頂き・捧げもの | ナノ

Origin.


 自然のカルネヴァーレ

さぁ、共に…。」「家族という心の支え」設定


自然の空気は落ち着く。
風の囁き、森の話し声、水の歌声。
自然がもたらすものは自分に最高の癒しをくれる。

龍峰は口元を緩ませ、そんな音に耳を傾けた。
今日はやけに自然の声が弾んで聞こえる。
音楽を奏でているようにさえ思わせ、龍峰の心は静かに踊っていた。

というのも、原因はこの自然の合唱だけではなく――


「龍峰!」
「ナマエ、おはよう。」
「ん、おはよう。」


愛すべき彼女である、ナマエとの時間があるからだろう。

今こそ落ち着いているこの時間だが、つい最近までは日々戦闘に追われ休まる一時など無かった。
そんな状況下に身を投じていた2人は当然、恋人としての時間をつくることなどできなかったのだ。


「今日は春麗さんに何教えてもらおうかな。」
「それなんだけどね、ナマエ。」
「どうしたの?」


ナマエはここ毎日、春麗からの料理講座を受けている。
というのも全ては龍峰のために繋がるものだから、龍峰自身もそれを喜んでいた。
愛すべき自分の母と恋人が並んでいる姿は見ていて微笑ましい。
時には失敗して泣きそうになる彼女を慰めたり、時には作りすぎた料理を限界まで詰め込んで美味しいと彼女に微笑んだり。
これ以上ないくらいの幸せな時を過ごしていた。

けれど、ふと。それは本当に唐突に思ったのだ。
恋人としてきちんとしたデートを一度もしたことがない、と。


「母さんは今日空いていないんだ。」
「え、そうなの?」
「急に父さんと予定が入ってね。」
「そっか、それなら仕方がないわね。夫婦でゆっくり過ごしてほしいもの。」


口元を緩ませるナマエに、龍峰は微笑む。
そっと、彼女に手を指し延ばした。
ナマエは突然差し出されたその手に、小首を傾げた。
龍峰を見つめても彼はただ美しく口元に弧を描いているだけだ。


「?、どうしたの龍峰?」
「だからってわけじゃないけどデートしよう、ナマエ。」
「…………へっ!?」


唐突だったかな?
龍峰はふふっと思わず笑みを零し、硬直して動かないナマエの手を握りしめる。
そしてそのまま歩きだせば、ナマエの慌てた声が聞こえてきた。


「っちょ龍峰!? きゅ、急にどうしたの!」
「僕たちデートしたことないからしたいなって思って。いや?」
「い、やじゃ……ないけど。」
「そう言ってくれると思った。さ、行こう。」
「りゅっ龍峰!」
「なに?」
「て、て、手!」


顔が仄かに赤く染まっている。
龍峰は目を細め、小さな手を握る自分の手に力を込めた。


「デート、だからね。」


山を2人でくだり、まずは麓にある村に足を運ぶ。

そこには、近隣の村同士で協力し最近になって完成した小さな噴水があった。
新品のそれは水の力で尚輝き、これからの村のシンボルとなるだろう。
そんな噴水を見て、お互いに綺麗だね、と言い合う。


「次はこの噴水の周りに花が植えられるらしいんだ。」
「へぇ、この村も華やかになるのね。」
「そうだね。旅人たちも一息つける、そんなスポットを目指すって聞いたな。」
「素敵……、きっとここを訪れた人は皆癒されるわ。」


ナマエは繋がれていない手を、そっと水に近づける。
冷たい感触に思わず頬が綻んだ。


「冷たくて気持ちいい。」
「夏にはいいかもしれないね。」
「その頃には花も並んでいるかしら?」
「きっと。」


美しい噴水の周りに綺麗な花が咲く。
そんな情景を想像して、龍峰もナマエも今から心躍らせた。
確かに広がるこの景色は、平和そのものだ。
自分たちで掴み取ったそれに、感銘を受ける。


「私ね、雨上りの花の姿好きなの。」
「初めて聞いた。どうして?」
「花びらについた雫って綺麗だと思わない?」
「より一層輝くよね、僕も好きだな。」
「それに、何となくだけど水って龍峰に繋がるから。」
「え。」
「……そういうのもあって、好き。」


龍峰が思わずナマエに視線を移す。
ナマエはただ噴き上がる水の柱を見つめているものの、その横顔は酷く赤くなっていた。
手を握った時より数倍にも。

そんな照れた表情に、龍峰は目を細くした。
握るその小さな手にまた力を込める。


「今度、家の近くにも花植えようか。」
「…うん。」


ナマエの小さな頷きを確認し、龍峰は手を握った状態でまた歩き出す。
今日は丸1日あるわけだし、少し遠出でもしようと思っていたのだ。
この噴水は、また夕暮れ時に見るとしよう。


「龍峰、次はどこへ?」
「隣町に行こうと思って。新しい店がたくさん増えたんだ。」
「あ、それって前に紫龍さんと買い物に行ってくれた時に?」
「そう、その時に。結構出店していて、驚いてね。」
「それは楽しみ!」


先程までは照れた顔。今はわくわくしたような顔。
ころりと変化するナマエの表情に、龍峰は愛しさを感じた。
彼女の笑顔は本当に好きだ。この笑顔に何度救われたことか……。

隣町へは思ったよりも早く着いた。
というのも、道中ずっと話していたからそう感じたのかもしれない。
作り立ての鮮やかなアーチに歓迎され、町の中を歩み始める。
途端、ナマエの顔が今日一番に輝きだした。


「あっ、あの店ってもしかして今人気あるカフェ!?」


以前、雑誌にて大々的に載せられていたカフェ。
自然の中に密やかな憩い場を、といったテーマを掲げている店だ。
そこまで店自体は大きくなく目立ってはいない。
しかし、内外装の美しさや周囲に植えられた花々が可愛らしく魅力的だと、多くの女性が惹かれているらしい。
ナマエが何度も興奮気味に話していたために、龍峰はしっかり覚えていた。


「さ、中に入ろう。」
「うんっ!」


早速中に入れば、木の温もりとそこから自然の香りが迎えてくれる。
流れる音楽は木々の囁きのようで、自宅を思い出させた。


「ここはねーパンケーキが美味しいんだって。」
「ナマエがたくさん教えてくれたから覚えているよ。」
「後ね、ホイップクリームを乗せたのも美味しいらしいんだけど、このブルーベリージャムのトッピングが一番人気みたい!」
「ふふ、それも聞いた。」
「え、と……あ、そうそう! 今期間限定でキャラメルソースがかかってるこのセットが、」
「特に若い女の人に人気なんだよね。
甘いだけじゃなくてちょっとだけ苦みを含ませているから、飽きずにパクパクいけるんだっけ。」
「!、も、もう……何で覚えてるの!」
「ナマエの言ってることは一字一句逃してないよ。」


困ったように、それでいて恥ずかしげにこちらを見るナマエを可愛らしいと思いながら、龍峰はそんな彼女に微笑む。
はっと目を見開いて、ナマエは咄嗟に顔を俯けた。


「ばか…。」


小さな悪態をつく彼女の姿に、またも自然と笑みがこぼれる。
暫くそんな照れる彼女を見つめているも、すぐにウェイトレスが顔を出してきた。
メニュー表を一瞥した龍峰は、ブルーベリージャムがかかったパンケーキを頼む。
対するナマエは、悩んだ末にキャラメル&ストロベリーソースの期間限定ものを注文した。


「へぇ、ストロベリーもあるのは知らなかった。」
「雑誌に載ってなかったのよね。新しく出来たのかな?」
「そうかもしれないね。」


暫く談笑を楽しんでいれば、頼んでいたそれらが運ばれてくる。
ナマエの表情がこの店を見つけた時のように輝く。まるで子どものようだ。
早速パンケーキを食べやすい大きさに切り、口に運んだ。
龍峰もまた同様に、目の前に置かれた甘い香りを放つパンケーキを食べる。

パンケーキの暖かさとジャムの冷たさが混じり合い、それが未知の感覚をもたらした。
そして思いのほか甘すぎず、口に運びやすい。
龍峰は予想以上の美味しさに更にそれを呑み込んだ。


「うん、美味しい。」
「ねっね! 想像していたのよりも凄く美味しい。口の中でほろりとろける感じ!」


思わず口から素直に漏れれば、ナマエはすぐに反応を示した。
彼女の更にあるパンケーキは既に半月型になっている。
どうやら相当お気に召したらしい。


「苦くない?」
「ちょっとだけ苦みあるけど、苺の甘さといい具合に混じっているわ。
はぁーっ…、こんなものがあったのね。ハマっちゃいそう。」
「ふふ、連れて来て正解だったかな。」
「うんっ、ありがとう龍峰!」


これが小動物ならば、ぴょんぴょんと飛び跳ねて身体全体で喜びを表現しているのだろう。
既に上半身が無意識に左右揺らいでいるナマエを目の前にして、龍峰はそんなことを思う。
そんなうちにも、手だけは進んで。


「ごちそうさまでしたっ!」
「ごちそうさまでした。」


あっという間に皿は底を見せた。
2人で手を合わせそう言いあい、会計を素早く済ませて店を後にする。
ナマエは体を大きく伸ばして、太陽を仰いだ。
まだまだ1日は終わらない。


「次は何処に行く?」
「まずはこの通りを歩いてみよう。きっとナマエが気に入るお店もあると思うんだ。」
「既に気に入っている店入ったけどね!」
「ふふ、それ以外にも、ね?」


始めは照れていた手つなぎも、今では既に自然になっている。
龍峰はそれに小さく喜び、そっと手を少しだけ離した。
そして自分の指を、ナマエの細い指の間に通す。


「っ、」


ぴくりとナマエの身体が跳ねた。
けれど、何も言わない。

龍峰はそのままナマエの手に自らのを絡ませ、ぎゅっと握りしめた。
ただの友人同士じゃ絶対にしない、恋人だけに許される繋ぎ。


「……。」
「……。」
「いい天気になって、良かったね。」
「うん…。」


なんとなくそれだけで、龍峰自身も照れくさくなった。
先程まで止まず開いていた口も閉じ、お互い無言になる。
けれど、その時間は全く苦しくなかった。
逆に無言の空間さえも愛おしく感じる。

まだまだデートはこれからだ。
このまま道をまっすぐ行って、突き当たりの洋服店で彼女に服を買ってあげよう。
新しい装いで更に町を巡り、帰路でまたあの麓の村へ寄るんだ。

その頃には、夕日に映える噴水の美しさが望めるだろう。
2人でまたそれを見て、ちょっとした水のパフォーマンスでも披露してあげて。
その時に改めて彼女に想いを告げるんだ。


龍峰は小さく口元を緩めながら、瞼を閉じた。
頬を撫でる風が同時に草木の指揮を振る。
心地良い音楽に耳を傾けながら、手から伝わる温もりと鼓動を愛した。



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93000を踏まれました朱璃様に捧げます龍峰夢!
初デートということで、少しでもドキドキしていただければ嬉しいです。
なんだかんだ言っても龍峰くんも照れてるんです。
でも夢主ちゃんの方が照れているからそれが可愛くて自分の照れなんてポイッ。

リクエスト、ありがとうございました!



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