TOX2 | ナノ

XILLIA2

7▽ 負債は道連れと共に

俺は今、危機的状況に立たされている。
というのも「命」という危機はなんとか先程乗り越えたばかりだ。
が、それと同じくらい大変な局面に曝されている。


「さぁ、どうする?」


目の前でにやりと口角をあげる赤い服を纏った長髪の男。
あの列車でのテロで怪我を負った俺たちを助けてくれたらしい。
らしい、というのはその件についてはさっぱり記憶がないからだ。
目覚めた時には傷は癒えて、エルと一緒にこの酒場のソファに横たわっていた。

それに何よりも、俺自身が現状を把握できていない。

あれはなんだったんだ?
あの時確かに兄さんと一緒に居たのにいつのまにか列車の最後尾に戻っているし。
そのうえ兄さんに酷似した、異形の形をしたよく分からない人物まで現れる始末だ。
加えて、俺の身体まで、……俺の身体まで兄さんの時のように変化してしまって。

同列車に乗り合わせたジュードは精霊の力を感じただなんて言うけど、こんな力、俺は知らない。
兄さん。兄さんは知っているのか。いったい今どこにいるんだ。


「逃げたかったら逃げてもいいぜ。その時はこのお嬢さんに払ってもらうだけだ。」
「くッ……!」


とにかく、今はこの状況をどうにかしなくては。
俺たちを治療してくれたのはいいが、治療費が馬鹿にならない。
こんな大金払えるはずがない!! でも、払わないと、エルが……。


 ♪〜♪〜


「!」


GHS? まさか、兄さんが……!


「おーっと、悪いけどちょっと没収ね。」
「!、何を……!」
「ドロボー! それ、ルドガーの!」
「はいはーい、こちらルドガー君のGHSでーす。」


こいつ、勝手に人のGHSで……!
それにしても誰だろう。兄さん? 兄さんなのか?


「あ〜、なにルドガーくんのお友だち? 悪いけど、今はオトリコミ中でねぇ。」


兄さんじゃ、ない?
それなら一体。

見当もつかずにいると、目の前の男が面白そうに笑う。


「おーおー、一気に殺意こもった声だ。怖いねェナマエちゃんは。」
「ナマエ!?」
「ナマエって誰? ルドガーのともだちなの?」


まさか、ナマエ、俺のこと心配して……?
いや。もしかしたら兄さんがナマエに連絡してくれたのかもしれない!


「俺を知らないなんてねぇ……。ま、ルドガー君は無事だから安心してよ。
そうだな、上手く行けば今日中にはお家に帰れるはずだから待ってたら?」
「待ってくれ、ナマエと少し話を……!」
「お家で待っててあげたらって言葉、聞いてなかったの?」


手を伸ばすもそれは男によって跳ね除けられた。
俺の目を見ながら同じような言葉を紡ぐ。
まるで俺に言っているようにも聞こえた。


「――……怖い怖い。
とにかく、大人しく待ってなよ。面白い話、たんとあるだろうからね。」
「くっ……!」
「……ふぅん? もう、遅いかもね。」


目の前の男は、終始愉快そうな表情でGHSの電源を落とした。
俺の手に渡された時には画面は真っ暗だ。


「良かったねぇ、心配してくれる人がいて。
……さて、そんな彼女のためにも早く決断をしたらどうだい?
とは言っても、選べるほどの選択肢は君にはないけれどね。ルドガー君?」
「っくそ!」


……結局、俺に選ぶ余地はない。


「分かった、契約する……。」
「O・K。賢明な判断だ。」


そして向かい合う、契約書。
ノヴァにいいのね、だなんて言われたが、俺にはこうするしかないんだ。


「ごめん、話しこんじゃって――何してるの!?」
「いや、治療費が払えないというのでちょっとローンをね。」
「こんな金額……! ルドガー、サインしたらどうなるか聞いた?」


戻ってきたジュードにそう言われる。思えば聞いていないような……。
首を横に振れば、簡単に説明された。俺の行動はGHSで管理、制限されるらしい。
預金残高も見られる、きちんと支払ってもらうためのシステムだそうだ。
冗談じゃない……。

ジュードが長髪の男――リドウに向かってあまりにも多額だと言ってくれる。
が、肩代わりするか、だなんてリドウの憎たらしい嘲笑に跳ね除けられる。
ジュードの研究についてなんて、そんな詳しいことは分からない。
だが、俺たちの問題に、ましてや借金についてジュードを巻き込むわけにはいかない。


「ね、他の方法を考えようよ。」


そう優しく言ってくれるジュード。
気持ちだけは嬉しい、と断ろうとした時に、リドウが更にあくどい表情を浮かべた。


「あぁ、身内に泣きつく手もあるな。例えば、兄貴にとか。」


ッ、……!


「兄貴に頼めないなら、彼女に頼めばいいじゃないか。きっと払ってくれるぞ?」
「っくそ……!」


ナマエまでダシに使うだなんて……!

怒りが込み上げてくるが、こうなったら仕方がない。
俺は席に座り、契約書にサインを書いた。これでいいんだろ!
苛立つ心をなんとか抑えながら、俺はそれをノヴァに渡した。


「……契約成立です。では、貸し出した2000万ガルドをリドウ様の口座に。」


は!? に、2000万ガルド!?


「ふえてる!」
「悪い、君の家族の治療費を忘れてた。」


る、ルルか……。


「また治療が必要になったら呼んでくれ。格安で相談に乗るよ。」


そう言ってリドウは酒場を立ち去る。誰が呼ぶか!

にしても、……2000万ガルドだなんて……。
ノヴァが声をかけてくれるがそんな気休め今はどうでもいい。
どうしてこうなったんだ……どうして。

兄さんのことといい、このエルのことといい。
もう、なにがなんだか分からない。



(とりあえず、ここ出よっか。)
(…………。)
(元気出して、ルドガー!)
(……はぁ。)




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