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 家族という心の支え

さぁ、共に…。」後日談


パチパチ、パチパチと野営用に灯した炎が音をたてる中、その周辺は夜中にも関わらずとても賑やかだった。
老若男女さまざまな人が入り乱れ、ある者は玉の上に乗り、ある者は大きな箱の中に入りと各自自由に過ごしていた。

そんななかバベルへの供給を止めるべく、遺跡のコアを破壊する旅をしている光牙たちは――


「おっ…うおっ?!」
「ホラ、しっかりバランスとって!」
「っても難しいぜ、これ!」

「…えいっ。」
「……お嬢ちゃん、力ないねェ。」
「ご、ごめんなさい……。」
「最初はこんなものか。さっ、練習するよ。」

「おぉ! アンタ、いいバランス感覚の持ち主だな!」
「ふん、そいつらと一緒にされては困る。」
「さすがね、栄斗。」
「対するお姉さんも巧いよっ。」
「ありがとう。」


彼らの中に混じり、自らの技量を磨いていた。
最も、その技は聖闘士とは関わりないが。


「あの、族長さん。ありがとうございます。」
「ん? 確か龍峰だったね。気にすることはないよ。こっちとしても人手が増えて万々歳さ!」


龍峰が声をかけたのは彼らを束ねる長であった。
光牙たちが旅の途中、不思議な森に迷い込んだところを助けてくれたのが彼女なのだ。
それも何の偶然か、彼女はナマエが以前まで所属していたサーカス団の族長であった。
知人ということもあってか族長は快くナマエたちを次の町まで案内してくれると申し出てくれたのだ。

代わりに、彼らサーカス団の一員として手伝いをしっかりすること。
これが条件として提示された。


「まさかあんなところで人と出会えるとは思ってもみませんでした。」
「あぁ…ナマエには言ってあったんだけどねェ。
あの森はどんなに土地勘のある人間でも迷う、云わば迷いの森ってやつなのさ。
絶対に立ち寄るなとあれだけ言ってたのに。まったくあの子は……。」
「でも、ここしか通るところが無くて。」
「庇わなくたっていいんだよ。」


ははは、と陽気な笑い声が響く。
長旅と道中での度重なる戦闘で疲労していた龍峰も、自然と笑みが零れた。


「ところでアンタ、ウチのナマエと付き合ってるそうだね。」
「えっ……あ、…はい。」
「そうかい。」


族長の目は、久々に会った仲間たちと笑いあうナマエへと向けられた。
龍峰たちとの旅に加わってから、ナマエの笑顔は常に花咲いていた。
それに何度、救われたことか……。


「あの子ね、突然消えたんだ。」
「え……?」
「あたしたちに何も言わず、聖闘士としての道を歩んだのさ。」
「!」


龍峰はまさか、とナマエと族長を交互に見る。
彼女のことだから、一言世話になった仲間に言ってから聖闘士になり、自分たちとああして出会ったのだと思っていたのだ。
だが彼女は、無断でこのサーカス団から姿を消したらしい。


「まったく、心配させたくなかったんだろうねぇ。」
「……そうですね。ナマエはとても、優しい女性だから。」
「アンタ、ナマエにぞっこんかい。」
「そっ、そんなことは!」
「はっはっは! いいってことだい。あの子が幸せそうで、これ以上嬉しいことはないよ。」


族長の目は細められ、ナマエを見るその視線はまさに母親のようだ。
龍峰はふと思った。自分の母もまた、そのような目で自分を見てくれていたから分かる。


「……あたしらサーカス団はね、ほとんどの奴らに親がいないんだ。」
「え。」
「皆、行くあてがない人たちだったんだよ。あんな若い奴らも、あんな小さい子も。みんな、みんな。」
「……それは、……。」
「もちろんナマエだって例外じゃない。道端で倒れていたのを偶々見つけて、あたしらと過ごすようになったのさ。」


昔は、あんな笑うような子じゃなかったんだよ。族長の言葉は重たく響く。
龍峰はゆっくりと顔を俯けた。


「だからね、ここにいる皆はあたしの家族なのさ。だからこそ、誰も欠けさせたくない。」
「…………。」
「龍峰、あんたは、ナマエをどう思っている?」
「僕は――……。」


族長の視線がこちらへと移った。龍峰は俯いていた顔をあげる。


「僕にとってナマエは、とても大切な女性です。いつも笑顔で明るい彼女に何度も救われてきました。
僕は、そんな彼女を守りたい。そんな彼女と戦っていきたい。」
「、」
「僕は彼女のことが好きですから。」
「ははっ、言ってくれるじゃないかこのマセガキが!」
「うわっ!」


族長は龍峰の肩に腕を回して、もう一方の手で頭を豪快に撫でた。


「あたしらサーカス団の花形を盗ってったんだ! しっかり守ってもらわないと困るよ!」
「は、はい!」


と、龍峰の瞳にナマエが映った。仲間と笑いあうナマエ。
絶対に彼女は守る。そうまた新たに胸に近い、微笑む龍峰――の顔が歪んだ。


「ナマエー!」
「あ、カイ。」
「って! なんでかわすんだよ!!」
「なんでって…、」
「久々に会ったのに! 俺たち熱い抱擁するべき!!」
「しないべき。」
「ちょっ?!」


その大好きなナマエが、男と楽しげにしている。


「…………。」


しかもあの男、ナマエに抱きつこうとした?


「…………。」
「ん? あぁ、アイツはカイっつってね。マジシャンなんだ。
あんなナマエにべっとりな性格だけど、腕だけは誰にも負けない一流モンだよ。」
「……そう、ですか。」
「はは、嫉妬かい? 若い者はいいねぇ〜。」
「…彼も、孤児で?」
「あぁ、そうだよ。アイツはナマエが見つけてね。
それからあーやって執着してんのさ。ま、ナマエにはいつもあしらわれてるけど。」


成長しても変わらないねェ。
族長の言葉を耳に入れながら、龍峰はじっとナマエとカイを見つめていた。




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