薬莢の落ちる音と同時に、目の前の銀髪は武器をしまった。
ふらふらな体勢のまま、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「よ、容赦なく叩き込んでくれたな……。俺じゃなきゃ、死んでるところだ!」
「ははは……。」
「いい腕っぷしだったよ、ルドガー。」
「ありがとう。」
ルドガーの両手には、新品の銃がおさめられていた。
どうやらクラン社からの支給品のようだ。
「大丈夫? イバル。」
「ふん……妙な気を遣う誰かよりよっぽどマシだがな。」
「イバル、それ以上言うと槍突き刺すよ。」
「くぅっ……!」
銃弾が当たった部位を抑えながら、イバルが顔を顰めた。
そうだ! 彼が雑務エージェントというのなら。
「ねえ、イバル。この銃の弾、予備で持ってきているでしょう?」
「なんでそれを! 俺が意地悪してコイツに渡さない計画をどこで!?」
「…………。」
「…………。」
「……はっ!」
ば、バカなの……?
「聞かなかったことにしてあげるから、それちょうだい。もちろん、ルドガーの分と私の分とでね。」
「経口、一緒なのか?」
「そ。さ、雑務エージェントのイバルさん、いただけますか?」
「はっはっは、なんたって俺はエージェントだからな! 仕方のない、くれてやる!」
雑務だけどね。
イバルから弾を受けとり、いくらか私も貰って残りはルドガーに渡した。
「覚えてろよ、お前たち……!」
忌々しそうな声色でふらふらになりながら、イバルはその場を立ち去る。
本当に、嵐のような人だ。
「巫女様、相変わらずだな……。」
アルヴィンのそんな声が、ぽつりと聞こえた。
ルドガーとジュード君は苦笑いしているし、エルに至ってはもう半目状態だ。
「気を取り直して進もっか。」
「バランって人、どこにいるのかな?」
「バランが身を隠す場所といえば……。」
どうやらアルヴィンは少しばかりアテがあるようだ。
とにかく屋上へと向かうしかないだろう。
「ルドガー、銃の使い方はもう大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。」
「そっか。そうだ、銃技教えてあげる。」
「本当か? 助かる!」
「簡単だからすぐ覚えられるよ。えっとね……。」
私は貰ったばかりの銃弾を自分の銃に込めて、コツを教える。
教える、ってほどのものじゃないけれどね。
けれどルドガーはそれを真摯に聞いてくれていた。
「おいおい、なんかルドガー君と仲良さ気じゃないの?」
「う、うん。」
「お前ら、再会したばっかなんだってな。」
「うん……。」
「ま、頑張れよ。」
「……うん。」
「……だんだん声小さくなってっけど、大丈夫か?」
「……たぶん。」
――よし! 完璧!
「それじゃ、そこにいるアルクノアさん撃退しようか。」
「できるかな。」
「大丈夫、ルドガー呑み込み本当にいいから。アルヴィン、サポートよろしく!」
「はいよ。」
ふとアルヴィンたちの方を向いたら、若干ジュード君の表情が暗かった。
どうしたんだろう……?
気にはなるものの、まずはルドガーの腕っぷしを見なければ。
「はっ!!」
「お、今の攻撃いーじゃねーの。」
「すごーい、ルドガーやるー!」
「こ、こんな感じでいいのか?」
「うん。バッチリね。やっぱり才能あるよ、ルドガー。」
照れくさそうに笑うルドガーだが、これはお世辞ではなく本当にだ。
私の槍を以前使ったときも、太刀筋が本当に良かった。
もしかして、銃の扱いもユリウスさんのを見よう見まねで……?
この柔軟性、才能なのだろうか。
「ナマエ? どーかしたの?」
「ううん、なんでもない。さ、先を急ごうか。」
「あまり無理しないでね、ナマエさん。」
「ジュード君こそ。……もしかして、疲れた?」
「え? そんなことないけど。」
きょとんとするジュード君から、先ほどの表情の暗さは感じない。
私の気のせいだとも思わないけど。そこまで気に留めるほどのことでもなかったのだろうか。
「そっか、ならいいや。」
「?」
「ううん。私の気のせいだったみたい。」
「そう? じゃ、先に進もう。」
先を歩きだすジュード君。
ひらりと揺れる白衣を見て、ふと汚れちゃわないのかと思う。どうでもいいことだけど。
足早に先へ進むと、エルが急に足を止めた。
「変なのきた!」
「!」
「僕が――って、」
ジュード君が駆け出そうと足を出した瞬間。
目の前にいた機械に強烈な精霊術が当たり、私たちが手を出すまでもなく破壊された。
この精霊術――この、威力……どこかで。
「ふぅ……もういませんね?」
この声……!?
「エリーゼ!?」
「ジュード!」
「ナマエに、アルヴィンもいるー!」
ふんわりとした髪を2つに結い、可愛らしい服装に身を包んだ、成長したエリーゼの姿。
ぷよぷよと浮かんでいるティポも、かつてのように隣にいる。
「まさか、リーゼ・マクシアの親善使節って――」
「はい。私たちの学校が選ばれたんです。」
前よりも凄くおしとやかになっているエリーゼ。
ああ、可愛い……!
「エリーゼ、ティポ、久しぶりね。」
「ナマエー! 生きてたんだねー!」
「連絡、ないから心配してました!!」
「え、あ、ごめん。」
生きてたんだね、って……アルヴィンにも同じこと言われた。
思わず視線が彼に向くと、肩をすくめている。
近づいてきた彼女の頭を撫でれば、嬉しそうに微笑んでくれた。
「えっと……ジュードたちの知り合いか?」
「うん。エリーゼとティポだよ。」
「へぇ、」
ルドガーがエリーゼを見て目を細める。
「可愛い子だな。」
「そ、そんなことないです……。」
ふふ、エリーゼってば照れくさそうにしちゃって。
けれどそんな甘い言葉を吐いたルドガーに、厳しい少女の視線があてられた。
「ルドガー、チャラ男……。」
「う……。」
「えっと、ジュードたちの、お友だちですか?」
「あぁ、よろしくな。」
エリーゼが「はい。」と微笑むと、ティポがエルのもとに移動した。
そして「こんにちはー!」といつもの如く挨拶をする。
が、
「変なの!」
「がーん!?」
当然の反応だった。
「ティポっていうんですよ。仲良くしてね。」
「ねー♪」
「…………やっぱり変!」
「がががーん!?」
どうしても、当然の反応だった。
「エリーゼ、友だちも一緒だったんだろ?」
「急に襲われたんだー。」
「ティポをもってて助かりました。」
「学校の皆は、エリーゼが安全な場所へ避難させたよー。」
どうやら、成長しているのは見た目だけではないようだ。
一人じゃ怖かっただろうに、偉い偉い。
「エリーゼ。バランさんが皆のこと案内していたと思うんだけど、彼も一緒?」
「バランさんは、わたしたちを逃がすために、囮になって……。」
「開発棟の上の方に残ったんだー。」
「だから、助けを呼びに来たんです。」
上、ね。
「案内を頼める?」
「もちろんです。」
力強いエリーゼの言葉に、私たちはほっとする。
彼女の精霊術があれば、この先も楽に進めるだろう。
早いとこバランさんを助けに行こう。
その途端、大地を揺らすような低い音で、雷が響いた。
「ッ!」
びくりと震える小さな体に、エリーゼが声をかける。
「雷……怖いんですか?」
「べ、別に! ――きゃあああ!」
「っえ?」
再び、先ほどよりも大きな音をたてて雷が落ち、エルが声を上げた。
――その時、あまりにも不思議な感覚を味わったのだ。
(なんか今……)
(この感じ、なんだろう。)