依頼人あらわる





「李依、その服…」

衣裳の贈り主であるタクミくんは驚いたように瞬きをした。
どうやってお礼を言おうか、今更改まってお礼を言うのも照れくさいしな……なんて考えていたのだが、その顔を見た瞬間、必死の思いで助けを求めたのにあっさりとオボロに売り渡された記憶が蘇る。
服を仕立ててもらうことを前もって言ってくれれば、あの恐怖の鬼ごっこをしなくて良かったのに。恨みを込めて半眼になる。

「…タクミくんの裏切りのおかげで無事入手出来ましたよ」
「いいんじゃない。似合ってる」

彼の口からさらりと出てきた褒め言葉。
らしくなく口元が優しげに緩んでいたものだから、一気に恥ずかしさが湧き上がった。行き場の無い照れを、タクミくんの二の腕の辺りをバシバシ叩いてぶつける。

「うわっ、いたいって!」
「そんな風に褒めたって、オボロに私を売ったの忘れてないんだからな!」
「いてて…オボロといえば、ヒナタはどうしているかな…」

ヒナタ、聞き馴れない人物の名前だ。やはり和風なその固有名詞。もとの世界での知り合いだろう。

「タクミくんの友達?」
「ああ。ヒナタはオボロと同じで僕の臣下だよ」
「へえー、臣下かあ。」

臣下、臣下ねえ。
のほほんと会話を流して数秒後。聞き捨てならない単語に目を剥く。

「臣下!?」
「うわっ、いきなり大声出すなよ。びっくりするだろ」
「臣下ってあの、偉い人に仕える臣下?タクミくん臣下持てるほど身分高かったの?」
「…まあ、一応王子だけど」
「王子ぃ!?」
「な、なんだよ。僕が王子だったら悪い?」

頭の天辺から爪先までじいっと見つめる。むすっとしたへの字の唇、不服そうな目付き。それらが作る表情は、年相応の(元世界での外見基準を考えなければ)どこにでもいる青年に思えた。

「…意外。」
「悪かったな意外で」
「ああ、ごめん。私の所だと王子様って白馬に乗ってお姫様を迎えに来る金髪イケメンって相場が決まってるからつい」
「なんだよそれ?李依の所はジドウシャっていうカラクリがあるんだろ」
「車に乗って迎えに来る王子様は俗的過ぎるからちょっと嫌だな……。
あ、でもアルフォンスも王子だっけ?そう考えると王子も結構親しみやすいものだね」

改めて、喚び出されるのは本当に貴族王族ばかりだと認識。
それでいて皆傲らずに接してくれるのだから、金の余裕は心の余裕なのだろうか、などとひとりごちる。目の前の彼は、あまり心の余裕はなさそうだけれど。
首を傾げて問いかけてみる。

「今まで不敬すぎた?タクミ様って呼んだほうがいい?」
「いいよ、今まで通りで。いまさらあんたにそんな風に言われても調子が狂うだけだ」
「ありがとう。私もその方がやりやすいよ」

のほほんと返答したら、タクミくんは小さくため息を吐いた。

「あんたは暢気でいいよな」

……タクミくんの中で、私はどんどん能天気キャラにされている気がする。










→マルスが召喚されたら


「ま、まぶしすぎる…あの王子様オーラ…」
「…王子は親しみやすいとか言ってたくせに」
「いやこれ別格」