不要な茶番は不可分の楽






タクミの息子を名乗る少年、キサラギが現れたその数日後。
キサラギを取り巻く周囲の人間は、頑なに息子の存在を否定するタクミと、情報を見抜く目を持ち、確実に父子関係であることを認める召喚師とそのオマケの二派に割れていた。
このままではエンブラとの戦いに支障が出かねないと危惧したアスク王家の兄妹たちは調査を開始。その結果、息子非息子論争に終止符を打つ情報を得ることが出来た。

アルフォンスは目的の部屋の前までに辿り着くとノブに手を掛けて押し、

「いい加減認めてよ!キサラギくんはあなたの子よ!」
「だから、僕の子じゃないって言ってるだろ!」

開け掛けた扉を、そっと閉める。
なんだかものすごく聞いてはいけない会話を聞いてしまった。

「ちょ、ちょっとお兄様!なんで閉めちゃうんですか!タクミさんに情報を伝えに来たのに!」
「あ、ああ。すまないシャロン……つい……」



――



紛らわしい会話を乗り越え、一同はテーブルに着く。

「彼……キサラギのことがわかった。彼は間違いなくタクミ王子の息子だよ」
「やっぱり──」
「待て──」
「待ってくれ、話はここからなんだ。タクミ王子の息子であって、タクミ王子の息子ではないかもしれない」
「……ええと?」
「……つまり、どういうことなんだ」


そこからのアルフォンスの説明は、要点をかいつまんだ解りやすいものだった。しかし突然始まったSFチックかつ壮大な話に頭がフリーズしていた李依は、一回で話を理解したタクミの解説も交えて二回目の説明でようやく納得した。
確認のため、タクミは繰り返す。

「……つまり、エクラが召喚する英雄はあらゆる世界のあらゆる時間軸のうちのひとりでしかないってことだよ」
「今回召喚されたキサラギくんは、ここにいるタクミくんとは異なる世界にいるタクミくんの子供……ってこと……?」
「そういうことだね。もちろん、ここにいるタクミ王子の未来の子である可能性もあるけど」
「今の段階では違うってことだろ。それだけわかれば十分だ」
「パラレルワールドかー……」

無数にある分岐点の分だけ枝分かれし、無限に可能性が広がる。途方もない話だ。

「李依さんの世界では異界のことをパラレルワールドと言うんですね!」
「私の世界ではパラレルワールドが本当に存在するか証明されてないけどね。 でも、そっか。タクミくん嘘は言ってなかったんだ」
「……あんた、本当は最初から分かってただろ」

じとりとしたタクミの視線を受け、李依は眉尻を下げて白状する。

「タクミくんが嘘ついてないんだろうなっていうのはなんとなくね。
でもタクミくんがあんまり否定するから、つい面白くなっちゃって。ごめんね」
「あんたはそういうやつだよ……」

一連の疑惑は、タクミの深いため息で幕を閉じた。
李依がタクミとの茶番を終えて向き直るとアルフォンスと目が合った。視線を動かしたときに目が合った、ということはもともと見られていたと言うわけで。

「……」

顔をしかめた表情は苦しそうで、何かを言いたそうだ。

「アルフォンス?」
「え……ああ、すまない。それでエクラと相談したけれど、やはり彼は元の世界…元の時間軸に還した方がいいという話になった」
「まあ、まだ子供だからね」

李依から顔をそらし、アルフォンスは説明を続ける。しかしあの辛そうな表情の理由は分からず、李依の心に不穏な引っ掛かりを残した。