父(暫定)の心は複雑






「やったー!的中!」


悔しいけれど、僕に子供ができたら射法をきっとこう教えるだろうと言う部分をキサラギは押さえていた。
けれどキサラギが僕の息子だと認められない理由がある。そのうちの一つは──。
横目で李依を見る。いつも持ち込んでいる本は床に置いて、食い入るようにキサラギを見つめていた。その様子がおもしろくなくて、すぐに視線を戻す。

キサラギが本当に僕の子供だったとして。
キサラギは李依の事を知らなかった。それはつまり。

「ねえ、タクミくん」
「……なんだよ」
「やっぱりあの子はタクミくんの子だよ。弓を射る時の真剣な表情、雰囲気……すごく良く似てたもの」

ぶわりと吹き抜けた風のまま流れようとする髪を抑え、李依は眩しそうにキサラギを見る。
溢れる優しい微笑み。僕よりもずっと保護者のようで。
同時に恥ずかしくもある。キサラギが僕と似ていると言ったのは普段から僕を良く見ているという証だからだ。どんな風に見ていたのだろう。あんな優しい瞳を、僕にも向けていたのだろうか。
胸が締め付けられる気がした。心臓が、少し苦しい。この感覚を知っている。ずっと、忘れていた感覚。

射終わり、パタパタと李依に駆け寄ったキサラギは李依に褒めちぎられて嬉しさのあまり抱き着いていた。まるで姉弟か母子だ。
優しくキサラギに接する李依はいつもより大人びていて、それもまたどきりとさせられる。今なら無邪気にじゃれつくキサラギの事を受け入れる事が出来る気がする――。

キサラギが李依に抱きついたまま僕を見た。満面の笑みで言い放つ。

「父上!僕、李依と結婚する!」
「え」
「は!?」

やっぱり、無理だ!