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Origin.


 甘い言葉に囁かれ


「きゃあ!?」
「っ、ユナ!!」


後方に飛ばされたユナの体を、ナマエが素早くキャッチした。
ユナは咄嗟に瞑った瞼をゆっくりと開ける。
そこには、優しい微笑みを浮かべたナマエの顔が一面に。
いくら同性といえども、中性的な顔立ちをしている相手なため、思わずユナは顔を赤くした。


「っ……、」
「ユナ? どうした、顔が赤いが……風邪でもひいてたのか…?」
「あ、あのっ……大丈夫、よ…。」
「そうか? あまり無理はしないでくれ、ユナの身に何かあったら、不安でたまらない。」
「え、えぇ……。」


2人のやりとりを見ていた蒼摩が腕を頭の後ろで組みながら苦笑した。


「あーあ、またやってるぜ。アイツも罪な奴だな…。」
「なぁ、どうしてユナは顔を赤くしてるんだ?」
「……分からないのか、光牙。」
「あぁ。……って、なんだよその顔!」
「……光牙、わからないの?」
「アリアまでぇええ!?」


そうこう騒いでいるうちに、ユナが頬に手を当てながら戻ってきた。


「はは、お疲れさん。」
「ほんと……どうしてナマエってばあんなにっ……。」
「はいはい、思い出して顔赤くすんなって。で? その王子様はどこ行ったんだよ。」
「…近くの湖に、水浴びにいったわ……。」
「なぁなぁ、ナマエは女だから、王子様じゃなくて王女様だろ?
……あれ、それ以前にナマエは王家の子だったのか!?」
「……もう喋るな、光牙。」
「ちょ、なんでだよ蒼摩ぁ!!」
「光牙、何も知らない…ね……。」
「アリアぁああ!?」


その頃、当の本人は近くの湖にてその体を清めていた。
衣服は見える木の枝に引っかけ、聖衣石はしっかりと身に着けている状態だ。
太陽の光に反射して、湖の光は幻想的に輝いていた。その中央に、少女がいる。


「ふぅ……やっぱり、体動かした後の水浴びは最高だな…。」


瞼を閉じ、湿らせた髪を優しく撫で、両の手で水を掬い顔にかける。
ちょうどいい冷たさが、先ほどまでの体の熱を沈めてくれた。


「あぁ……気持ちいいなぁ……。」
「――ほぅ、なかなかいい立ち姿をしているな。」
「ッ!? は、はははは栄斗?!」


ざばんっ、と音を立てナマエが振り返る。
声の主は木の幹に、凭れ掛かり、下がった眼鏡を指で上げていた。
そのレンズ越しに見える瞳は、まっすぐに自分を見ている。
ナマエははっとし、その体を水に隠した。


「ちょ、やだっ! 何してるんだ栄斗! 僕は今、は、はは裸なんだぞっ……!」


羞恥に染まった顔でそう叫び、栄斗を睨む。
だが彼は一歩もたじろぐことなく、彼女のその表情をにやりと見つめていた。


「馬鹿、早く立ち去れっ!」
「この絶景を見ずして何をしろと言うんだ。」
「っ!」


馬鹿はお前だとでも言うように、栄斗は息を吐く。
そして、あろうことかそのまま湖の中へと足を進めてきたのだ。
これにはナマエも目を見張り、彼の行動をじっと見ていた。が、はっとし。


「何をっ…服が濡れるぞ! 早く上がれ!」
「さっきからわんわん喚くな。」
「わっ…!? 僕はお前の心配をしてやって……ひっ!?」


ナマエが思わず身を引き下げた。
栄斗が平然とした表情のままこちらへと向かってきているのだ。
服を着たまま、服を着ていない自分のもとへと。ゆっくり、ゆっくり。


「…は、早く出ろっ!」
「ふ、何を恥ずかしがることがある? 元は寝床を共にした仲だろう?」
「ばっ! それは僕がまだ男装をしていたころの話で……!」


以前、パライストラで共に腕を磨いていた頃の話だが、ナマエは自らが女であることを偽って過ごしていた。
その時に同室になったのがこの栄斗だ。もっとも、入学早々に変装はバレたのだが……。


「は、栄斗! 頼むからこれ以上はっ…!」
「これ以上は? …なんだ?」
「っ……きゃっ!?」


栄斗は一瞬にしてナマエの目前まで移動したかと思えば、体を隠すその細い両腕を片手で握った。
目の前にいる彼女はこれ以上ないくらいまでに顔を赤くさせ、目を見開いている。
その瞳は激しく揺れ動き、涙が溜まって潤んでいた。


「そんな声出す奴が、男なわけないだろ。」
「ッ…、」
「なぁ?」
「は、はるとっ…やめっ、」




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