鋭い刃先が素早い勢いで水平に振られる。
それに抗う術もないままに、相手は胴を二分にされ砕け散った。
同時に、相手の苦しむ声が止む。
「はい、こっちは終了したよー。」
「ッ、はぁあ!」
後ろを振り向けば、ちょうどルドガーの2双の刃が魔物を撃破したところだった。
はぁはぁ、と少し荒めの息を整えるルドガーに近づく。
「大丈夫?」
「あ、あぁ。ナマエは、全然息切れしてないんだな。」
「まあこれぐらいならね。」
「はは……。」
昨日、ルドガーからのお誘いを受けそれを承諾した。
そんな私たちがいるのはトルバラン街道だ。
「それにしても意外。まさかルドガーからクエストのお誘いが来るだなんて。」
「働き始めたら、こうして腕磨くこともできないだろ?」
「……そうだね。鈍ったら取り戻すのも一苦労だし。」
「それに、……なんとなく発散したくて。ごめん、こんなことに付き合わせて。」
「ううん。私もクエスト受けて、それはもう暴れる気満々だったから。」
ふと目についたなめし革をしまう。
これで討伐依頼と納品依頼が同時に完了できた。よしよし。
「……。」
「ん? どうかしたの?」
「あ、いや……、ナマエってやっぱり強いんだなって思って。」
「そんな、まだまだだよ。」
「よくそんな長い槍使いこなせるな。」
「んー、やっぱり慣れかなぁ。」
旧友、ナコルから貰った槍は、もう年季が入ったような古さだ。
それでもこの槍で、私は戦い続けている。
「昔からそれ使ってるのか?」
「一番最初はダガー使ってた。けどちょっと槍に転職みたいな?」
「へぇ……複数の武器扱えるのって、かっこいいな。」
「そう? そんなこと言ったら私、銃も取り扱えるけど。」
懐のホルダーを叩きながらそう言えば、ルドガーは更に目を丸めた。
口から洩れる凄いな、の言葉に単純ながら少しだけ嬉しくなる。
そして同時に、目を輝かせたルドガーが可愛らしく映った。
ユリウスさんは常々、こう見えているのかもしれない。
「ルドガーは器用だからやろうと思えばできるよ。」
「銃の扱いか?」
「それもだし、槍術も経験重ねれば使いこなせると思う。」
「そうかな。」
「私が言うんだから間違いないって。」
さすがにアルヴィンのように同時の2つの武器は使えないけれど、持ちかえという意味なら可能だ。
ルドガーにだって、きっとできる。ユリウスさんの真似をして身に付けたという剣術もいいし。
「使ってみる?」
「槍を?」
「うん。」
「……いいのか?」
「もちろん。」
彼の双剣と私を槍を交換する。
ルドガーはよく私を見ていたようだ、構えが酷似していた。
「ふふ、」
「? なんか変か?」
「ううん。逆に私にそっくり。」
「あ……よく兄さんの真似してたから、結構、人の見てまねること多くて。」
「最初はとにかく模範だよ。経験を重ねてから自己流を編み出せばいい。
出来ればもう少し腰下げて……そう、重心ぶれないようにしっかりね。」
「こう……か?」
そうそう、いい感じ。
はにかむルドガーに、私も嬉しくなる。
「それじゃ、そこのボアでも狩ろうか。ルドガーの武器借りていい?」
「あぁ。」
了承を得れば、彼と同じように逆手で持つ。
「……、なんか、様になってるな。」
「そう? …ダガーと似たような感じだからかな。」
「!、こっちに気が付いた!」
「そしたら行きますかッ!」
ルドガーの一振りに合わせて、剣を下から振り上げるように振るう。
ここら辺に生息している魔物は総じて恐れる力はない。
ルドガーの呼吸を感じながら、私が彼に合わせる形で刃を魔物に突き刺す。
今まで旅の皆は私に合わせてくれていたのだと、ふと感じた。
今更だけれど、自分がこの立ち位置に立つことで改めて思ったのだ。
「いい感じ! その槍は長いから、広範囲で攻撃も与えられるわ。やってみて!」
「こ、こうか!?」
足を踏み込み、刃先で弧を描けば周囲にいたワイルドボアが纏めてダウンした。
私と違って性別上か力もあるからか、なかなかいい攻撃だ。
「ルドガー巧い! やっぱり、練習すればどんな武器でも扱えるようになるんじゃない?」
「そ、そうかな……?」
「思っていたよりもいい太刀筋しているわ。」
「ナマエに言われると、なんだか嬉しいな。」
頬を掻きながら視線を泳がすルドガー。うん、可愛らしい。
それから暫しの間、互いの武器を交換した状態で私たちは魔物の討伐をし続けた。
何戦も重ねていくうちに自信がついてきたのか、ルドガーの動きが更に良くなっている。
才能、なのだろうか。驚くべき成長だ。
気が付けば、日もいい具合に暮れてきたしかなりストレス発散できた。
「ルドガー、そろそろ終わろうか。」
「あぁっ!」
「完全に槍使いこなせるようになったね。」
「いや、ナマエの動きを見る分じゃまだまだだ。」
「そりゃあ簡単に超えられたら困るわ。」
「そう言いながら、ナマエの剣捌きは俺を超えているように思うんだが。」
ジトーとした目で見られ、思わず苦笑い。
「私もダガーは逆手持ちだからね。ちょっとこっちの方がリーチある程度で、大差ないから。」
「へぇ、さすがだよな……。」
「さ、もう戻ろう。そろそろ日も暮れてくる。」
「分かった。今晩食べていくだろ?」
交換していた武器を戻して、ルドガーは当たり前のようにそう言ってくれる。
なんだか最近、お世話になりっぱなしのような気が……。
それでも、自分で作りもしないし、言葉に甘えてしまう私。
「お願いします。」
「何が良い?」
「トマトパスタ! ユリウスさんが絶品だって前言ってたのに、結局私、一度も食べたことないわ。」
「それ、兄さんにとっての絶品なんじゃ……でも、了解。
トマトならたんまりあるから、それ関係なら何でも作れるよ。」
「さすが!」
トマト王子か。
あ、でもそれはトマトが大好きなユリウスさんの方なのかな?
他愛のない話をしながら、私たちはユリウスさんの自宅へと戻った。
そこには、珍しくも既に帰宅している彼の姿が。
「兄さん! 帰ってたのか!」
「あぁ、そういうお前は出かけていたようだな。珍しいな2人揃って。」
新聞を広げながらそう微笑む彼に、ルドガーは嬉しそうに今日の出来事を話す。
それをユリウスさんは、終始微笑んだまま静かに聞いていた。
あぁ、兄弟っていいな。
(そういえば明日が初出勤だったな。)
(あ、あぁ。)
(寝坊しないように、今夜は早く休めよ。)
(分かってるよ! もう子どもじゃないんだ!)
(はは、口元にソースついてるぞ。)
(えっ!?)
(あら本当。ふふっ、子どもみたいね。)
(〜〜っ!)
(照れるな、照れるな。)
(兄さんッ!)
(落ち着いて、ルドガー。ほら、まずは拭く。)
(ナァ…。)