「あらん、いきなり洗脳しないなんてヴェロニカ皇女は優しいのねえ」
現れた敵は二人。両者とも戦う力がある。逃げ切れない。逃げ切れる筈がない。
彼らが私に求めるのは敵の能力を見抜く目。
なら、おそらく私が殺される事はない。洗脳という物騒な言葉から、命以外無事でいられる保証はないけれど。
この場から逃げ切れない。選択肢はひとつだけ。……この誘いに乗るしかない。
せめてもの悪あがきに、不利ながらも交渉を口にする。
「……分かりました。でもひとつだけ」
「ほう」
「呼び出した召喚師を還すための術……その片割れを探してください」
「へえ?」
「……わかった」
ヴェロニカ皇女が頷き、なおもじっと私を見つめている。
幼い顔立ちに浮かべた物憂げな表情。アンバランスな雰囲気に胸がざわめいた。庇護欲めいた何かが私の中で疼いていた。
「おいで……李依」
掛けられた言葉に今度は抗わない。伸ばされた腕の範囲に入れば、そっと抱き締められた。目眩がするほど細く、柔らかく、か弱い。
「この子、いじめがいがありそうね。あとで私に遊ばせて下さらない?」
「……だめ」
「ふうん、残念……じゃあ」
こつん、と頭に軽く杖を当てられる。
「おやすみなさいね、李依」
急激な眠気。立っていられずに膝をつく。
ヴェロニカ皇女に抱き締められたまま、意識は途切れた。