待ちぶせ修得



クロム。記憶喪失のルフレを拾った、お人好しの王様。実際に会っても聞いていた話に違わない好青年だった。
ルフレが術師だから前衛と後衛でお互いをフォローしあういいコンビなのだろうなと勝手に想像していた。
……その二人は今、私の目の前で鍛練用の木刀を持って打ち合っていた。

渇いた打突音を聞きながら、やや遠くを見る。

「ルフレ……剣術も出来たのか……」

初対面が書庫だったことや魔道で戦うと聞いていたことから、勝手に非力な文系なのだと思い込んでいた。
一方で私と同じように鍛練を見学していた絵倉くんが納得した様子で頷く。

「そういや後衛にしては守備が固い気はしてた。通りで」
「本当に才能の塊みたいな人だな、ルフレ……」

魔法もできる剣も出来る軍師もやる、戦争は彼一人戦場にほっぽり出すだけで終わるんじゃないか。
そんな事を考えつつほうっとため息を漏らすと、絵倉くんの逆隣で同じく見学していたタクミくんはなにやらカチンときたらしい。むっくりと立ち上がって。

「……僕もやる」
「えっ。お?タクミくん無茶すんな!弓兵でしょ!?」
「そこらの凡兵には負けないくらい、僕だって剣術の鍛練はしてる。ルフレにだって勝って見せるさ」
「お、タクミもやるか?色んな人間と手合わせするのはいいぞ。経験になる」
「言われなくてもやってやる。負けても悔しがらないでよね」
「クロムがガソリン注いだ……」





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「……騒がしいな。出直すか」
「あ、ロンクーさんだ」
「!!……お前もいたのか。……なおのこと出直すか」
「ひどい!」
「ロンクー、お前もやるか?」
「いや……俺は後で良い」

女性が苦手だというロンクーさんの中で、私はさらに苦手な部類に入るらしい。ぎょっと後ずさった失礼なロンクーさんに後で不意打ちで抱き付いてやろうかと画策していると、タクミくんが口を開いた。あの生意気な口調で。

「逃げるんだ」
「……何?」
「普段弓を使ってる奴に負けるのが怖いんだ。だから逃げるんだろ?」

あまりに単純な挑発。しかし男と言うのは挑発されたら後には退けない生き物らしい。

「……良いだろう。相手をしてやる」
「タクミもロンクーにガソリン注いだぞ」
「絵倉くん止めてよ召喚師でしょ」
「李依も止めてくれよタクミと仲いいだろ」
「いや別に。私が勝手に付きまとってるだけだから」
「妙に客観的になるのやめてくれ」






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「フッ……やるな。正直、甘くみていた」
「あんたこそ……いい技を見せてもらったよ」

全力で稽古し合った結果、最終的にタクミくんとロンクーさんの間には妙に爽やかな友情が芽生えていた。男の人ってよく分からない。