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XILLIA2

6▽ 走り出す運命

「――……あさ……。」


目覚めは唐突に訪れる。
ふと瞼が開き、カーテン越しに明るい光が部屋に差し込んでいた。
休日だからと少々寝過ごしてしまったようだ。
時計を見ると、針は既に10時を少しばかり過ぎている。


「んッ……んー。」


大きく伸びをすると、GHSが点滅していることに気が付く。
どうやらメールを受信していたようだ。全然気づかなかった。


「ユリウスさん?」


すぐに開けば、差出人はユリウスさんで。

どうしたんだろう。……もしかして、
「ルドガーの初出勤が心配だ、仕事が手につかん!」
みたいなメールではないよね?


「……ん?」


白い画面に浮かぶ、黒い文字に思わず目をこする。
だが浮かんでいる文字は当然ながら変わらない。


「『ルドガーを頼む』……は?」


つまり「初出勤が心配だ、ルドガーの様子を見て来てくれ。」
ということなのだろうか? マジか。
良く分からない。


「……とりあえず、様子見に行くか。」


それで、元気に働いている姿でも写メってユリウスさんに送ってあげよう。
きっと仕事も一気に捗るはずだ。

そうだ! そう言えばルドガーに就職祝いをあげていない。
コックにアローサルオーブは不要だし……、何か役立てるものがいいよね。

とりあえず、まずはルドガーの様子でも見に行くか。


――何も疑問を持たずに、私はのんびりとトリグラフ駅を目指した。
そう、何も、何1つ疑問を持たずに。



「……え、?」



トリグラフ中央駅。
その場は、あまりにも騒然としていた。



「どういうこと……?」

「被害状況は!?」
「まだ分からない! だがアスコルドは火の海だ!」
「もう突っ込んだのか!? どうにかできないのか!」
「無理に決まってるだろ!」
「そっちは会見の準備をしておいてくれ!」
「アスコルドに連絡を!」
「被害者数は!?」
「分からん、列車に乗っている奴全員だ!!」
「医療班を呼べ! クラン社にも連絡して医療エージェントを要請するんだ!」


「……なに、どうなって――…!」


はっと、思い出した。
前にあの上司が言っていた言葉を。すっかり忘れていたあの言葉を。


『来週にアスコルド自然工場のセレモニーが開催されるのは知っているな?』
『そのセレモニー会場にてアルクノアが動くのではないかという噂が近頃流れている様子。』
『たかが噂ではあるが、火のないところに煙は立たない。』


まさか、まさか。


『ルドガーを頼む』


まさか。


「あのッ、すみません! ここにルドガー、…今日から勤務予定のコック来てませんか!?」
「なに、あんた知り合いかい? 来てないよ、むしろぱっぱと呼んでほしいもんだね。せっかくいい人材が入ると思ったら初日から遅刻かい?
どういう神経してんだ、最近の若いモンは。事件まで起こるし冗談じゃない。」
「――……どこ、どこにいるのルドガーは……。」


ルドガーは?
ユリウスさんはどうした?
それに列車に乗っているビズリー(社長)は……。

駅を見回すと、銃弾の痕跡がある。
間違いない。こんな荒れたことするのは、アルクノアだ。


「ッ、」


すぐさまGHSを取り出して、ルドガーに連絡する。
だが――


『はいはーい、こちらルドガー君のGHSでーす。』


……誰。


「失礼ですが、そちらにルドガーいらっしゃいますか?」
『あ〜、なにルドガーくんのお友だち?』
「えぇ。」
『悪いけど、今はオトリコミ中でねぇ。』


悪意しか感じない、この相手。
まさか……?


「ルドガーをどうしたの。まさかあなた、アルクノア?」
『おーおー、一気に殺意こもった声だ。怖いねェナマエちゃんは。』


!?、この男、私の名前を……!?
思わずGHSを握る手に力が入る。
ふと、GHS越しにルドガーの声が微かながら耳に入ってきた。
どうやら無事ではあるらしいが……イマイチ信用ならない。


「あなた……誰。なぜルドガーのGHSに出てるのか答えてもらいましょうか。」
『俺を知らないなんてねぇ……。ま、ルドガー君は無事だから安心してよ。
そうだな、上手く行けば今日中にはお家に帰れるはずだから待ってたら? 』
「……今居るのはどこ。」
『お家で待っててあげたらって言葉、聞いてなかったの?』
「明らかに信用できないから、そう言っているのが分からないのかしら。」
『怖い怖い。』


ダメだ、この人話をするつもりがないのか。


『とにかく、大人しく待ってなよ。面白い話、たんとあるだろうからね。』
「……ルドガーに手を出してみなさい。あなた、ただじゃおかないから。」
『ふぅん? もう、遅いかもね。』
「なッ!? ちょ、待っ――!」


切られた……!
かけ直しても電源ごと切られている……!


「む、むかつくなにあの男ッ……!」


でも、確かにGHS越しにルドガーの声は聞こえた。
生きてはいる……どういう状況下なのかは何もわからないけれど。
何処にいるのかもわからない今、下手に動かないほうがいいのか。


「……ルドガー……。どうなってるの、ユリウスさん。」


ユリウスさんのGHSにかけても、応答がない。
まさか、彼の身にも何かあったのでは……。



(一体何が起きているというの?)
(こんな一気に事が進むだなんて、)
(ユリウスさんの『ルドガーを頼む』って、)
(まさかこれを予知して……? それとも……。)

(ああ、もう! 分からない!!)




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