手練手管の撫でパルレ






ニノには、血の繋がらないけれど大切な兄達がいるらしい。
にいちゃんと呼び慕うその兄達に何かしてあげたい、なんてとんでもなく殊勝なことを言うので、いつか召喚されるかもしれないその二人に備えて、ニノと一緒にお菓子作りを練習することにした。
女性の方のルフレを誘おうか迷ったが、いつかの鋼味のお粥が頭を過ったので止めた。性別は違うけれど、味覚は共通な予感がしたのだ。その判断が正しかったと判明するのはまだ先の話だ。



……結果、大量に作りすぎてしまった。
アンナさんやルフレ達にもて余したクッキーを配ったりして、それでも余った瓶詰めクッキー。乾燥剤などあるはずもなく、早いうちに食べないとなあと考えながら城内を歩いていると、見知った姿を見つけたので駆け寄る。


「カムイー!」
「李依さん?」
「お疲れさま。ニノと一緒に練習したものだけど、作りすぎちゃって。良かったらこのクッキーあげる」
「わあ……!いいんですか?ありがとうございます!」
「余り物だけどね。味は保証するよ」
「いいえ、それでも嬉しいです。よろしければ、私の部屋に来ませんか?お礼がしたいんです」

お礼をするのに部屋に呼ぶ?お返しに、何かくれるのだろうか。





──



ソファ──ではなくベッドに座るよう促され、その隣にカムイが座る。心なしか自慢げなのは目の錯覚ではないだろう。
怪訝に思って「えっと……?」とハテナを浮かべれば、カムイはぽふぽふと私の頭を撫でた。ん?

「あの、これは……?」
「わたし、子供の頃からこうして誰かに頭を撫でて貰うのが好きだったんです!
頑張って描いた絵を見せた時、花冠をプレゼントした時、初めて作った料理を食べてもらった時……褒められて頭を撫でて貰えてすごく嬉しかったんです。
だから、李依さんにも頭を撫でて差し上げたくて……」

言いながら、カムイは私の頭を撫で続ける。
頭の天辺を丁寧に撫でたかと思えば、輪郭をなぞるように滑り落ちる。普段剣を握っているのに彼女の手はなめらかで柔らかくて、肌に触れられるとちょっとこそばゆい。カムイは鼻歌でも歌いそうな上機嫌だ。
私だって記憶に無いくらいには頭を撫でられたのは遠い昔。どんな顔をしてそれを甘受すればいいのか分からなくて、目をつむった。
無垢な王女に、こちらの心まで柔らかくなる気がした。

「──ひゃああっ!?カムイ、唇はくすぐったいって!」
「あれ?そうでしたか?」


イケナイ扉を開かれる前に、撤退した方がいいかもしれない。