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XILLIA2

18▽ 行方不明のミラ

どういうことなのだろうか。
何かが割れるような感覚に陥ったと思ったら、急に目の前の景色が変わった。


「さっきまで、屋上にいたのに……。」


そう、屋上にいたはずの私たちは、エリーゼと再会した場所まで戻っていたのだ。
一体全体、どういうこと?


「ルル!」
「大丈夫、任せてー!」


そうだ! ルルがヴォルトの攻撃でマヒしてたんだった。
エリーゼが素早くルルの状態異常を回復してくれる。
二人がこっそりと何かを話しているから、いっそのこと今ミニ会議しよう。


「ねえ、なにこれ。」
「俺も聞きたい。どうなってるわけ?」
「僕にもわからないよ。でも……。」
「ルドガーも……分からないよね。」
「…………ああ。」


きっと、彼自身が一番混乱しているのだろう。
聞いた話じゃ列車内で急にあんなことが起こったのが初らしい。
立て続けじゃあ、なぁ……。


「それにしても、いつのまに源霊匣ヴォルトをつくる準備を……。」
「バランが知ってるはずだ。屋上に戻ってみようぜ。」
「だね。考えても分からないならし。」
「ルルは?」
「もう大丈夫です。」


よし。なら屋上に行こう。
心なしかエリーゼの表情が嬉しそう。エルとの会話で何か進展があったのだろうか。
どちらにせよ、微笑ましいことだ。

屋上にはすぐに辿り着けた。
けれど、目的のバランさんがいない。


「誰もいない……。」
「バランさん、もしかして別の場所に避難したのかな?」
「いや。出て来いよ、バラン。」


え、上?
アルヴィンに釣られるようにして上を見上げると、昇降機で昇ったのだろう、バランさんが建物の陰に隠れていた。


「良く分かったね、アルフレド。」
「ガキの頃から隠れ場所変わらな過ぎ。」


もしかして一年前、昇降機の中にいた時も上に避難しようとしていたのだろうか。
彼はそれを使って私たちのもとへと降り立った。


「バランさん! 源霊匣ヴォルトがどうして稼動しているんですか!」
「え?」
「わたしたち、暴走しているヴォルトを見たんです。」
「戦ったよービリビリー!」


早速ジュード君が詰め寄るも、バランさんが意外そうに声を上げた。
そしてすぐに首を横に振る。


「源霊匣ヴォルトなんてつくってないし、つくる準備もしてないってば。」
「どういうこと?」
「源霊匣自体の制御がうまくいってないのに、大精霊クラスなんて無茶すぎだろ。」
「けど、ビリビリいたよね?」
「なんだったんだ、ありゃ……。」


確かに、私たちはヴォルトと一戦を交えたのに。
実際にはヴォルトは存在してすらいない――この矛盾は一体どういうこと?


「そんなことより、ユリウスのことを教えてくれ。」
「なに、君、警察関係者?」
「彼、ユリウスさんの弟なんです。私たち、彼の情報が欲しくて。」
「へぇ、弟がいるなんて知らなかった。けど、考えてみたらあいつ、長男っぽい性格だな。」


一瞬警戒を見せたが、そうフォローするとバランさんは微笑む。
けれど意外だ。ユリウスさん、弟自慢してそうなのに。

……そういえば、クラン社の人たちって、ルドガーのこと知らなかったよね。
ユリウスさんの弟なら知っていても、おかしくないのに。あんな有名人だし。


「で、知ってるの? ユリウスって人のジョーホー。」
「あいつが超トマト好きだとか?」
「バラン。」
「ごめん。ユリウスとは半年くらい会ってないよ。列車テロのニュースを聞いて驚いてたとこさ。」


知らない、か。


「行き先に心当たりありませんか?」
「カナンの地とか?」
「カナン……そんなこと言っていたような。何だか知らないけど。」


けど、ユリウスさんの口からカナンの地が出てきたってことは。
もしかして、彼もそこを目指して? とりあえず知っていることは確かになったなぁ。


「カナンの地は、魂を浄化し循環させる聖地よ。」


嘘、この声――!


「ミュゼ!」
「こんにちは、ジュード。ナマエも久しぶりね。」
「ミュゼ、あなたどうしてここに。」


精霊界をわざわざ抜け出してきたの?


「ミラが、いなくなっちゃったの。」
「いなくなった……?」
「魂の浄化に問題が起きたと言ってたわ。」


ヴォルトが言っていた言葉は魂、汚染、進行で間違いないんだ。
魂の錠かに問題が起きたって、どういうこと?


「私の力を使って精霊界を飛び出した後、連絡がつかなくなっちゃって……。」
「人間界にきてるの?」
「そのはずだけど……会ってないのね。」
「…………。」


ジュード君が無言で頷く。
ミュゼの視線が私にも向いたが、生憎会っていない。
同じようにゆっくりと首を横に振ると、ミュゼは哀しげに眉を下げた。


「そう……。無事なら、あなたたちと一緒にいるはずと思ったんだけど……探さなきゃ。」


ミュゼはそれだけ言うと、颯爽と飛び去ってしまった。


「……ミラが、行方不明……。」


ジュード君の声が、酷く揺れている。


「ジュード君、ミラなら大丈夫。……ね?」
「う、ん……。」


そうは言っても、やっぱり心配、か。
ミラ……。一人でどこ行っちゃったんだか。
連絡がつかないだなんて……。


「さて、どうするんだ?」
「なんとかバード! メガネのおじさんを捜してる人がいるって。」
「マクスバードか?」


ヴェルに教えられたユリウスさんの手がかり。
こっちが当たればいいんだけれど……。


「わたしも連れてってください!」
「間違いなく、やっかいごとだぜ? 学校に戻った方がいいんじゃないか。」
「でも、ミュゼが出てくるなんて普通の危なさじゃないでしょー。」
「わたしも、できることをしたいです。」
「……俺も手伝うよ。仕事の合間で良ければ。」
「なんか人いっぱい!」


大所帯にはなっているけど、皆腕の立つ仲間だ。
きっと、ルドガーの力になってくれるはず。


「…………、」
「ジュード君。」
「ミラが……。」
「……信じてあげよう。大丈夫、すぐ顔を出してくれるよ。」
「そうだったら、良いんだけど……。」


……そっか。
連絡がつかないって、こういうことなのか。

もしかして私も……。
私が連絡しなかったから、ジュード君にこんな顔させていたのだろうか。
毎日、そうさせていたのだろうか。


「……ごめんね、ジュード君。」
「え?」
「連絡つかないって、心配だよね。」
「えと、……。」
「ごめん。私も、きっとジュード君のこと不安にさせてたんだろうなって。」
「そんな! ナマエさんなら、きっと無事で、上手くやってるって、信じてたから。」


ジュード君……。


「そりゃあ、毎日心配だったし……さ、寂しくも……あったけど。」
「かっ……!」
「か?」
「可愛いっ!」
「んむぅっ!?」


いつだかの警告など忘れて、ぎゅっと抱きしめる。
慌てたジュード君もまた愛らしくて。こうやって再会できて良かったって、凄く思える。


「ね、ミラのことも信じよう。」
「んむ?」
「ミラも私と同じく強い人だよ。大丈夫、上手くやってる。」
「……ん。」


大人しくなった彼の頭をそっと撫でる。

ミラは酷く無茶する人だけど、上手くやれているはずだ。
だからミュゼ。早くミラを見つけて。
そしてミラ。早く私たちに、会いに来て。


「わ、ナマエがジュード抱きしめてる!」
「は!?」
「あれも久々、だな。」
「だねー!」
「はいっ!」


えへへ、皆の注目の的だよ。
これもジュード君が可愛いからだね……って白眼剥きそう!?


「なんか……これフツーっぽいね。」
「は!?」
「これから一緒に居る機会多いんだろうし、慣れとけよルドガーくん?」
「…………。」


(可愛い可愛いジュード君)
(やっぱり、香りも一年前とは違うんだなぁ)




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