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 離れて駆け寄って

甘い言葉に囁かれ」設定


「……え?」
「……お前は確か……。」
「……ど、どうも。」
「…………。」


ナマエは早くも、栄斗の言葉に後悔することとなる。

それは先刻前――
栄斗と共に山に籠り、修行をしていた時のことだった。


「っ…はっ…栄斗、少し休もう…。」
「なんだ、もう疲れたのか?」
「う、うるさい!」
「まったく。……だらしがないな。」


くすりと笑う栄斗に、ナマエは顔を真っ赤にさせながら近くの横倒れている木に腰を下ろした。
その隣に、自然な動作で栄斗も腰を下ろす。微かに肩が触れあい、ナマエは顔を俯けた。


「……、栄斗。」
「なんだ?」
「その……た、偶には町に降りてゆっくりしない?」
「町に? どうしてだ。」
「だ、だからっ!」


山に籠って何日目か。
食料を調達するために麓の町に訪れはするが、あくまでも目的は食料。
ナマエと栄斗は、2人で夜を何度も明かしながらも、何も進展はなかった。

もちろん、それを期待しているわけではないが――。


「(修行はそりゃしたいけど、せっかく時間あるんだし……。)」


偶には、ゆっくりしたかったのだ。
2人でのんびり、町を歩くだけでも良かった。


「……だめ?」
「今は下りるべきじゃない。どうも嫌な予感するもする。」
「…………。」


やっぱりか。
仕方がないのかな、とナマエが息を吐くと同時に、栄斗の言葉が続いた。


「それに、もしもの時にお前を連れて歩くのはな。」
「!」


ちくり、と心に針が突き刺さった。


「な、にそれ……!」
「ナマエ?」
「それって、僕が邪魔ってこと?!」
「何を言ってる。そうじゃない、ただ――」
「いいよ! 栄斗の馬鹿!!」


ナマエは立ち上がり、歩き出す。


「おい、どこへ行く。」
「どこだって良いだろ。僕は1人だって平気だ!!」
「待て、町に下りるな。さっきも言ったが、どうも嫌な予感が――。」
「敵が現れたって僕1人で対処できる!!」
「っおい、ナマエ!」


栄斗の声も届かぬまま、ナマエは走り出した。


「(なんだよ、……っなんだよ……!)」


今まで一緒に修行をしてきたのはなんだったのか。
今まで一緒に居たのはなんだったのか。


「(僕だけが、期待していたってことかよ!)」


悔しい気持ちに唇を噛み締めながら、ナマエは1人町へと下りていった。
そして、そこで予期せぬ人物と対峙することになってしまったのだ。


「なんで、こんなところにいるんだよ……。」
「お前1人か、都合がいい。」
「ッ、……ぼ、僕もちょうどいい! アンタを、倒してやる!」
「ほう?」


相手の――時貞の目が細く鋭くなる。
それと同時に漂う彼の異常な小宇宙に、ナマエはぶるりと身を震わせた。


「(僕1人でだって、コイツくらいっ……。)」


心が臆しているのを無視して、ナマエは構えた。
それを面白そうに時貞を見ている。

まるで始めから勝負が見えているような余裕さに、ナマエは先ほどの栄斗を思い出す。


「(皆まるで僕が弱いみたいに……!)覚悟しろ、時貞!!」


ぐっと拳を握り、地面を蹴ってナマエは時貞に一発、拳をおろした。


「!」
「甘いな。」


だがその拳は時貞の掌によって止められる。


「っ、くそっ、…!」
「お前、確かアイツと一緒にいる女だな。」
「アイツ?」
「ちょうど良く湧いてくれた。」
「なんのっ、話しだっ……!」


時貞と距離を置こうにも、ナマエの拳が彼の掌に握られ、身を引けない状況となる。
ひやりと汗をかいているのが分かった。


「(もしかして、僕を人質にして栄斗を脅す気なのか!)」
「ほう、…お前でも理解できたようだな。尚更好都合だ。大人しくして貰おう。」
「っふざ、けるなッ……!」
「これだから女はうるさい、黙ってろ。」
「むぅっ?!」


ぐっと強い力で引っ張られたと思いきや、体は反転されて時貞に拘束されてしまう。
どんなに暴れようにも彼の力は強く、ナマエは口元も抑えられて声すら出せない状況下に陥ってしまった。


「!、…!」
「いっそのことその舌、切ってもいいんだぞ。」
「っ……。」
「いい子だ。」


どうしよう。
どうやればこの状況を打開できるんだろう?


「(でも、どんなに相手が強くたって負けるわけには。)」
「さて。いつ来るか。」
「んぅ! (栄斗は来ない。僕が倒すんだ……!)」


どうせ栄斗はまだ山にいるに違いない。
例え今からこっちに来たとしても時間はかかる。
それに、この状況を見れば迂闊に顔は出せないだろう。

ナマエはそれを訴えかけるように時貞を睨みあげた。


「ふん、威勢だけはいいな。」
「あいにくそれだけが取り柄でな。」
「――!?」
「ほう、予想よりも早く到着したか。」


ぱさりと、目の前で栄斗の長い髪が重力に従いおりた。


「(なん、で……。)」
「なにを不思議そうな顔をしている。不細工だから止めておけ。」
「! (む、栄斗のやつ…!)」
「我を前に臆することなく現れるとは、この女、それほどまでに大事か。」
「お前には分からない魅力ってやつがあるんだろうな。……今すぐ離せ。」
「……。」


栄斗は、本気だ。
ナマエはこのような状況下でも、胸の高鳴りを抑えることができなかった。


「そのようなことは、我を倒して言うのだな。」
「ならば容赦はしない。行くぞ!!」




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