目的を忘れてタクミを褒めちぎる



召喚されて早々殺されかけるという衝撃的無様な私の命を助けてもらってはや数日。
私の命の恩人ことタクミくんが早朝からここで鍛練をしていることを知ったので改めてお礼を言っておこうと弓道場に赴いた。アスク城屋外にある弓道場は、城という西洋文化があるわりには日本で見るような様式と相違無い空間だった。違和感もあるし不思議だが、英雄を迎えるのにあたって不自由無いように色々と気を遣っているのかもしれない。
広い弓道場には彼一人しかおらず、広い板の間には彼の凛とした姿勢と引き絞られた弓のふたつだけがあった。
漂う緊張感に、吸った息が止まる。

トッ、という軽い音がして、それが的中の合図。
幾重かの白黒の丸い的、その一番小さな黒い丸の心中に矢が突き刺さっている。内心で「おおっ」と感激。
しかし彼は喜ぶ事なく冷静に次の矢をつがえていた。しばらくの静寂のあと、二度目の射出。
二本目の矢は一本目の矢と寸分違わぬ位置に突き刺さった。……先に刺さっていた、一本目の矢を割って。
それを認識した瞬間、潜めていた声を思わずあげてしまう。

「おお!?すご!!」
「うわ!?……って、あんたこの間の?」
「あ、その件はどうも……じゃなくて!矢!すごいですね!」
「……何が言いたいのかさっぱりなんだけど?」
「二本ともど真ん中ですごい!」
「見てたんだ。別に、こんなの大したことじゃない」
「いやいやいや……」

いやいやいやいや。全力で手を振って“大したこと”アピールを示す。
同じ枠内などではなくぴったり同じ位置に射って見せたのだ。これが大したこと以外の何物だというのか。十二分に人間離れしている。

「調子がいいときは継ぎ矢なんて珍しくないしね」
「そうなんだ!?あんなに遠いのにすごい……。銃みたくスコープもない。ってことは目も良いんだ」
「まあね。そうじゃないと狩りに困るし……ってちょっとどこに!」

タクミくんの焦る声を背に、板の間から降りて的の元へ駆け寄り、改めて間近で射られた的を観察する。矢はやはり、測ったかのように精確に心中に刺さっていた。
そしてその的の下には一本目に射られた矢が落ちている。二本目に割り込まれたために、矢尻から羽まで定規でひいたように綺麗に二等分されていた。さけるチーズに負けていない。
シンジラレナーイ……。エセ外国人になって感嘆していると、追いかけてきたらしいタクミくんが呆れたように問い掛けてきた。

「そんなに珍しい?」
「少なくとも私は初めて見たよ。本当にびっくりした!あなた、すごいんだね!」
「な……」

感激のあまり率直すぎる感想になってしまったが、どうやらダイレクトすぎる賛辞は彼の照れキャパシティを突き抜けたらしい。
目を見開いてしばし私を凝視したあと、赤い頬をごまかすように咳払いをして「で」と話を切り替えられてしまった。

「あんた何しに来たんだよ」
「……。何しに来たんだっけ?」