思い出になりますように(キサラギ、タクミ)





キサラギくんを元の世界に帰すことが決まった、アルフォンスとの話し合い。
そのことを本人に伝えるべく、私とタクミくんはキサラギくんのもとを訊ねた。

「父上ー!李依ー!」
「うぐっ」

出会い頭にキサラギくんが抱き付いてくる。衝撃はそこそこ。
従順な弟がいるとこんな感じなのだろうかと、役得気分で私の服に埋もれた頭を撫でる。タクミくんと同じ色の髪は幼子特有の柔らかさをはらんでいた。

一応は自分の息子の行動が気になるのか、視界の端でやけにそわそわしている人が居るが、気にしないで撫で続ける。

「母上……」

甘やかす私を母に重ねたのだろうか。くぐもって聞こえてきた呟きは寂しげだった。
明るく振る舞っていてもやはりまだ幼い子供。親元が恋しいに決まっている。
頭を撫でながら、訊ねる。

「元の……お父さんとお母さんの所に帰る?絵倉くんならそれができるよ」
「……父上も母上も、滅多に会えないんだ。ここでなら父上にいつでも会える。それに僕、父上の力になりたい!」
「キサラギくんは健気だね」
「けなげ?」
「すごく良い子ってこと。褒めてあげる。ほらほらー」
「うわっ!あはは、髪がぼさぼさだ!」

さて、ここからが本題だ。

「でもね、キサラギくん。やっぱりキサラギくんはまだまだ大人になる途中。
そんなキサラギくんが怪我したり、痛い思いをしたなんて知ったら、君のお父さんやお母さんはどう思うかな」

私の問いに、キサラギくんは少し間を置いて。

「すごく……悲しむと思う。僕が戦いに巻き込まれないように、父上と母上は僕を秘境に残したから」
「うん、賢い子だ。さすが、タクミくんの子供だね」
「えへへ」






────




抱き合って言葉を交わす二人の声量は落ち着いていて、少し離れた位置で見守るタクミには聞こえない。
優しく頭を撫でながら諭すように問い掛ける李依の姿。キサラギと接する時に見せる、その穏やかさはタクミの心を一層ざわめかせる。
と、話はついたらしい。二人が揃って近付いてくる。

「というわけでタクミくん」
「というわけで父上!」

キサラギの背中をずいっと押して李依は笑った。先程の雰囲気はどこへやら、いつもの朗らかな李依だ。
タクミは突拍子もない台詞が出てくるのを察した。

「この弓の才溢れるかわいいキサラギくんに一言!」
「は?あんたはまた……」
「いいから!」
「……まあ、弓の扱いは悪くないんじゃないか。まだまだ改善すべきところはあると思うけど」
「あ、すごいよキサラギくん。これ最上級の誉め言葉だよ、やったね!」
「うん!父上は素直じゃないからね。やったー!」
「いえー!」
「わーい!」

率直な賛辞を贈るのが癪だったから、ついひねくれた言い回しになってしまった……のを見透かされていた。
喜ぶ二人の前で、タクミはその羞恥に耐える。

「二人ともなんでそんなに息が合うんだよ……!」
「えへへ、きっと僕も李依も父上が大好きだからだね!」


──キサラギの母親は、きっと素直に違いない。
躊躇わずに好意を口にして、僕を慕ってくれる。そう、きっと李依によく似た。