次に会ったらそのときは



(視点・タクミ)






李依が来ない。

鍛練中ときどき振り返っては背後を確認するが、本を開いて黙読するいつもの姿はない。一度、立て掛けてある矢筒を李依だと思ってぬか喜びしたのはタクミ本人しか知らない黒歴史だ。李依が来ないのはこれで二日目になる。
的に向かい矢をつがえながらも、タクミの意識は別のところに向かっていく。


──知らないの?努力だって才能なんだよ。

最後に会ったとき、李依の様子はいつもと違っていた。
いつも従順で明朗な振る舞いをする李依が、とげのある言葉をタクミに向けたのはあれが初めてだった。


──じゃあそれすら出来ない私ってなんなの。


暗い影を落とす視線、卑屈な科白。タクミはよく知っていた。ひどく身に覚えがあった。他者を羨んでやまない、己が無力でならないあの感情。
あれは嫉妬だ。あれは劣等感だ。

自分が今まで誰かに向け続けてきたその感情を、初めて自分が向けられたのだ。

タクミは思う。
李依が劣等感を持っているなんて気付かなかった。素直に僕の技量を認めて賛辞を贈ってくる彼女に、嫉妬なんて感情があるとは知らずにいた。今まで李依の明るい面しか見たことがなかったから。
そう、知らない。僕は李依のことを何も知らない。
──知りたい。
何を考えて、何を見て、どう感じているのか。僕のことをどう思っているのか。

初めて会ったときには理解しがたい人間だと思っていたけれど、もしかしたら僕たちは似た者同士なのかもしれない。

「……会いたいな」

本音は口から零れていた。無意識の言葉を耳が拾い、納得する。
会いたい。会いに行こう。彼女が熱心に通ってくれた、この鍛練を終えてから。
画期的な思い付きのような、道が拓けたような感覚に視界と思考がクリアになる。相対する的へ、容易く心中を撃ち抜いた。

次に会った時はもっと話そう。どんな話をするんだろうか、どんな表情をするんだろうか。
もうもやもやとした気分を抱える必要はない。答えは分かりきっている。
僕は李依の事が。