、ナマエに対して非難の声を浴びせる。事情の一切知らず噂に踊らされている同フロアの生徒たちは、口を出せずに遠くからナマエたちへと視線を向けていた。そこには、厳しい視線も混じっている。
「流川くんの邪魔しないで!」
「もう部活にだって来ないでください!」
「生徒会だって辞めちゃえ!」
「中途半端に来られたって何の役にも立たないし!」
再び、背後から怒りに満ちた赤木の怒声が飛びそうになり、ナマエは咄嗟に腕を伸ばす。そして、大きくため息を吐いた。口角はまだ上がっている。
「何笑ってんのよ、男漁ってんじゃねぇアバズレ!!」
激昂した後輩の腕が、ナマエの肩を強く押す。その腕を、ナマエは強く掴んだ。
「なッ、なに! 副会長が生徒に手出して良いわけ!?」
「手は出さないわよ。ただ……そうね、アナタ1年4組の佐々浦さんでしょう」
「それがどうしたってんだ!」
ナマエはにっこりを微笑んだまま、口を開く。
「アバズレはどちらかしら。学校に通報があったわよ、近くの銀行に勤めているサラリーマンに対してパパ活しているみたいね」
「はッ……!? な、なに証拠ねぇこと言ってんだ!」
「証拠ならあるわよ、生憎職員室だけど。名前をここで言った方がいい? それとも、初めて行ったラブホテルの名前と部屋番を言った方がいいかしら? 彼、アナタに脅されてるって泣きながら電話してきたそうよ。写真を撮られたんだって言っていたけど、その腰に提げている古いカメラかしら。それ貸していただける?」
「ざっ、けんな! テキトー抜かしてんじゃねぇ!!」
後輩、佐々浦が顔を真っ赤に染め上げて腕を振り払う。その手は腰に提げているケースへとすぐに行き、カメラが入っているのはそこかとナマエは笑顔を深めた。
「アナタたちが好き勝手に言うのは勝手よ。部活へのサポートも私はお願いされたときにしか行かないし、邪魔だというなら部長と話し合ってもう行かないわ。それぞれ、所属の部活を教えてちょうだい」
「はぁ? 何言ってんですか、そうやって他の人間巻き込んで卑怯者!」
「卑怯はどちらかしら。アナタ1年2組の塚越知さんね。女テニみたいだけど、練習に熱心じゃないと部長が嘆いていたわよ。こんなことしている暇があるなら練習すればいいんじゃないかしら」
「そ、そんなのカンケーないじゃないですか!」
1人、一歩下がった。ナマエは更に笑みを深めながら、次の女子生徒へと視線を移す。額に汗を掻いているのは、自分たちの愚かさを知ってか、それとも次の対抗手段を考えてなのか。
「次。1年1組の澤口さん、アナタは放送部だったわね。アナタが昨日見たことは事実よ。確かに私はツンツン頭の男の人と一緒に歩いていたわ。……で、アナタに男の友人はいないのかしら?」
「は?」
「彼は私の友人よ。その人と歩いていただけでアバズレだなんて、酷いんじゃなくって?」
「べ、別にその人だけじゃないんでしょ! 私他にも見たわよ! 先週ラグビー部の」
「竹内はラグビー部の副キャプテンであり、今年の予算について話し合っていた帰りじゃないかしら。先生もご存じよ。はい、他には」
「な、な、何よその態度! 自分が悪くないって!?」
慌てる澤口にナマエはいよいよと呆れの溜め息が付いた。散々苛めてきておいて、結局は全てが幼稚で簡易なのだ。こうして向き合って正論を叩きつければ、簡単に崩れていく。これならまだ去年の苛めの方が、迫力も嫌味も何もかもが揃っていた。人の髪の毛を切ってきたり、モップで叩こうとしてきた女がいたからだ。
「言っておきます。この件に関してアナタたち……皆よ、ここにいる皆。アナタたちが信じようと信じまいと勝手にしてちょうだい。でも、私は間違ったことはしっかりと否定させて頂きます。そして、正しい処置を持って、アナタたちに応えます」
ナマエは勢いよく踵を返した。背後にいたクラスメイトは毅然としたナマエの態度に呆然としながら、咄嗟に道を開ける。自分のカバンからいくつか物を取り出して、ナマエはそれを女子生徒たちの足元へと投げた。
その袋の中にはさまざまなものが詰められていた。手紙であり、ゴミであり、画鋲やカッターの刃であり、隅には虫の死骸もある。近場にいた関係のない男子が顔を青ざめた。
「警察に被害届出して指紋でも調べてもらおうかしら。それとも、今ここで持ち帰ってなかったことにしてあげましょうか」
「な、何なのよ……」
「あんたが、悪いんじゃない! 流川くんに近付いたあんたが……!」
懲りない生徒に、ナマエの目の色が変わる。
「苛めたいならもっと気合入れて苛めに来い」
「っ」
「幼稚な苛めで私の心が折れると思った? 流川流川っていうけど、アナタたち彼に何かアクションした? 話してるだけで妬んでたらこの先妬んでばっかで疲れるわよ。後、先輩には敬語を使って礼儀を弁えなさい、無礼者」
「っな、なに…よ……そんな……酷い……」
低い、ドスの利いた声。先程まで笑っていた姿が無表情で見下してきて、初めて女子生徒たちが恐れに唇を震わせた。それを見てナマエは微かに口角を上げる。貶すような瞳で1人ひとりを見やった。
「誰が酷いの。この状況下、誰がアナタたちを肯定してくれると思う? ほら、そこの君、今のをみてどっちが悪いと思うのかしら」
「エッ!? や、……あの……こ、この子たち、です……」
「ですって。懲りずに苛めたいならそれでもいいけれど、私も優しい対応じゃ済まさないわよ。アナタたちが先生や親、警察に泣きつこうが、それを黙らすだけの証拠をもって対応させて頂くから。やるなら十分に覚悟してからしてちょうだいね」
威圧的な瞳に、1人が声を上げて泣き始める。それに釣られるようにして、もう1人が涙を流して逃げ去った。それでも、まだ対抗する生徒はいてナマエへと睨みを利かせる。
「そうやって脅してきたって私たち屈しません! 流川くんだってメーワクしてるんですよ!」
その言葉と同時に、ナマエは初めて目を見開いた。女生徒は勝ち誇ったように笑みを浮かべたが、ナマエの視線は自分よりも後ろ、少し上へ向いている。思えば影が差してきたし、辺りが騒然として来ているなと女子生徒が顔を上げて……顔面蒼白した。
「……誰がメーワクしてるって」
「るっ流川くん!?」
何故、ここに流川がいるのだろうか。ナマエは目を瞬かせたまま流川をじっと見つめる。彼の細い瞳はナマエへ向けられ、次第に教室内、女子生徒の足元に落ちている袋へと向く。ゆっくりと上半身を屈めてその袋に手を付けた。
「そ、それ、この人が私たちに投げてきたんです!」
「そうなの流川くん! 流川くん、騙されてるのよ!」
自分たちにチャンスが巡ってきたと言わんばかりに、女子生徒たちは口々に声を発する。ナマエは静かに口を閉ざしたままだ。それをいいことに更に言葉が重なった。
「昨日だってツンツン頭と男と遊び歩いていたのよ! 流川くんのことだって遊びなのよ!」
「そーよそう! 去年だってサッカー部の部長をぶっ!?」
流川は、袋を女子生徒の顔面に投げ捨てた。たまたま、投げ捨てた先が女子生徒なのだが。ナマエは刃物にガムテープを貼っておいてよかったとそこで安堵する。安堵するポイントが、ズレているのは気のせいであろう。
「ツンツン頭……」
「……ふふ」
流川の眉間に皺が寄って、ナマエは笑って誤魔化した。ちっと小さな舌打ちをしながら、女子生徒たちへと視線を初めて移す。
「よくわかんねーこと耳にすんだけど」
「えっ?」
「流川くん……?」
「俺がこの人に遊ばれてるとか、弱み握られてるとか」
「そ、そ、そうなんでしょ!? じゃないと、流川くんがこの女相手にするわけ」
そこで、女子生徒たちの身体が硬直する。長身の流川、整った顔立ちに普段は赤くなる頬も、再び血の気が引いていく。流川の細いシビれるような瞳が、自分たちを見下しているものだと悟ったのだ。
「俺が、勝手にナマエセンパイに惚れてるだけ」
その言葉が、辺りを騒然とさせた。
「人のコイジを邪魔すんな」
流川楓の口から出た衝撃の言葉に、ばたりと数名が倒れた。流川の睨みを受けている女子生徒は唇を震わして、言葉を発そうにも何も出てこない。
「つーか、どっちがメーワクだ。練習中もうるせぇ、貴重な昼寝の時間も邪魔しやがって」
「え、…ぇ…わ、私たち、…流川くんの、ために…」
「頼んでねぇ」
バッサリと告げて、流川はくわぁと欠伸を漏らした。もしや先程まで寝ていたのだろうかナマエは場にそぐわずに笑みをこぼすと、流川の視線を受けて肩をすくめた。
「もう一度言っとく。邪魔すんな。次したら容赦しねー」
その言葉は女子生徒たちだけではなく、何故か周囲へ向けられたのではないかと思う程鋭利なものだった。女子生徒たちが、一歩、二歩と後退り、転倒しそうになりながら逃げ去っていく。取り巻きたちはどよめきを上げていた。
「あーぁ、せっかくの証拠品持って帰らなくていいのかしら。これ、取っておくの心苦しいんだけどな」
ナマエはゆっくりと落ちた袋を手に取る。そのまま、流川へと向かい合った。静かな怒りを宿した瞳がこちらを睨みつけている。
「ふふ、怒らないで流川」