送還後





いつもの弓道場、いつもの通り僕の鍛練を見に来ていた李依は何度目かの大きなため息を吐いた。勉強用の本を膝に置いているが、頁はちっとも進んでいない。

「キサラギくん、帰っちゃったねー……」

短い間で李依に懐いていたキサラギ。懐かれていた李依も満更ではなかったらしい。
あんたがキサラギにかかりきりで僕は面白くなかったけど、という感想は子供過ぎるから飲み込んだ。
いろいろと騒がしかったおかげでこちらは最近落ち着いていた夢見がまた悪くなったのだ。

「そうだね。これでやっと鍛錬に集中出来るよ」
「またそうやって素直じゃない言い方する。
私を見つけると嬉しそうに名前呼んでくれて、しかも笑顔で後ろをついてきてくれて……ひよこか子犬みたいで可愛かったのに」

そういうやつ、僕の周りにも一人居るけどね。