シャロン、アルフォンスと武器庫前



「李依さんっ!」
「おわ!」

軽やかな声と一緒に、背中にそこそこの衝撃。
煌めくブロンドに緑の瞳、人形のような要素を持ちながら親しみやすい雰囲気の女性。数日前に自己紹介しているはずなのだが、出会い頭に突進されかけた印象が強すぎるせいで名前が思い出せない。

「びっくりした、えっと…」
「えへへ、あなたのシャロンです!
すみません。李依さんを見かけたのでつい話し掛けちゃいました!」

嬉しそうに背中に抱き着いてぐりぐりと額を寄せるシャロンに人懐こい犬の幻影を重ねる。この髪色だとゴールデンレトリーバーだろうか…。

「こら、シャロン。李依が困っているだろう」
「お兄様!ごめんなさい。李依さんとは召喚の儀の日に少ししか話せなかったので」

お兄様、と呼ばれた青年がさらに現れる。彼とは一度くらいは話している筈だが、やはり名前が分からない。

「私なら大丈夫なので。えっーと…アル…アル…?」
「アルフォンス、だよ」
「そうだ、アルフォンス」
「ところで、李依さんはどうしてこんな武器庫の前にいるんですか?」
「えっ。武器庫?」
「もしかして迷ったのかい?」
「…あはは…」
「広いですもんねー。最近も誰かがひとり行方不明になったってウワサもあるくらいですし」
「そうなの…?」

なにそれこわい。

「…それで、アルフォンスとシャロンはどうしてここに?」
「武器庫に何か使える武器が無いかと思ってね。英雄たちの持つ神器には到底及ばないけど」
「私はその付き添いです!」
「じゃあ私はさらにその付き添いで!」

手を上げたシャロンに倣って勢いよく宣誓。つまり迷子になったから一人で帰れないだけなのだがとりあえず胸を張る。

「ふふ」

なにやら笑われたのでそちらを向くと、アルフォンスが口に手を当て、微かに笑っていた。
彼はどこか不安げ……というか、どこか思い悩んでいるような面持ちが第一印象だったから少し驚いてしまう。アルフォンスは口許に笑みを浮かべたまま続ける。

「本当に……召喚されたのが君達のような人達でよかった」
「……」

その言葉には量り知れない安堵が込められていた。
召喚ではどんな人間が来るのか選べないし、分からなかったのだろう。絵倉くんが召喚師として最初から決まっていたのか、それとも偶然選ばれたのかはわからない。いざ召喚してみたらとんでもない人格破綻者だったかもしれないわけで。
どんな人間かは分からない、でもその人に国の命運を託すしかない。そんな危険を冒してまで召喚師が必要な状況に追い込まれていたと。

「……大変だったんだね。私は絵倉くんのオマケだけど、雑用はするから遠慮なく言ってね。アルフォンスとシャロンは王子さまと王女さまなんでしょ?」
「オマケなんかじゃありませんっ!」

突然張り上げられた声。あっけにとられていると、シャロンは両手で私の手を握った。初めて会ったときのように。

「わたし、李依さんにあえてすっごく嬉しいんですよ!だからオマケじゃありません」
「そ……そうかな?ありがと……」
「そうです!だから王女とか関係なしに、わたしと仲良くしてください」

怒ったように大声を上げたかと思えば、心底嬉しそうにはにかむ。コロコロと変わる表情は彼女の素直さを表していて、とても好ましく思えた。

「君はもうヴァイス・ブレイヴの一員だ。君が負い目に思うことは何もないよ」

そしてアルフォンスの穏やかな声。微笑みを返す。

「気を遣わせちゃったね。…よろしくね、シャロン、アルフォンス。
私達もあなた達みたいな人に召喚されて幸運だと思うよ」