1万打記念 | ナノ

Origin.


 さぁ、共に…。


「さぁ、よってらっしゃい、見てらっしゃい!」
「今晩は最高の夜をプレゼントするよー!」
「我らサーカス団、今晩がこの村最後のステージ!」
「ぜひ来ておくんなしー!」


花火の明かりが夜空を照らすあの日、私たちは出会った。


「このステージが終わったら、また別の遠いところに行っちゃうんだね。」
「うん……。」
「そんな顔、しないで? きっとまた会えるよ。」


小さな手を握りしめ、少年は微笑む。対する少女は暗い表情をしていたが、少年の笑顔につられるようにして笑った。
その笑顔はとても明るく、空に舞う光のようだった。


「そうだ、これ……。」
「これは……?」


少年は懐から一つのものを取り出し、少女に差し出した。少女はそれを手に取ると、見つめ首を傾げた。


「カチューシャ、っていうらしいよ。頭につけるものみたい。」
「かちゅうしゃ……可愛いね。」


頭頂部にあたる部分に赤いリボンがついたそれを、少女は嬉しそうに見て微笑む。


「――ちゃんにプレゼント。」
「ありがとう…――くん。」


少女は満面の笑みを浮かべ、それを頭につける。
だがそれは、まだ幼い少女には少し大きく、意味をなさないものになっていた。残念そうに微笑めば、腕を下した。


「ごめん、それ、大人の人用なんだ…。」
「ううん、嬉しいよ。ありがとう……。」


少女はじっとそれを見つめると、何かを思いついたかのようにぱあっと明るく笑った。


「ふふ、わたし、良いこと思いついちゃった!」
「なあに?」
「わたし、これ大人になったらずっと身に着けてる!
そしたら、いつか会ったとき、わたしだって分かるでしょ?」
「うん! ぼく、絶対に――ちゃんのこと見つけるね。」
「ありがと、――くん!」


「――! もうすぐ準備始めるよ!」
「はーい! …じゃ、またね、――くん!」
「ばいばい、――ちゃん!」


――……


バァンと音が鳴り、光が夜空に飛び散る。
その音に覚醒したかのように、瞼は開かれた。


「……そうか、私は昔の夢を……。」


綺麗な髪を靡かせた女性はベッドから体を起こす。そして、窓から夜空を見上げた。


「……そろそろ此処も離れないとダメね。」


女性は儚げに微笑み、立ち上がった。そして、身なりを整える。


「……私は、…………。」


そして机の上に置いてある仮面をとり、鏡を見ながら自らの素顔を隠した。
鏡に、揺れる赤いリボンが映っていた。


 * * * *


その頃、光牙たちはある村に来ていた。


「なんか、賑やかなところだなぁ。」
「今日は此処にサーカス団が来ているみたいね。」
「サーカスか……。」


ユナの言葉を受け、龍峰が瞼を伏せた。それにいち早く気付いた栄斗が声をかける。


「どうかしたのか、龍峰。」
「うん…ちょっとね。」


苦笑を浮かべる龍峰に、光牙がにやりと口角を上げた。そして龍峰に近づけば、その肩に腕を回す。


「なんだ、龍峰、お前"さーかす"知らないのか?」
「え? もちろん知ってるよ。」
「……。」


彼の思いにもよらなかった返答に、光牙は硬直した。額から汗が流れたのが分かる。
墓穴を掘ってしまった、と彼は口を閉ざした。その様子に、龍峰は苦笑しながら問う。


「……もしかして光牙くん、知らないの?」
「なっ!? ん、んなわけねーだろっ!」
「知らないのね。」
「知らないのか。」
「知らないんだな。」
「うっ……。」


皆で光牙をくすくす笑っていると、目の前に一陣の風が吹く。はっと龍峰は周囲を見渡した。


「龍峰? どうしたんだ、突然。」
「あ、…いや、なんでもないんだ。
(今の小宇宙は……いや、でもそんなはずはないよね……。)」


龍峰は深く考え込む。それを栄斗は横目で見ながらも再度言葉をかけることはなかった。
と、アリアが控えめにユナに声をかけた。


「サーカスって……どんなの?」
「あら、アリアも知らないのね。あ、ううん! 知らなくてもいいのよ?」
「なんなら、見てくか?」


蒼摩が腕を組みながら、ちらりとユナを見る。ユナはしばし考え込むも、くすりと微笑んで頷いた。


「そうね、偶にはいいかもしれないわ。」
「! だよなっだよな!」
「まったく、調子いいなお前。」
「うるせっ。」


こうして光牙たちは、サーカスが行われるという会場へと足を向けた。

講演は2時間に亘るものだった。
終わりのアナウンスが響くと、人々が席を立つ。
ただ、何人かの客人たちは、先ほどのパフォーマンスに圧倒されてか、すぐに立ち上がることはせずに座り込んでいた。


「かぁー! すっげぇんだな、"さーかす"って!」
「光牙ってばはしゃぎすぎよ。」
「隣のガキんちょよりも、声あげてたよなぁ〜。」


光牙はやはりサーカスは初めてだったらしく、酷くテンションが高かった。
それには、ユナも蒼摩も苦笑。だが、本人は知らず、先ほどまでの熱を未だに引きずっていた。


「けど、サーカスっていつ観ても凄いのは確かだよね。」
「あぁ、そうだな。」
「凄かった……。」


龍峰の言葉に、栄斗もこくりと頷く。
光牙同様、サーカスを知らなかったアリアも、今ではかなり魅了されているようだった。


「さ、今日はこの町で休みましょう? もう遅いし…きゃっ!」
「っと…。」


後ろを向いたまま歩いていたユナが、前方の人とぶつかる。
態勢を崩したユナを支えたのは1人の女性だった。顔を上げれば、一目でわかる女聖闘士の証。


「! 貴女っ、聖闘士ね!?」


ユナが慌てて距離を置いた。今は自分たち聖闘士が聖闘士に追われているのだ。
誰であろうと、ある程度の危機感は持たねばならない。


「えぇ。けれど別に今のマルスとかやらに従ってるわけじゃないし…貴方たちの敵ではないわ。」


ちらりとマルスたちの呼ぶ「アテナ」を一瞥し、女性は冷静にそう返した。そして、そのままユナたちを通り過ぎる。
髪と一緒に、頭頂部の赤いリボンが揺れる。龍峰ははっと目を開いた。


「! 待ってくれ!」
「…………。」


そのまま去ろうとしている女性を、龍峰が引き留める。
女性は一度足を止めるも、すぐに歩き出す。龍峰は慌ててその後を追った。


「お、おい龍峰!?」
「どこ行くのよ!」
「ごめんっ、先に宿に行っていて!」


龍峰はそのまま、女性の後を追って姿を消した。




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