つかの間の家出





「……」

もはや見慣れた借り部屋の自室の天井、馴染んだ肉厚のベッド。軽く柔らかい羽毛布団。

ボーッと天井を眺めて、ふと横に視線をずらす。
ぱちり。翡翠の瞳と目があった。彼女は金髪を揺らして身を乗り出す。

「李依さん!目が覚めたんですねっ!」
「う、声が大き……」
「良かったです!わたし、このまま李依さんが目覚めなかったらって……!う、うわああん!!」
「ちょ、シャロン……」

この声量は寝起きにはつらい。
布団に突っ伏して泣き始めたシャロンの後頭部を撫でる。しばらくそうしていると、泣き声を聞き付けたのかアルフォンスとアンナが現れた。

「……どうやら、無事に目覚めたようだね」
「後遺症も無いようね。一応サクラと……呪術の可能性も考えてサーリャも呼びましょうか」
「あ、大丈夫だと思います。すみません、迷惑かけて……」
「まったく、心配したのよ?無事で何よりだわ」
「本当に……君が無事で良かった。エクラ達にも知らせてくる」
「ええ、お願い」

ぐず、と鼻をすすってシャロンが顔を上げる。
彼女は泣きながら、でもとびっきりの笑顔で。

「おかえりなさい!李依さん!」

私を思ってこんなに泣いて、そして喜んでくれる。
脇に立つアンナさんとアルフォンスも「おかえり」「おかえりなさい」と続けた。

迷惑をかけてしまった。心配をさせてしまった。
それなのに。帰る場所と待っていてくれる人達がいるだけで、今は申し訳ない気持ちよりも嬉しさが大きくて。つい笑顔になってしまう。

「ただいま、みんな」

──このあとフェリシアの見舞いも増えて、布団に突っ伏す人間が二人に増えた。