1周年記念代打 | ナノ

Origin.


 家族という心の支え


「んで、なんで突然どっか行っちまったの。」
「それはごめん。でも、どうしても会いたい人がいたから。」
「……それ、さっき族長と話してた男?」
「そう。私の大好きな人。」
「……ふぅん。」


皆が就寝し始める時間帯、少し離れた所でナマエとカイは話していた。
じっと空を見上げるナマエを見つけるカイ。


「……そんなに、好きなの。」
「えぇ……私が笑っていられるのも、彼のお蔭かも。」
「……。」


まるで愛でるような瞳。自分には向かないそれ。
カイはぐっと拳を強く握り、歯を食いしばった。


「……。」
「カイ? どうかしたの?」
「……な、ナマエ。次の公演、一緒にやってくれ。」
「え?」


カイが真剣な眼差しでナマエを見る。


「俺とお前の最後の公演。……一緒に、やりたい。」
「……カイ、……。」
「頼む。」
「……うん、分かったわ。」


微笑みを携え、小さく頷くナマエに、カイも大きく頷いた。


 * * * *


「すっげぇ、人たくさん!」
「ほんと、…凄い…!」
「前にサーカス団のいる町に行った時もだけれど、やっぱり人は集まってくるのね。」
「ま、普段は滅多にお目にかかれないモンだしな!」
「わざわざ遠くから来るやつもいるらしい。」


そして一行は無事に次の村へと到達した。
彼らを向かいいれてくれる村人への挨拶を軽く済ませ、さっそくその日の公演に向けて調整をする。


「ナマエ、」
「龍峰!」
「とても似合ってる。昔のことを思い出すよ。」
「あ、ありがとう…。私、頑張るね。皆に恩返ししたいから。」
「大事な家族だもんね。」
「!、…えぇ!」
「ナマエなら大丈夫だよ、僕も応援してる。」
「龍峰……。」


自分よりも小さな手を握り、龍峰は微笑んでみせた。


「…私も、龍峰たちの初ステージが上手くいくよう応援してるわ。」
「うん。光牙くんやアリアはまだ危ないけど、栄斗と蒼摩、ユナの出来はなかなかイイみたいだよ。」
「龍峰は?」
「僕はもちろん。ナマエのこと見てきたんだから、出来るに決まってるよ。」
「も、もう!」
「ナマエ!」
「はーい! …それじゃ、先に行ってるね。」
「うん。」


そして夜――小さな村で、サーカス団の公演が幕を開けた。

舞台に設置された高台に立っているのはナマエとカイの2人。
彼らの目の前には、高台よりも高い位置からつるされたブランコがあった。
カイはそれをそっと引き寄せ、足をかける。


「準備は宜しいですか、お嬢さん?」
「えぇ、もちろん。落とさないでくださいね?」
「りょーかい。」


ナマエがカイの手を握り、2人が宙へと舞った刹那――


「見つけたぞ!!」
「ッ嘘、火星士?!」
「おいおい、部外者がステージ上がりしてんぞ。」


舞台裏から火星士が数人、突如と現れたのだ。
咄嗟の出来事に、ナマエたちは瞠目するも、観客はこれすらもショーの一部と思っているようだった。
しかし、今唯一ステージ上に立っているナマエはまさに空中を飛んでいるところだった。


「カイ、私の手を離して!」
「馬鹿野郎、今だから離すわけにいかねーだろ!」
「私たちしかアイツらは倒せないの!」
「お前にその術があるってのか!」
「あるわ! 私には聖衣が――ッ、な、ない?!」


自分の胸元に視線をやるも、そこで舞台に上がる前に聖衣石を外していたことを思い出す。
しまった、と顔を歪ませながら、ナマエはどうにかできないものかと上から火星士を見下げながら思考を働かせた。

今にも光牙たちが舞台上にあがり討伐をしようとしているが、ここで争うにはあまりにも人が多すぎる。
なにより、家族も同然の仲間の前で、負傷者を出したくなかったのだ。


「――……そうだ。」
「ナマエ?」
「そのまま勢い保ってて!」
「…なんだかよく分からね―けど、了解!」


ナマエはハッと閃き、勢いをつけたまま高台に近づくと、芸の為に備えていたループを足に引っかけた。
そのまま体はまた何もない宙を行き来する。


「ループなんか、どうすんの!」
「カイは、私のキャッチ宜しく!」
「はぁ? って、オイっ?!」


ナマエは足に引っかけていたループを落とし、勢いをつけてカイから手を離した。


「行くよ――ジャーマ・フレイム!!」


不安定な空中でナマエは身を捩り、手をループへとかざした。
途端、ループに炎が走り、炎の環がうまれる。


「なっ、なんだ?!」


そのループはそのまま真下にいた火星士たちの体を通り、彼らの動きを封じた。
更に、そこに蒼摩の力が加わって炎の竜巻が生まれ、火星士たちの体は見事に見えぬ場所まで飛ばされていった。


「すっげぇ…!」
「まぁ!」


フィナーレとして龍峰の水が炎の竜巻の打ち消し、キラキラと輝く水しぶきが舞う。
それに観客は見とれたように目を輝かせた。




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