また明日





ルフレと絵倉くんに不用意に出掛けないようこんこんとお説教を受けたあと、無事で良かったと微笑まれた。
クロムとロンクーさんも様子を見に来てくれた。
心配した、とニノに抱き着かれた。

入れ替わり立ち替わり現れる見舞い客。
心配と迷惑を掛けた自覚はある。でも思ったよりみんなは心配してくれたようで、少し驚いた。同時に、みんな優しい人なんだと改めて実感した。
そして。

「……それで?僕に何か言うことは」

腕を組み、静かに私を見下ろす赤みがかった瞳。
怒りを表に出すのではなく静かに訊かれるものだから逆に怖い。自主的にベッドの上で土下座するほどだ。
今の私は顔色青く、目が泳ぎまくっていることだろう。タクミくんの後ろでは見舞いに来ていたシャロンとアンナさんがこそこそと縮こまりながら部屋を出ていくところだった。ひどい、裏切られた。

「ス……スミマセンデシタ」
「何に対して?」
「そ、その、色々と」

思い当たる節がありすぎる。胃がキリキリしてきた。

「……はあ。李依が居なくなったと気付いてこっちは心臓が止まるかと思ったよ。
もとの世界に帰ったんじゃないかって」

どきりとする。隠し部屋の魔道書のこと、私がエンブラ側に持ちかけた交渉を突かれた気がしたからだ。
彼が知るはずが無いのに、隠し事をしている後ろめたい感情がそうさせた。
とっさに話を切り替える。

「で、でも、私が敵に回っても絵倉くんやルフレに敵わないってなんとなく分かってたし証明されたよね!相手の情報を見る力を持ってても脅威にはならない、みたいな!」

が、逆効果だった。

「成る程ね。李依が怒ってた意味が分かる気がするよ」
「え?」
「あんまり自分を軽んじるなよ。僕は李依が敵だなんて二度とごめんだ」
「……」

素直というか、優しいというか。叱られた。

「……はい」
「…………」
「…………」

途切れる会話。先ほどとは質の違う居心地の悪さ。遠回しに仲間だと言われたからだろうか。若干恥ずかしい。
なんとなくいつものタクミくんと雰囲気が違うせいもある。流れる沈黙にタクミくんが「はあ」と溜め息を吐いた。

「明日」
「は、はい」
「……待ってる」

踵を返して立ち去っていく。
明日、きっとタクミくんはいつもの弓道場で鍛練しているのだろう。数時間遅れて現れる、私を待っていてくれるのだろう。

嫌われていないのは分かっていた。でもどうやら思っていたよりもずっと好かれていたらしい。
二度も命を助けてくれるくらいに。不覚にもどきりとさせられるくらいに。別の角度から私が囁く。彼が私に向けてくれている好意。
元の世界に帰れば、消える感情なのに。
そうして彼は誰かと結婚して、家庭を作るのかもしれないのに。

いつか、私を忘れるのに。