TOX2 | ナノ

XILLIA2

5▽ こんな日常を謳歌する

鋭い刃先が素早い勢いで水平に振られる。
それに抗う術もないままに、相手は胴を二分にされ砕け散った。
同時に、相手の苦しむ声が止む。


「はい、こっちは終了したよー。」
「ッ、はぁあ!」


後ろを振り向けば、ちょうどルドガーの2双の刃が魔物を撃破したところだった。
はぁはぁ、と少し荒めの息を整えるルドガーに近づく。


「大丈夫?」
「あ、あぁ。ナマエは、全然息切れしてないんだな。」
「まあこれぐらいならね。」
「はは……。」


昨日、ルドガーからのお誘いを受けそれを承諾した。
そんな私たちがいるのはトルバラン街道だ。


「それにしても意外。まさかルドガーからクエストのお誘いが来るだなんて。」
「働き始めたら、こうして腕磨くこともできないだろ?」
「……そうだね。鈍ったら取り戻すのも一苦労だし。」
「それに、……なんとなく発散したくて。ごめん、こんなことに付き合わせて。」
「ううん。私もクエスト受けて、それはもう暴れる気満々だったから。」


ふと目についたなめし革をしまう。
これで討伐依頼と納品依頼が同時に完了できた。よしよし。


「……。」
「ん? どうかしたの?」
「あ、いや……、ナマエってやっぱり強いんだなって思って。」
「そんな、まだまだだよ。」
「よくそんな長い槍使いこなせるな。」
「んー、やっぱり慣れかなぁ。」


旧友、ナコルから貰った槍は、もう年季が入ったような古さだ。
それでもこの槍で、私は戦い続けている。


「昔からそれ使ってるのか?」
「一番最初はダガー使ってた。けどちょっと槍に転職みたいな?」
「へぇ……複数の武器扱えるのって、かっこいいな。」
「そう? そんなこと言ったら私、銃も取り扱えるけど。」


懐のホルダーを叩きながらそう言えば、ルドガーは更に目を丸めた。
口から洩れる凄いな、の言葉に単純ながら少しだけ嬉しくなる。
そして同時に、目を輝かせたルドガーが可愛らしく映った。
ユリウスさんは常々、こう見えているのかもしれない。


「ルドガーは器用だからやろうと思えばできるよ。」
「銃の扱いか?」
「それもだし、槍術も経験重ねれば使いこなせると思う。」
「そうかな。」
「私が言うんだから間違いないって。」


さすがにアルヴィンのように同時の2つの武器は使えないけれど、持ちかえという意味なら可能だ。
ルドガーにだって、きっとできる。ユリウスさんの真似をして身に付けたという剣術もいいし。


「使ってみる?」
「槍を?」
「うん。」
「……いいのか?」
「もちろん。」


彼の双剣と私を槍を交換する。
ルドガーはよく私を見ていたようだ、構えが酷似していた。


「ふふ、」
「? なんか変か?」
「ううん。逆に私にそっくり。」
「あ……よく兄さんの真似してたから、結構、人の見てまねること多くて。」
「最初はとにかく模範だよ。経験を重ねてから自己流を編み出せばいい。
出来ればもう少し腰下げて……そう、重心ぶれないようにしっかりね。」
「こう……か?」


そうそう、いい感じ。
はにかむルドガーに、私も嬉しくなる。


「それじゃ、そこのボアでも狩ろうか。ルドガーの武器借りていい?」
「あぁ。」


了承を得れば、彼と同じように逆手で持つ。


「……、なんか、様になってるな。」
「そう? …ダガーと似たような感じだからかな。」
「!、こっちに気が付いた!」
「そしたら行きますかッ!」


ルドガーの一振りに合わせて、剣を下から振り上げるように振るう。
ここら辺に生息している魔物は総じて恐れる力はない。

ルドガーの呼吸を感じながら、私が彼に合わせる形で刃を魔物に突き刺す。
今まで旅の皆は私に合わせてくれていたのだと、ふと感じた。
今更だけれど、自分がこの立ち位置に立つことで改めて思ったのだ。


「いい感じ! その槍は長いから、広範囲で攻撃も与えられるわ。やってみて!」
「こ、こうか!?」


足を踏み込み、刃先で弧を描けば周囲にいたワイルドボアが纏めてダウンした。
私と違って性別上か力もあるからか、なかなかいい攻撃だ。


「ルドガー巧い! やっぱり、練習すればどんな武器でも扱えるようになるんじゃない?」
「そ、そうかな……?」
「思っていたよりもいい太刀筋しているわ。」
「ナマエに言われると、なんだか嬉しいな。」


頬を掻きながら視線を泳がすルドガー。うん、可愛らしい。
それから暫しの間、互いの武器を交換した状態で私たちは魔物の討伐をし続けた。
何戦も重ねていくうちに自信がついてきたのか、ルドガーの動きが更に良くなっている。
才能、なのだろうか。驚くべき成長だ。

気が付けば、日もいい具合に暮れてきたしかなりストレス発散できた。


「ルドガー、そろそろ終わろうか。」
「あぁっ!」
「完全に槍使いこなせるようになったね。」
「いや、ナマエの動きを見る分じゃまだまだだ。」
「そりゃあ簡単に超えられたら困るわ。」
「そう言いながら、ナマエの剣捌きは俺を超えているように思うんだが。」


ジトーとした目で見られ、思わず苦笑い。


「私もダガーは逆手持ちだからね。ちょっとこっちの方がリーチある程度で、大差ないから。」
「へぇ、さすがだよな……。」
「さ、もう戻ろう。そろそろ日も暮れてくる。」
「分かった。今晩食べていくだろ?」


交換していた武器を戻して、ルドガーは当たり前のようにそう言ってくれる。
なんだか最近、お世話になりっぱなしのような気が……。
それでも、自分で作りもしないし、言葉に甘えてしまう私。


「お願いします。」
「何が良い?」
「トマトパスタ! ユリウスさんが絶品だって前言ってたのに、結局私、一度も食べたことないわ。」
「それ、兄さんにとっての絶品なんじゃ……でも、了解。
トマトならたんまりあるから、それ関係なら何でも作れるよ。」
「さすが!」


トマト王子か。
あ、でもそれはトマトが大好きなユリウスさんの方なのかな?

他愛のない話をしながら、私たちはユリウスさんの自宅へと戻った。
そこには、珍しくも既に帰宅している彼の姿が。


「兄さん! 帰ってたのか!」
「あぁ、そういうお前は出かけていたようだな。珍しいな2人揃って。」


新聞を広げながらそう微笑む彼に、ルドガーは嬉しそうに今日の出来事を話す。
それをユリウスさんは、終始微笑んだまま静かに聞いていた。


あぁ、兄弟っていいな。



(そういえば明日が初出勤だったな。)
(あ、あぁ。)
(寝坊しないように、今夜は早く休めよ。)
(分かってるよ! もう子どもじゃないんだ!)
(はは、口元にソースついてるぞ。)
(えっ!?)
(あら本当。ふふっ、子どもみたいね。)
(〜〜っ!)
(照れるな、照れるな。)
(兄さんッ!)
(落ち着いて、ルドガー。ほら、まずは拭く。)

(ナァ…。)




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