ルフレと立ち話



「ルフレ!おはよう」
「李依じゃないか。おはよう。体はもう良いのかい?」
「もうばっちり。自習以外やることなかったし、簡単な絵本くらいなら読めるようになったよ」
「それは良かった。きみは飲み込みが早いから、すぐ他の本も読めるようになるよ」
「ルフレ先生のおかげだね、感謝感謝。
まさか異世界で新しい言語を学ぶことになるとは思わなかったけど…」
「いくつになっても、どこにいても新しい知識は興味をそそるよね。僕もここに来て様々な文献を借りているけど、やっぱり楽しいよ」

そう言うルフレの手には、新しく借りてきたらしい分厚い本。古めかしい装丁は見るからに難しそうな内容だとわかる。それが三冊。圧倒的文量を思うだけでこちらがげっそりしてしまう。

「ルフレって知識ジャンキーだよね……」
「そうかな?それと召喚の儀の事だけど、僕の方も何か見つけたら伝えるようにするよ」
「本当?ありがとう、助かる!それと訊きたいことがあって……」
「訊きたいこと?」
「お見舞いに来てくれた日、お粥持ってきてくれたでしょ?そのあともう一回来てくれたりした?」

いまだに私の部屋にお見舞いにきて濡れタオルを置いてくれた人物は分からない。
もしかしてルフレじゃないか?という可能性を感じて訊いてみたけれど、彼は首を傾げた。

「いや、あの後は行っていないけど。どうしてだい?」
「誰か濡れタオルを置いてくれたみたいなんだけどその時私寝ちゃってて。
聞いたことある声だったから、誰かなあと」
「……聞いたことのある声」

口許に指を宛がって、ルフレは推測する。やがて口を開いた。

「僕の読みが正しければその人物は……。いや、やめておこう。きっとその人物は、あえて名乗らないんだと思う」
「あえて?なんで?」
「そうだね……恥ずかしいから、かな?」

ルフレはお見舞いにきた人物の見当がついているらしい。
お見舞いにきたことを隠したがる人。そんな人がこの城にいただろうか。謎の人物が余計分からなくなってしまった。