今をもっと好きになる



自販機でジュースを買うとピピピピと数字が回る。6、6、6…いつも頑張れと祈ってるが当たった試しはなく、どうせ今回も外れるやろとジュースを取ろうとすると、ろ、ろく?!嘘やん夢じゃないよな!思わずガッツポーズ。せっかくタダやしいつも買わへん高めのやつにしよかな、いやさっき迷ってた方にするのもありやな、早く決めないととは思いつつにやけて迷ってしまう。やっぱり高いやつ買ってみよ、と意気込んでボタンを押そうとしたが後ろから手が伸びてきて、えっと思った頃には遅くガコンと飲み物が落ちてくる音がした。

「揃ってるのなんか初めて見た」
「えっえっ、えっ…?」
「ごちそーさま」

ちょっと取り出しにくそうに飲み物を2つ取り出して私が最初に買った分だけハイと渡して何事もなかったかのように立ち去ろうとする。ちょ、ちょっと待って!

「なに普通にどっか行こうとしてるん?てかなんで勝手に押したん…!」
「いや迷ってるみたいだったから決めてあげようかなって」
「ツッコミどころ多すぎて困る」

なんでそうなるん…!思わず頭を抱えそうになるが角名の唯我独尊行動は今に始まった事じゃない。お菓子を食べてたら「それ美味しそうだね」と食べられたり、移動教室があれば「俺のもよろしく」と教科書を乗せられたり、1番はお昼休みに朝頑張って起きて卵焼きを作ったという話をすると俺にもちょーだいなんて言ってあげるまで動かんかったこと、治でもここまで頑固ちゃうわ。とにかく角名はめちゃくちゃ勝手、自由、無茶苦茶。
私のや返せと手を伸ばすが180cmを超える大男がさらに手を上げれば届くわけはなく、悪足掻きに跳んでみたが届く気もしなかった。あっ出たなまた悪い顔しよって、角名先輩かっこいいとか言ってる後輩ちゃんらに教えてあげたいわ。

「別に苗字は自分の分買えたし俺にくれたって良いじゃん」
「それとこれとは話が違う、タダで2本飲みたい」
「そんなことばっかりしててお腹大丈夫?」

ぷぷぷと人を小馬鹿にしたように笑う角名の指すお腹が胃の容量ではなく脂肪のことを言っているのぐらいすぐわかる。うるさいねん私もわかってるわ。

「ほんまあんたいい性格してるよな…!」
「そう?」
「別に褒めてへんからな先言っとくけど。はぁ…しゃーないからそれもうあげるわ…」
「ありがと」

もらう気しかなかったくせに。目の前でジュースを開ける角名を見てなんか無駄に疲れたなと私も飲み始める、美味しい、美味しいねんけど…ちらっと角名の方を見る。実は角名が選んだやつは私が迷ってた物で、これにしようと決めたものの隣で飲んでるのを見るとやっぱりそっちにしたらよかったかなとかそっちの方が美味しそうとか思ってしまう。視線に気付いた角名がふふっと笑ってペットボトルを差し出す。

「飲む?」
「飲む!」

ラッキーどっちも飲めた。って元々これは私のものやからラッキーは違う…?あれ?うーん…まあいいか。やっぱこっちも美味しいな、ありがとう私の飲む?と聞くと飲むと返事。
スラっとしてるし背高いし顔も…まあ、うん、なんか悔しいから絶対言いたくないけどかっこいいし、何が言いたいかというとたかが飲み物を飲んでるだけなのに絵になるのが腹立つ。じっと見つめすぎたらしく惚れた?なんてぺろりと唇を舐めながら聞くもんだからなんだか恥ずかしくなってきて別にと角名からジュースを受け取ろうと手を伸ばす、2回ぐらい引っ張ったけど何故か手を離そうとしない。

「まさかこれも欲しいとか言う?」
「…名前ちゃんってさ」

1歩、踏み出された分なんとなく後ろに下がる、1歩、また1歩、下がっていくうちに背中に自販機がぶつかる。じーっと私を見る角名の表情からなにを考えているのか読めなくて少し不安になる。無意識にぎゅっとペットボトルを握りしめていたみたいで凹む音がした。

「誰とでもこんなことすんの」
「こんなこととは…」
「人が飲んだやつ飲むの」
「いや…まあ人は選ぶけどそこまで気にしやんかな…」

ふーん。そう言った角名の表情は変わらない。1歩、また近づいて来たが私はもう後ろに下がれずただ距離が近まる。ほぼ0距離まで近づいて来る角名にどうすればいいかわからず視線がさまよう。なにがしたいのかわからん、顔が見れなくて足元を見ていると視界の右側に何かが動くのが見えた。角名はペットボトルを持った側の肘を自販機につける姿勢をとったみたいで、いわゆる壁ドンみたいになってしまった、か、かおがちかい。

「俺は、」

声に反応して顔を上げてしまって至近距離で目が合う。

「好きでもない子と間接キスは嫌かな」
「…は」

なに、言ってんの。
声に出なかった言葉は空気となって消えた。顔に熱が集まるのを感じる、きっと今めちゃくちゃ顔赤くなってる。そんな私に悪戯が成功した子どもみたいに笑い、ぽんぽんと頭を撫でて立ち去る角名。なんで急に名前で呼んだんとか、ジュース逆なんですけどとか、今までだって間接キスしたことあったやんとか、言いたいことはあったけどどれも言うことはできず、ずるずるとその場に崩れ落ちる。なんなんあいつ…好きでもない子とは嫌ってどういうことなん…。角名が持って行った私のジュース、そういえば初恋の味ってキャッチフレーズやったなと片隅で思い出しながら、どんな顔して教室に帰ればいいんかと頭を悩ませた。

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