呼び方





「呼び方と言えば……大体、なんであの軍師は呼び捨てなのに僕は君付けなんだよ」
「あの軍師ってどの軍師?」
「ルフレだよ」
「ええ……呼び方の格差が気に入らないの? 分かった仕方ない、じゃあルフレくんで」
「今の流れでなんでそうなるんだ!」
「ワガママだな〜。ルフレだって最初は先生って呼びたかったのに本人がそんな性じゃないっていうから仕方なくなんだよ?」
「じゃあ僕も呼び捨てでいいだろ。なんで僕は君付けなんだ」
「うーん……。タクミって名前は私の住んでた国にもよくあるから呼び捨てだとちょっと恥ずかしいんだよね。英名よりもずっと親しい感じがするから」
「へ、へえ。恥ずかしいんだ……」

予想外に李依の口から飛び出した、少なからず異性として意識しているらしい台詞。タクミはまんざらでもない気がして頬を掻く。
李依は続けた。

「なにより、タクミくんってちょっと小生意気な弟っぽいから」

頬を掻く指が止まる。

「君付けして自分より格下感を出したい。」

止まる。
普段は本気で怒られない境界を小賢しく見極めてその手前でコサックダンスを踊る李依だったが、この時はタクミの意図しない誘導尋問によって怒りのラインを軽々と幅跳びしていた。
そして着地先で彼の繊細なプライドを靴底で踏み潰している事にまだ気が付いていない。

「へえ、格下ね……そんな風に見てたんだ」

あ、やばい。
数段トーンの下がった声に、李依がようやく危機を覚えた頃にはもう遅い。邪悪なオーラを纏っていると錯視するほどに不機嫌を醸し出したタクミが出来上がっていた。李依は察する。あ、これラスボスだ──と。

「い、いやこれは語弊が!話せばわかる!」
「そう言えばあんた、文字が読めるようになりたいって言ってたよな?僕も教えてやるよ。
……ルフレよりも少し厳しいかもしれないけど」
「絶対スパルタでしょ!!」