近距離反撃×待ち伏せ




「あんた、分かりやすい餌に釣られすぎなんだよ。」




──



無傷だったはずのペガサスが、ナイトもろとも倒れてゆく。
向こうでは傷付きつつも風神弓を構えて立つ弓兵の姿。
そして口角を上げ、あの生意気な声で。

「ほら、釣られた。」

追い詰められた側とは思えない余裕。異変に気付き、とっさに奥に控える軍師を見る。
魔道書を開いたままの彼は落ち着いた、しかし真剣な声で油断なく李依の疑問に返答した。

「確かに戦場でいち早く敵の数を減らすことは確実な勝利への道だ。
でもただ突っ込んでもいたずらに兵を失うだけ。罠の可能性も考えなければ駄目だ。弱った敵兵が討ち取れる範囲に居たときなんかは、特にそうだね」
「あんた、分かりやすい餌に釣られすぎなんだよ。罠かもしれない、って考えなかったの?」

畳み掛けられる二人の台詞、いつかも言われたそれを聞きながら、現状を分析する。
攻撃を仕掛けたのはこちらのはずなのに、一撃を入れられれば倒せるほどまでに弱っていたのはあちらのはずなのに、なぜ。
ルフレの魔道の届く範囲ではなかった。まして伏兵がいたわけでもない。そこにいるのは瀕死に近い弓兵ひとりだけ。
体力が万全なペガサスナイトが一撃でやられるなんて、それこそ相性の悪い弓で先制されなければ倒されるはずが……。
思考している間に、矢は今度こそこちらに向かって放たれんとしている。

「もし李依が本気で僕に敵対するつもりなら……差し違えてでも止めてあげる」

その姿を見て走馬灯のように脳裏に走ったのは、先日のタクミとロンクーの鍛練。会得した技術。見逃していた彼の能力。遅すぎた答え合わせ。

「ペガサスナイトの攻撃を……待ち伏せて……」
「そういうこと」

ルフレの登場に気をとられ過ぎていた。あのタイミングでの登場は偶然ではない、図ったもの。手数の多いこちらを正攻法では倒せないと踏んで油断させるための──。

視線が交差する。
強い意志の瞳に真っ直ぐに射抜かれた。

「李依、」

名を呼ばれ、蓋をされていた感情が揺れる。
微かに揺らいだ心を見透かしたように彼は口元を緩めた。何かを告げるために、唇が動く。

好きだよ

声は鳥の羽ばたきが掻き消して、矢が放たれる。清らかな風と可視の光を纏っていた。襲ったのは痛みではなく、浮遊感。
身体は射抜かれた巨鳥と共に落ちていく。極力感情を排除された思考が冷静に“命の危機”と判断する。
されるがまま重力に引き摺られる体を、新たな羽ばたきの音と共に何かが横から拐った。

「はいっと。完璧に救出成功ー」

そこまで認識して、意識を手放した。